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終焉の詩姫  作者: 立川マナ
第二章
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リストの眠気

「リスト・ロウヴァーはいるか?」


 俺は、一年のクラスをまわってはその質問を繰り返していた。こうして聞き込みのようなことをしていると、だんだんと隠れたあいつの本性が明らかになってくる。転校してたった一日なのに、各クラスで尋ねるごとに違う女子生徒の名前がでてくるのだ。「原さんのとこじゃないかな」と言われ、原さんのクラスにいけば、「中野さんと仲いいから」と言われる。それを続けて、九クラスある一年を全部回ってしまった。

 ははは。なるほど。俺があいつに会うたびに感じていた落ち着かない雰囲気。リストは、それはあいつが神の子孫だからだ、と言っていたが……それだけじゃないんじゃないか。あいつはとんでもないナンパ野郎で、俺は無意識にそれを感じ取っていたんだ。だから、俺は不快感を抱いていたんだ。そうに違いない。

 俺は、イライラしながらそんなことを頭の中で唱えていた。確かに、神の一族だけあって、リストは美形だ。きれいな顔の上に、猫っぽいかわいらしさまである。背が低いのも、そのかわいらしさのおかげで全く気にならない。逆に、かわいらしさ二割増し、といったとこだ。さらに、あの金髪と宝石みたいな碧眼。女にキャーキャー言われるのは、うなずける。

 だが……だ。あいつは、カヤを殺すためにこの高校にはいったんだろ。それで、女遊び? 不真面目にもほどがある。なに考えてるんだ。


「リスト!」


 俺は、屋上のドアを勢いよく開けた。最後にまわった六組で、やっと信用できる情報を得たのだ。「さっき、屋上にあがっていったの見たよ」と吉野という女子生徒が教えてくれた。


「リスト? いるんだろ?」と、俺は屋上を大またで歩きながら叫ぶ。すると、「かずゆき!」と、意外な声がした。そして、あの感覚。背筋がゾッとする落ち着かない恐怖感。――畏怖だ。ということは……。

 俺は、声がしたほうを振り返る。


「ケット」

「おはよう、かずゆき」


 無邪気に微笑む、金髪の子供。リストの守護天使とかいうケットだ。たしか、エミサリ……エミリエ……なんだっけ。まあ、いい。とにかく……こいつはこいつで、リストとは違うきれいな顔をしている。肌は、月の砂のように白く美しく、目は吸い込まれそうな深みをもっている。髪もリストと同じブロンドだが、リストよりも輝きに満ちている。ラメ入りのヘアスプレーでもかけているみたいだ。まあ、神が自分の細胞で創ったバイオロボットだというのだから、このガキが美しくて当然か。神さまってのはよっぽど、完璧なのが好きなんだな。それにしては、人間は欠点ばっかりだ。さぞかし、がっかりしただろうよ。


「よう、リストはどこだ?」と、俺はポケットに手をつっこみながら、尋ねる。

「それなんだけどね」と、ケットはとことこ俺のとこにかけてきて、人差し指をたてた。「シーッ」

「は?」


 シーッ……て。静かに、てことだよな。神さまも人間も共通のジェスチャーか?


「なんだよ?」

「今、リストは休んでるの。ほら」


 ケットはそう言って、俺が来たほうを指差した。そこには、この屋上と三階をつなぐ階段を囲った階段室がある。扉は俺が勢いよく開けたせいで、全開になって止まっている。


「え? どこにもいないじゃないか」


 そりゃそうだよ。俺は、今、その階段から来たんだ。


「どこ見てるの? 上だよ」

「上?」


 言われて、屋上に突き出した階段室の上を見る。


「あ」と、俺は声をあげた。階段室の屋根から足が突き出ているのが見えたのだ。まだ新品同然のうわばき。間違いない。リストだな。本当に休んでるよ。


「休んでる、てなんだよ?」

「夕べ寝てないから」


 ケットは心配そうに、放り投げられている足を見上げた。


「寝てない? なんだ、徹夜したのか? 転校生が」

「見つからなかったんだよ」

「なにが?」


 そう尋ねると、ケットは俺をじっと見つめた。


「かずゆきに呪いをかけた人」

「あ」


 そうか、そういえば、そんなこと言ってたな。呪いのほうは任せろ、今夜にでもなんとかする……とかなんとか。なんだ、えらそうなこと言っといて、出来なかったんじゃないか。

 俺は、無意識に、にやりと微笑んでいた。


「なに笑ってるの? 和幸?」

「いやぁ……神も完璧じゃねぇじゃねぇか、て思ってな」

「え?」


   *   *   *


「おい、リスト」


 誰だ? 誰かの声がする。男?


