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(貧乏)男爵令嬢エムリーヌ・ホルベインの結婚~ワケアリ伯爵様と結婚することになったのですが私もワケアリなので溺愛はいりません~   作者: 澳 加純 


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44. 攻防戦、始まる!

 まずはお客様や芸人、子供たちを広間の奥に移動させ、椅子を積み上げバリケードを作り、そこからむやみに動かないようにと指示をいたしました。

 新館から避難してきた侍女たちに、毒ワインに当たった傭兵たちの看護や、お客様方の世話を任せることにいたしましょう。

 使用人と下女たちに、大扉以外の窓や出入り口の戸締りを確認に行かせます。非戦闘員を多く抱えているのですから、館内に入りこまれたら応戦ができません。少数の傭兵たちと、毒に当たった者たちが多少でも戦力回復するまで持ち堪えるには、この旧館の頑丈さが頼りだと云っても過言ではありませんもの。


 それからゼフラ中隊長に、現在戦闘可能である傭兵部隊の隊員の人数と、使用可能な武器の数を調べていただくことにします。幸いにも、この大広間の下が厨房ですから、水と食料が十分にあるのは心強いですわ。

 伯爵様やタビロ辺境騎士団に救援の知らせを走らせているとはいえ、到着するまで(わたくし)たちでこの場を持ち堪えられるか否かは賭けみたいな確率なのです。


 基本戦い方において、籠城戦は守る側に有利な戦法です。ただ今回の場合、彼奴らの動きに気づくのが遅れたため、天然の防御濠であるはずのロディー川とイゴール川の内側にまで侵入されてしまいました。

 本来であればこちらがイロット橋を通行不能とし(そのための跳ね橋構造!)、守りを固めるはずであったのです。ですが反対に橋を落とされたために、援軍の到着を困難にされたばかりか、賊らに最終防御線のギリギリまで入り込ませてしまったのです。不覚としか言いようがありません。しかもこちらは手薄。

 冷静に考えたら絶対分が悪いですわね。とにかく、どうにでも、最悪の事態だけは避けなければなりません。


 中隊長と相談して、動ける傭兵の半数を旧館の警護に、半数は新館の周囲を警備、まだパトロール先から戻らぬ者たちは状況に応じて応戦してもらうことにしました。傭兵たちは各々が戦いのプロです。細かい指示を出すより、報酬を確約したのちは、フレキシブルに動いてもらった方がよいかもしれません。


 旧館の警護に避ける人数が減ってしまったこともあり、フラヴィの指示で大広間の両開きの扉は、伝令が出入りするスペース分を残して、右側半分は閉じられました。イサゴと使用人たちが協力して、閉じられたドアの裏側に昼餐会で使用されていた長テーブルを押し付け、さらに壁に掛けられていたタペストリーを剝がして丸めた即席の重しを乗せました。重しは築いたバリケードが簡単に破壊されないように、です。

 万が一、敵が建物内へ侵入して大広間へと押し寄せてきた場合、このバリケードが最後の砦となるのです。そんなことになりたくはありませんけど。


 コルワートは急ぎ厨房に戻り、手の空いた下女たちと湯を沸かしたり、長期戦に備え食料や薬品・リネンなどの点検をしております。裏口が破られぬよう、補強もお願いしました。


 あとはどうすればいいのでしょう。騎士といっても、まだ新米であった私は経験不足です。タビロ辺境騎士団のキャンデル隊長は、一朝有事の際にどう行動していたっけ。

 思い出せ……。


 私は天井を見上げました。古い造りの旧館の大広間は大きな窓はありません。要塞のように、天井近くに明かり取りの窓があるだけです。タペストリーが取り払われ、むき出しになった石の壁は分厚く、敵の攻撃にも耐えてくれるはず。海賊や山賊は奇襲攻撃を得意としていますから、まさか大掛かりな攻城兵器まで持ち出してくるとは思えません。が、油断は禁物ですわね。


「ねえ、フラヴィ。旧館(ここ)が包囲されたら、あの明り取りの窓から相手側に矢や石弓を打ち込むことってできないかしら」

「矢狭間の代わりってことね」


 すると、この会話を聞いていたお客様方の中から有志が現れました。多少でも腕に覚えのある者、力自慢の者たちが、手伝いを申し出てくれました。そして、なんと子供たちまで。武器を取ることはできなくても、物資の運搬やら看病の手伝いならできると言うのです。

 

「お願いできまして?」


 私はその申し出をありがたく受けることにいたしました。

 

 



 そこへ新たな知らせが入って参りました。


 海賊山賊連合軍が、館のすぐ手前まで押し寄せてきたと言います。幸いにもこの知らせを運んできた伝令は、私とフラヴィ、イサゴだけに伝えてくれたので、他の者たちの耳には入らず大きな混乱とはなりませんでした。それでも、よろしくない知らせには変わりありません。

