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終焉の詩姫  作者: 立川マナ
第一章
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出会い

 それは放課後のことだった。慌しくクラスメイトたちが部活へと向かう中、アンリはとんでもないことをカミングアウトしてきた。


「台本を渡しただけなのか?」


 俺がそう声を出すと、アンリはあわてて「シー!」と文句を言ってきた。

 なんと、驚いた……いや、呆れたことに、アンリは神崎カヤに台本を押しつけただけらしい。おい、あんだけ公に神崎カヤが参加するっていったのは誰だよ。


「だから、とりあえず、サクラで釣ろうかな、て」

「は? サクラ?」

「あんたよ」


 得意げににんまり笑んで、当然のように俺に指さす。って、いやいや、ちょっと待て。


「どういうことだよ?」

「彼女のところにいって、劇のすばらしさを自然に語るのよ」

「……『自然』だ?」呆れて頬がひきつる。

「あんたも映画研究会でしょ。演技はできるはずよ」

「俺がいつ演技したよ? もっぱら照明係だ」

「あら、不満だった?」

「そういう意味じゃない」


 アンリは、なんでもかんでも自分に都合のいいように解釈する。だからこその、この明るさなんだろうけど。こっちにしてみれば、迷惑この上ない。少しは、反省することを覚えてほしいものだ。


「お願い!」パンっと手をあわせるアンリ。作戦を変えたな。

「……」


 こんな馬鹿らしいことは本来なら絶対にやらないんだが。今回は、『おつかい』のこともある。アンリの遊びを最大限利用するのが利口か。


「わかったよ」


 アンリが、ぱあっと表情を変えるのが分かった。


「で、どこにいるんだ?」

「……さあ。教室じゃないかなぁ」


 本当に計画性のない……俺はため息をついた。アンリはかまうことなく、にやにやしながら手をパンパンたたいた。


「ほらほら、帰っちゃう前につかまえなきゃ」

「なんで、上から目線なんだかなぁ」納得いかないまま、アンリの言うとおり、教室に神崎カヤを探しに向かう。

「にしても、サクラとは……」よく思いつくものだ。


 神崎カヤが転入してきた隣のクラスに顔をのぞかせる。ほとんど皆、部活へとでかけていなくなっていた。


「どこだ?」


 そういえば、自分が神崎カヤの顔を知らないことをいまさら思い出す。丁度、教室から出てきたサッカー部らしき奴をつかまえ、「神崎は…」というと、そいつは呆れた顔で俺を見てきた。


「またかよ。神崎なら……ほら、戻ってきたよ」とサッカー部員は俺の後ろを、あごをしゃくって指した。

「え?」


 サッカー部員は、俺をおしのけ、なにも言わずに教室を出て行った。

 俺は、ゆっくりと振り返る。


「あ」まぬけな声がこぼれた。


 そこには、確かに、神話からでてきたかのような美しさをもった女がいた。夕方の廊下に立つ彼女は、夕焼けをあびて、より神秘的な雰囲気をかもしだしている。噂どおりの美人だ。だが、想像とは少し違っていた。俺はもっと、モデルやアイドルのような美人を想像していた。オヤジっぽい言い方をすれば『今風の子』だ。だが、彼女は違う。ルネサンスの絵画に描かれるような女神みたいだ。俺はそう思った。愛らしい丸い輪郭は、女性らしい柔らかな曲線をもっている。眉は、筆で書いた線のようにすうっと伸びて、長いまつ毛はくっきりとした目を強調している。すっきりとした鼻筋。桜を思わせる淡いピンクの唇。俺は、絵画を鑑賞するかのように、じっくりと彼女を見つめていた。これが、「見とれる」ってやつか。

 神崎カヤは、俺の視線に気づくと、立ち止まった。ひとつ、ゆっくりとまばたきをすると、落ち着いた様子で口を開く。


「週番?」


 それが、彼女が初めて俺に言った言葉だった。

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