表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終焉の詩姫  作者: 立川マナ
第二章
53/365

おはよう

 しつこく繰り返される耳障りな音――それが鳥のさえずりだと気付いて、俺は目を開いた。最初に入ってきたのは、まぶしい光。思わず、もう一度目を閉じて、瞼を押さえるように腕を置く。

 なんでこんなにまぶしいんだ? いくら朝でもここまで直接光に襲われることなんて今までなかったんだが。それに、気のせいか、腰も痛い。

 とりあえず、瞼を開いて身体を起こす。が、やはり妙だ。休養を取ったはずの身体が、どうも重い。まだ疲れがとれていないみたいだ。

 あくびをしながら頭をかき、不意に違和感に気付く。――風景が違っていた。いつも、朝一で見る景色じゃない。

 ぐるりと辺りを見回して、ようやく自分がソファに乗っていることに気付いた。


「なんで、ソファに?」


 しかも、しっかりと毛布まで持ってきている。俺は腰に巻きついている茶色い毛布をつかんで、小首をかしげた。これは真冬に使う供えの毛布。なんでこんなものを引っ張り出してまで、こんな寝心地悪いところで寝てたんだ? 仮眠でもとったんだっけ?

 意味が分からねぇ。てか、思い出せない。

 とりあえず、壁にかけてある時計を見ると、まだ七時。学校には八時にでれば間に合う。

 しばらくぼうっとして、眠い目をこする。

 もう少し寝よう。俺はのっそりとソファから立ち上がってベッドへと向かった。


***

 

 和幸は、見事に寝ぼけていた。

 一夜であまりにいろいろありすぎて、頭がオーバーロードでもしてしまったかのようだ。元々、寝起きがいいほうではないこともあって、彼は夕べのできごとを丸々忘れていた。

 ベッドで二度寝をしようと、まるまっている毛布をはがした。なぜ、毛布がふっくらともりあがっているのか。そんなこと、寝ぼけている和幸には気にもかからない。

 眠る準備に入っている瞼は、すでに半分ほど閉じている。和幸はあくびをしながら毛布の中にはいり、ベッドに横になった。

 妙に暖かいな、と思った。湯たんぽでも入れっぱなしにしていたような暖かさがこもっている。もしかして、明け方に寝ぼけてソファに移動でもしたのだろうか。そんなことを、ぼんやりと頭で考えていた。


「……おはよう」


 聞き覚えのある声がした。それも、すぐ近く。

 和幸はふと目を開けた。

 目の前には、女性の顔があった。二、三度、目をぱちくりさせ、じっくりとその顔を見つめる。しばらくそうして、見覚えがある、と思った。

 だが、なぜ自分のベッドに女がいるのだろうか。和幸は意味が分からず顔をしかめた。

 それもただの女じゃない。浅黒い肌に、彫りの深い顔立ち。まるでこの世のものとは思えないほど、美しい――と、その瞬間だった。電流でも走ったかのように身体中がしびれたような感覚に襲われ、一気に目が覚めた。和幸はぎょっと目を見開いて、


「カヤ!?」


***


 俺はあわててベッドから飛び出した。


「カヤッ!!」


 と、なぜか、名前しか口にでない。

 か……かっこわるすぎだ。というか、最悪だ。

 そうだ。夕べ、カヤは俺の部屋に泊まったんだ。それで……ベッドを貸した。――どうやったら、そんなこと忘れられるんだよ!?


「カヤッ……あ……の!」


 悪い、寝ぼけてた。

 そんなこと言って通用するのか? いや、事実なんだけど……ありえないだろ!

 カヤはそんな俺と対照的に、落ち着いた様子でむくりと起き上がると、顔を赤らめて微笑んだ。


「はい」


 カヤは、まるで出席確認のようにはっきりと返事をした。

 でも……なんで、この状況で、『はい』なんだよ?


***


 お、驚いた。何かいきなりまぶしくなったと思ったら……目の前に、和幸くんが。

 どうしようかと思った。まだ……ドキドキしてる。胸が熱い。頭がぼうっとするのは、単に寝起きだから、じゃないよね。

 『気にしないで』とか言えばいいのかな? 『大丈夫だよ』? わ、分かんない。

 和幸くん、パニクっちゃってるし。とにかく、私は冷静にしてなきゃ。なんでもないフリしないと……。

 でも……『はい』は、流石に変だったかなぁ。


「和幸くん、あのね……」と、私は彼を落ち着かせようと声をかけた。でも、それが余計に和幸くんを焦らせてしまったみたいで……


「天気、いいなあ!」と、和幸くんは不自然に急に叫んだ。

「……そうだね」


 私はとりあえず、相槌を打った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