【聖女と人形 -4- 】に関して。加筆いたしました
二〇一七年三月一二日、『聖女と人形 -4-』を加筆いたしました。
それ以前にお読みになられた方、お手数ですが、加筆部分をご確認いただければ幸いです。
以下、加筆前の本文です。
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この世界を、滅ぼしてほしい――それが、和幸くんが私に託した願い。曽良くんに聞いたときは、信じられなかった。信じたくなかった。彼がそんなことを願ったなんて。だって、彼は望んでいたはずだもの。私と生きる未来を。それは起こりえない、幻想のような願いだったけれど……。それでも、彼は信じてたんだ。彼は信じて望んでくれてた。私のいるこの世界が続くことを。
そんな彼が、この世界の終わりを望んだ。自分の死を覚悟した彼が、最期に私に遺そうとしたのは、愛の言葉とはかけ離れた、呪いのような願い。彼がそんなものを私に託すなんて思えなかった。――今の今までは……。
「やっと、分かった。どうして、彼がこの世界の終わりを望んだのか」
私はぐっと拳を握りしめた。彼がどんな気持ちで、私にその願いを託したのか……それを考えるだけで、胸が苦しくなる。どれほどの絶望だっただろうか。どれほど、落胆しただろうか。彼は悟ってしまったんだ。この世界に残す価値なんてないこと。こんな世界に望む未来なんてないこと。この世界は彼の命を拒絶し、彼の家族までも奪った。まるで、彼の存在を認めない、と思い知らせるように。世界は、ただ幸せを望んだ彼にどこまでも残酷だった。
「彼は必死に生きようとしてたのに。必死に自分の運命に抗って、『殺し屋』も辞めて、一人の人間として生きようとしてた。私の運命にさえ立ち向かおうとしてくれた。何者でも、幸せになる権利はある、て信じて……。それを、この世界はことごとく裏切った」
見つめる先には、一人の少女がいた。私と同い年ほどの少女。でも、私とは正反対の存在。滅ぼすために『創られた』私と違い、救うために生まれてきた。神にこの世界を託された聖女、ナンシェ。彼女さえ、和幸くんを救うことを拒んだ。
「これが答え」視線をついっと横にずらし、ユリィを見つめて私は言った。「これが、パンドラである私の選択」
ユリィは諦めたような切なげな表情を浮かべたまま、何も言わなかった。もう説得しようという気もないようだ。
「さよなら」
それだけ言って、私は振り返った。
もう一人、ちゃんと別れを言わなきゃいけない人がいる。そして、謝らなきゃいけない。
「巻き込んでしまってごめんなさい、長谷川さん」
依然として声がでないようで、長谷川さんは何か言いたげに必死に口をパクパクと動かしていた。長谷川さんには申し訳ないけど、長谷川さんの声を聞かずにすんでよかった、と思った。『彼』の声で今、引き止められてしまったら、せっかく固めた覚悟も揺らいでしまいそうだったから。
「こんな世界じゃ、さくらちゃんも幸せにはなれないから。私が、すべて消します」
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これ以降が加筆部分になります。