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終焉の詩姫  作者: 立川マナ
第六章
356/365

幸せを選ぶ権利

「どういうつもりだ!?」


 エレベーターの中まで曽良を追いかけてきて、嵐は声を張り上げた。


「本当にあいつの言いなりに……あいつの『殺し屋』になるつもりなのか!?」

「だったら、なんなの?」


 あと三週間。それで、カヤが『終焉の詩』を詠って、この世界は終わる。神の裁きによって全てが洗い流されるのだ。未来も幸せも、過去も罪も。何もかもが消え去り、無になるこの世界に、曽良はもう何も望んではいなかった。

 ただ、家族との約束を果たす。その使命だけが、兄弟も友人も失って、未来も希望も持たない曽良を突き動かしていた。――その使命のため、憎むべき相手の言いなりになって『殺し屋』になることなど、今更厭うわけもない。


「案内してくれてありがとう」ちらりと嵐を横目に見やって、曽良は不敵な笑みを浮かべて言う。「おかげで、無事に復讐が終われそうだよ」

「いい加減にしろ!」


 狭いエレベーターに、嵐の怒気のこもった声が響き渡った。


「言っただろ。俺はお前にもう人を殺させない、て」

「邪魔するってこと?」と、曽良は鼻で笑って、射るような視線で嵐を睨みつけた。「じゃあ、あんたも殺さないと――」

「そんなこと続けて、いつになったらお前たちは幸せになれるんだよ!?」


 がっと曽良の肩を掴むと、嵐は今にも泣きそうに顔を歪めてがなり立てた。その悲痛な声が、あまりにも真に迫って……勢いに呑まれたように、曽良は呆気にとられた。


「散々、もう試したんだろ!? そうやってずっと殺してきて、何か変わったのかよ!? お前たちの誰かは幸せになれたのか!?」


 その言葉に、途端に曽良の顔色が変わる。何か良からぬものが蠢いているかのような、そんなざわつきを胸の奥に感じていた。


「殺しても何も変わらない。お前は痛いほどそれを学んだんじゃないのか? 『クチナシ』の仲間だって……失ったんだろ?」と、嵐は苦しげに曽良に訴えかける。「なんで同じ過ちを繰り返すんだ!? クローンだろうがなんだろうが、そんなの関係ねぇだろ。幸せになろうとする権利は誰にだってあるんだ。殺さないっていう選択肢を選んでいいんだ」

「そんな権利、俺にはない!」


 思わず、感情的に反論していた。曽良はすぐにハッと我に返ったが、心の底から溢れてくる感情を止められなかった。


「俺は……幸せになろうとした兄弟を殺したんだ」と自分でも驚くほど情けなく弱々しい声で、曽良はまるで懺悔するように嵐に告げていた。「たとえクローンでも、人を殺さない生き方があるって……幸せを選ぶ生き方があるって……それを証明しようとした兄弟を俺が殺したんだ」


 くそ、と心の中で悪態づきながら、それでも曽良は言葉を止められなかった。まるで誰か聞いてくれる人をずっと心待ちにしていたかのように、それは次から次へと口から溢れでてくる。


「かっちゃんだけは、誰も殺さなかった。自分でカインを辞めて、表の世界で幸せになろうとしてたのに。俺たちカインの中で、和幸だけは救われてもいい人間だったのに。それを……俺が殺した。もう後戻りできないんだ。今更、俺だけ幸せになろうなんて思うわけないだろ!?」

「殺したって……どういう……ことだ?」


 ちょうど、チン、とエレベーターが鳴って、扉が開いたときだった。

 嵐の手を振り払い、曽良は身を翻した。

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