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終焉の詩姫  作者: 立川マナ
第一章
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カヤの家出?

「家出!?」


 俺は、思わず叫んだ。


「そう。さっき、電話かかってきてさ。

 家出を手伝ってくれ、て言うの」


 アンリは、腕を組みながら、難しい顔でうなずいた。

 こんな話を、本人の自宅の前でするもんじゃないんだろうが……と、俺はカヤの自宅を見上げた。


「家出って……」

「これからこっそり家を抜け出したいらしいの。で、わたしにも手伝ってほしい、て」


 こっそり抜け出す……て、おい。

 カインノイエでさえ、この屋敷に潜入することに慎重になっているんだ。だからこそ、オレがカヤをだますようなことまでして情報収集してる。それを……アンリが手伝ったところで、成功するのか?

 俺はアンリに振り返った。じっくり見てみるが……やはり、こいつにどうにかできるとは思えない。こいつの元気だけは一目置いているが、ただのお調子者だ。

 どうしたものか。


「ま、そういうことだからさ。じゃ!」と言って、アンリは俺の心配も知らずに、さっさと門へ歩いていく。


「え、おい!?」


 あわててアンリの腕をつかんだ。


「そういうこと、じゃねえよ。どうするつもりだ?」

「どうするもこうするも……」


 アンリは、これっぽっちも躊躇することなく、インターホンを押した。


「なっ!!」


 分かってる。アンリはただの女子高生なんだ。『カイン』のものさしで図ってはいけない、と。

 だが、それにしても……軽率すぎるだろ!!


「なにしてんだよ!?」

「あんたのほうこそ、なにパニくってるわけ? いつの時代の頑固親父よ? 家出、ていっても、どうせ本気じゃないんだからさ」

「え」

「年頃の女の子なのよ? 親ともめるのも当たり前。とりあえず、話を聞いてあげるようと思って来ただけよ」

「……」


 俺は、アンリの腕から手を離した。

 あれ……こいつ、こんなに大人だったか? ギャーギャー騒いでいるアンリの姿しか俺の頭にはなかった。アンリには、こんなところがあったのか……と妙な気持ちになった。


「なによ? じろじろみて」


 気がつくと、アンリは、気味悪そうに俺を見ていた。


「え? いや……」

「どちら様です?」


 インターホンから、女性の声が聞こえた。カヤではない。メイドか……母親か?


「あ、カヤちゃんの友達でーす!」


 アンリは、元気よく答えた。こいつ……緊張感なさすぎだ。

 いや、まてよ。

 そっか。当たり前だよな。俺は、気づいた。

 アンリにとっては、カヤはただの友達なんだ。ここは、友達の家でしかない。初めて友人の家に招かれた、程度のことなんだ。

 アンリは、カヤの親が人身売買にかかわってるかもしれないことも……カヤが『災いの人形』であることも……なにも知らないんだよな。

 なんだろう。うらやましく思えた。

 俺は全部知ってしまった。もしかして、知らなくてよかったことも知ってしまったのかもしれない。


「あ、カヤっち! 出てきた」

「!」


 アンリが、おーい、と手をふった。

 なぜか、俺の心臓がいつも以上に騒ぎ出していた。


「和幸、なにうつむいてるの? カヤっちだよ」


 足音が聞こえてきた。サンダルだ。こっちに近づいてくる。

 やべえ。顔、あげられねえ。なにしてんだ、俺? これじゃ、変に思われる。

 ダメだ。どんな顔でカヤに会えばいいのか……


「アンリちゃん、呼び出してごめんね」

「いいよ~ん」


 カヤがすぐ目の前にいる。


「和幸くん?」

「……!」


 カヤの、柔らかい声が聞こえた。


「よ、よお」


 俺は、頭をかきながら、ゆっくりと顔をあげた。なにかいじってないと、落ち着かない。

 カヤは、キャミソールにジャージの長ズボン姿。きょとんとして、俺を見つめている。これが……部屋着ってやつなのか? なんだかよくわからないが、恥ずかしくなって、俺は結局、目をそらしてしまった。


「二人で……何かしてたの?」


 カヤは、遠慮がちにそうたずねてきた。


「ごめん、アンリちゃん。もしかして、私、何か邪魔しちゃったんじゃ……」

「ぜーんぜん! そこで偶然、会っただけよ」


 邪魔って……どういうことだ?

 アンリは「どうぞ」と言われるのも待たずに、門を開けて入っていく。ずうずうしいというか、度胸あるというか……


「あ……そうだったんだ」


 カヤは安堵したようにため息まじりにそういった。

 一方の俺は……


「じゃ、じゃあ……俺、帰るから」


 何か予定があるわけでもないのに、焦っていた。だしたこともないような声でそう言って、ぎこちなく後ろにさがった。


「また、明日な!」


 おおげさなまでに高く挙げて手を振ると、俺は逃げ出すように背を向けた。


「待って!」

「……」


 今にも、走り出そうか、と言うその瞬間、カヤの声が響いた。

 あまりにも、せっぱつまった声だった。ゆっくりと振り返ると、カヤは今にも泣きそうな表情で立っている。


「和幸くんにも……いてほしい」

「……!」

「助けて、くれないかな?」


 そのとき、はっきりと……これは年頃とは関係のないことだ、と確信した。

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