 ああ、でもよい知らせもありました。斥候の男(例の黄色いジャケットを着た軽業師ですわよ!)が仕掛けた筒爆弾に点火しようと新館に忍び込もうとした賊数名を、傭兵たちが阻止したそうです。新館を警備していた者たちが、奮闘してくれたとのことです。


「よくやりました!」


 思わず喜びの声が出てしまいましたが、ロラが筒爆弾を回収しておいてくれて本当に良かった。

 最悪の場合、新館の被害は致し方なしとしても、あちらも伯爵様の所有物ですから破壊されたくなどありません。

 だって、伯爵様(モリス)にいただいたドレスやら装飾品だの、壁に掛けられた先祖の肖像画や代々の当主が収集した美術品など、価値あるものは居住空間である新館にもたくさんあるのですもの。それらをみすみす破壊されるなんて、絶対許しがたいことだわ。

 賊たちは、レンブラント伯爵家の所有物はすべて破壊し尽くしたいと当然考えているでしょう。いいえ、換金できそうなものは略奪か。

 ペンデルでは、伯爵様に相当手痛い仕打ちを受けているのですもの。仕返しを試みて、此処までやってきたのよね。だとしたら彼奴らはどんな手段を使おうとしているのかしら。


 外の様子が知りたい! 彼奴等の動きは伝令が逐一知らせてくれるとはいえ、タイムラグは否めませんし、できるならじかにこの目で確認したい。

 しかし窓は高所にあり、おいそれと覗くことは叶いません。


「窓の高さまでテーブルと椅子を積み上げて、物見櫓を作っちまいましょうや。敵の動きが見えないってのは、良くありませんや。それに、援軍の到着もすぐに発見できますからね」

「コルワート!」


 厨房から戻ったコルワートは、男手を集めて、すぐに作業に取り掛かりました。ですがテーブルはバリケードにも使用しているので、足場として使えるものはほとんど残ってはおりません。3基の長テーブルを土台にしてその上に長椅子を積み、なんとか窓の高さまで組み上げて即席の物見櫓が完成したのです。


「参ります!」


 ドレスの裾をからげ櫓に向かおうとすると、後ろからフラヴィに引き止められました。


「待った! あんた、まさかその格好で櫓に登る気なの!?」

「大丈夫よ。子供の頃は、木登り得意だったんだから」

「おやめください、奥方様。危のうございます」


 イサゴからも「待った」が掛かってしまいました。でも、なにも手段を講じなければそっちの方が危ないんだよぉ。そのために敵がどんな奴らなのか、知りたいんだってば!

 ふたりの阻止を振り切ろうとする私ですが、やんごとなき貴婦人(……一応、これ私のことよ)にそんな危険なことはさせられないと、その場にいた全員が反対の声をあげるのです。

 なんと、子供たちまで。


「そうよ、レンブラント伯爵夫人が前線に出ていくことないわ! あたしが行くから、あんたはここで指揮を執りなさい」


 もう辺境騎士団の女騎士ではないのよ、身分を自覚しなさい、と厳しい表情でフラヴィが耳打ちして参りました。


「ドレスを着こなした貴婦人は、優雅にしていなきゃならないのよ。あんたに怪我でもされたんじゃ、護衛役のあたしたちは、怒り狂った伯爵様に殺されちゃうわ」


 抗議の声をあげる前に、フラヴィは櫓を登り始めていました。追いかけようにも、イサゴにがっしり腕を掴まれてしまい、私はすっかり足止めを食ってしまった形です。昇っていく彼女が体重を移動する度に、にわか作りで安定の悪い櫓はぎしぎしと軋むのですが、コルワートが大きな手で押さえ崩れないようにと押さえていました。

 だからでしょう、葡萄茶色の制服はもうすぐ明かり取りの窓まで到達しそうです。



 それでもひとこと言わせていただけるならば!

 伯爵様(モリス)はそんな狭量な方ではありません。



 ですが、あの場所は親友に譲った方がよさそうですね。


「エムこん」にご来訪いただき、誠にありがとうございます。


いよいよ攻防戦が始まりました。

援軍が駆けつけるのを期待して、エムは籠城戦に持ち込みました。しかし橋が落とされているので、援軍はすんなりレンブラント館にまで進めません。問題は援軍到着までどうやって時間稼ぎをするか、でしょうか。


エムも言っておりましたが、伯爵家の部下で構成された騎士団と、契約雇用の傭兵部隊では、指示形態が変わってきます。騎士団は家来ですが、傭兵部隊は金銭的報酬を条件に,契約に基づいて軍務に服する兵士たちです。エムが追加報酬を条件に入れたかもしれませんね。


イセコイジャンルでイチャイチャそっちのけで攻防の話になっていますが、次回もお付き合いいただければ幸いです。どうかよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] エムってば、さすがにドレスで登ってはいけません!(笑) 人の手があるというのは、頼もしいところかもしれませんね。みんなで手分けして、なんとか持ちこたえてほしいものです!
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