「リスト、起きろ」


 しかも、しつこいなぁ。せっかく眠りにつけた、ていうのに……なんだよぉ。

 オレは、ゆっくりと目を開けた。最初にはいってきたのは、まぶしい太陽の光だ。オレは思わず、また目をつぶる。


「徹夜あけで悪いんだけどな」と、その声は続けた。「聞きたいことがあるんだよ」


 こんなに眠そうにしてるってのに、優しさのかけらもないなぁ。

 今度は手で太陽をかくし、目を開く。ここなら誰にも邪魔されずに寝られるかと思ったんだけど……この人には、そうはいかないか。


「やあ、和幸さん」


 そこには、腰に手をあてがって仁王立ちで立っている和幸さんがいた。


「よく眠れたか、リスト」

「ついさっきまでは」と言って、オレは体をおこす。「何の用ですか?」

「だから、聞きたいことがあるんだ、て」


 和幸さんは、やれやれ、といった感じでため息をついた。そういえば、さっきもそんなこと言ってたっけ。しかし……寝起きの人間に、あまり期待しないでほしいよな。それに、オレは夕べ寝ずに歩き回ってたんだ。体は疲れてるし、睡眠足りてないし。それを叩き起こして質問攻めする気か?


「聞きたいことって?」


 それでも……和幸さんがオレのとこにわざわざ来たんだ。それは重要なことで、そして『災いの人形』に関係することのはず。あとにして、というわけにはいかない。


「カヤの両親のことだ」

「はい?」


 和幸さんは、その場にあぐらをかいた。上半身だけ起こし、ほぼ寝ているような状態のオレとは違い、背筋はぴしっと伸びて姿勢がいい。この人……根っからの真面目くん、かな。


「カヤには生みの親はいるのか?」


 生みの親? そんな質問がくるとはおもいもよらなかった。オレは「へ」と、まぬけな声をだしてしまった。


「オレ、『災いの人形』の話……しませんでしたっけ?」

「ああ、覚えてるよ。

 カヤは、パンドラの箱の……えっと、なんだっけ。なんとかの粘土……」


 和幸さんは、記憶をなんとか思い出そうと、あぐらをかいているひざを手で何度かたたいた。夕べ、一気に事情を説明したんだ。そう簡単に全部覚えられるとは、オレも期待はしていない。


「アプスの……」と、オレはつぶやくようにヒントを与える。すると、和幸さんは「あ」と声をあげてオレを指差した。まあ、ヒントというより答えそのものだったけど。


「そうだ、それ。『アプスの粘土』、だよな」

「正解。『災いの人形』は、『パンドラの箱』の中にある『アプスの粘土』から生まれる土人形。つ・ま・り……?」


 オレは、その続きを和幸さんに視線で促した。ここまでくれば、分かるよね。というか、これはただの夕べのおさらいだ。

 和幸さんは、どうも気に食わないような表情で、ぼやくように続きを言う。


「つまり、生みの親はいない……か」

「正~解」

「だよな。てことは、やっぱり……アンリの予想ははずれ。カヤは単に売られるところだったわけだ」


 売られるところだった? なんだ、その話は? オレは上半身をさらに起こし、和幸さんを見つめる。


「何の話ですか?」

「それも聞こうと思ってたんだ」

「なんだか……」オレは、ため息混じりに微笑した。「夕べのうちにいろいろあったみたいですね」

「まあな」


 和幸さんは肩をすくめてそう言って、呆れたような笑顔をみせた。

 あれ、なんだか……話しているせいか、眠気がひいてきていた。


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