もし
それは、帰り際だった。
カヤは俺たちを門まで見送りに来た。ここに来るまで、「来てくれてありがとう」と何度か笑顔で言っていたが……無理しているのは明らかだった。
「そうだ、そうだ」と、アンリは門の前で、急にカバンから台本を取り出した。
「これ。カヤっちのクラスの浜田に渡してくれない?」
「え? 浜田くん?」
「興味あるから、台本みせてくれ、て言ってきたからさ」
「まだ人員いるのか? もう充分だろ」
俺は呆れて言った。そんなに大掛かりなものでもないだろうに。
「いいのよ。大規模であればあるほどいいの。
だって……目立つじゃない!」
冗談だろ。こちとら、目立たず、ひっそりと終わらしたいのに……
「浜田くんね。わかった」
カヤはまた無理した笑顔をみせて、台本を受け取った。
「……」
冷静になって明日考えよう、と俺たちはおさめた。だが……カヤは元気がないままだ。
まあ、そりゃそうだよな。両親が自分を売ろうとしているかもしれないなんて……たとえ、実の両親じゃなくてもずっと育ててくれたわけだし、ショックだよな。
「ねえ……アンリちゃん」
ふと、カヤは台本を見つめながら、か細い声で言った。
「なに?」と、アンリは軽いノリで返事をする。
なんだ、台本のダメだしか? と、冗談でも言おうかと思ったが……どうも雰囲気が重過ぎて、そんな勇気はでなかった。
カヤは目を細めて、愛おしそうに台本を見つめていた。さっきの表情とは全然違う。
「もし」と、カヤは静かにつぶやいた。
「え?」
「もし、私が売られても……
カインが迎えに来てくれるんだよね?」
「!」
カヤは台本をぎゅっと抱きしめて、アンリを見つめていた。とても悲しそうな笑顔を浮かべて……。