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終焉の詩姫  作者: 立川マナ
第一章
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謝罪

「きれいな部屋だね」


 カヤは、俺の部屋を見回して、恥ずかしそうにそう言った。


「いや……まあ」


 勢いにまかせて、カヤを『迎え』に行ってしまったものの……カヤの家から俺の部屋に来るまでの間、会話はなかった。

 あのときは、なんの迷いもなかったんだ。でも、今、よくよく考えてみると・・・俺、とんでもないことやらかしたんじゃ……


「えっと……」と、口ごもり、カヤは首元をさすった。


 すごく……気まずそうだ。


「寝るか!」


 俺は、沈黙をやめるために、そんなまったく気の利かないことを堂々と言い放った。カヤは、きょとんとして俺を見つめていた。


***


「寝るか!」と言って、和幸くんは、電気を消してさっさとソファに寝転がった。

 よく月明かりがはいる部屋で、明かりもないのに、部屋はある程度明るい。


「あの……」

「ベッド、つかっていいから」

「え?」

「そこ……その細長いやつ」

「ベッドが何かはしってるよ」

「……そうだよな」


 和幸くんは、はは、と苦笑いをしてそっぽを向いてしまった。

 いろいろ聞きたいこともあるんだけどな。聞かないで、てことなのかな。

 ベッド、使って良いって言われても……なんか、使いづらいし。わたしは、青いシーツのベッドを見つめた。とりあえず、座ろう。私は、和幸くんが寝転がっているソファの向かいにある、一人用のソファに座った。


「和幸くん」

「……」

 

 返事がない。まさか、もう寝ちゃったわけじゃないよね。


「本当に、カインなの?」

「……」

「信じられなくて。だって、和幸くんは……友達だから」

「友達……

 友達じゃない」

「え……」


 予想もしてなかった反応だった。胸が、苦しくなった。なんだか、和幸くんがカインだって思うと……別人のような気がしてしまう。


「そ、そうだよね。昨日、今日、ちょっと仲良くなっただけだし。ごめん」

「違うんだ」

「え?」


 和幸くんは、相変わらず、こちらを見ようとしない。


「俺は、カヤを騙してた」

「!」


 騙す? 何の話? 


「カインじゃない、てこと?」

「そこじゃない。友達、てこと」

「え?」


 よく分からない。


「俺はカインとして、カヤに近づいたんだ」

「……カインとして?」

「カヤの親を……調べたかったんだ。

 カヤの親には人身売買を斡旋してるんじゃないか、て疑いがあったから」

「!」


 人身売買……? なに、それ……あの、両親が? 


「うそ……」

「お前の両親を調べるために、お前に近づいたんだ。

 情報を得て、屋敷内を探るチャンスをつくるために」

「……」

「悪い」


 なんて、言えばいいの?

 両親が、人身売買を斡旋? 信じられない。いえ、信じたくない。

 でも……それなら、納得できてしまう。あの電話。そして、そのときの両親の様子。


「それで、どうだったの?」

「……」

「ねえ、こうして私を連れてきたのは……その、確信ができたから、てこと?

 父と母が、人を売り買いしているって確証を得たから?」


 体が、震えてる。

 分かってた。両親には何か秘密がある、て。心のどこかでは分かってたの。だって、あんなに警備が厳重な家なんておかしいもの。家のあちこちにはガードマンがいて……入っちゃいけない部屋もたくさんあった。

 でも、考えないようにしてた。だって、両親は養女である私にすごくよくしてくれたから。それを裏切るようなことはしたくなかった。愛されてる、てだけで充分幸せだと思ったから……

 けど、もし……愛されてなかったとしたら? もし、私はずっと騙されていただけだったら? 私は……一度も、本当の愛を味わったことがない?


「……やっぱり、私も売られるところだったの?」


 そうでないことを祈ってた。私の思い過ごしだと信じたかった。

 でも、和幸くんが本当にカインで……私の話を聞いて、迎えに来てくれたなら……そういうことなんだよね。私は、売られるはずだったんだ。


「……分からない。でも、俺は……そうだと思う」


 和幸くんは、言いにくそうにそう答えた。

 この人は……本当に、正直だな。私は、こんな状況で、クスっと笑ってしまった。


「なんだか……どう、反応したらいいか分からないな。

 もう、何がなんだか分からない」


 私はひざをかかえて、ソファの上で小さくなった。


「ごめん」

「え」


 どうして『ごめん』?

 そういえば、和幸くんの様子が変だ。本来は、私が『ありがとう』て言って、和幸くんが『どういたしまして』て言うはず。なのに、さっきから私のほう見ようともしないし。

 部屋に二人きりで居るのが落ち着かないだけかと思ってたけど……なんだか、それだけでもないみたい。


「……騙してて悪かった」

「!」


 和幸くんは、つぶやくように言った。


「和幸くん……」


 もしかして……と、私は思った。『友達じゃない』とつぶやいた和幸くんの声が頭に響いた。

 まったくこっちを見ようとしないのは……後ろめたいから? ずっと……気にしてたのかな。両親を探るために、私に近づいたこと。本当は、私を騙すようなこと、したくなかった。でも、しなければいけなかった……そういうこと? それでずっと、苦しんでいたの?

 ほんの二、三日だけど、話してみて分かったもの。あまり、自分のことをべらべら話さない人だけど、和幸くんは優しくて他人を愛せる人。純粋なのよ。表にはみせないけど、なんとなく分かる。繊細で、優しい心の持ち主。

 だからこそ、私は……和幸くんのこと―――。

 私は、つい、微笑んでいた。

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