私、恋してる
「カヤ!?」
お母さんは手を腰に当てて怒鳴った。
「こんな時間になんなの?」
あやしまれるのは覚悟の上だった。
「劇の練習」
もう、うまい言い訳をする気すら起きない。それでも、今怪しまれたら……あの電話の男に連絡されてしまうかもしれない。
だから、演じなきゃ。そう、劇の練習。
私は、自分に言い聞かせた。我ながら、子供じみた発想だ。でもそうでもしなきゃ、私は今にも母に問い詰めてしまう。「契約ってなに? お金って何? 電話の男は誰?」と。
「劇の練習って……こんな時間にしなきゃいけないことなの?」
「近江さんが急に思いついたことがあって、すぐにでも話し合いたい、て」
「男の子まで部屋にいれるなんて……」
「藤本くんは、主役なの」
本当は、小道具係。
「明日、学校でしょう?」
「……」
いつものお母さんだ。急に、苦しくなった。どういうことなの? 一体、何がどうなってるの?
ダメ。涙がでてきそう。
「大丈夫。ちょっと話すだけだから」
「え? あ、カヤ!?」
たまらなくなって、私は逃げるようにリビングを去った。怪しまれたかもしれない。でも……大丈夫よね。まさか、私が電話に盗聴器しかけたなんて、夢にもおもわないはず。
それに、二階には、アンリちゃんと……和幸くんもいる。
そう。和幸くんもいる。
私は階段を上っていた足を止めた。いつのまにか、自分が微笑んでいることに気づいた。
「……」
こんなときに……なに、喜んでるんだろ。自分が情けなくなった。でも、嬉しい。和幸くんがいてくれるなら大丈夫、て不思議と安心するの。
アンリちゃんが和幸くんと現れたときは、なんだか悲しかったけど……偶然会った、て聞いて安心した。
「あはは……」
自然と妙な笑いがこみあげてきた。私は両手で顔をおおった。
こんなときに、思わぬことに気づいてしまった。
「私……恋してる」
相手は、劇の小道具係だ。