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終焉の詩姫  作者: 立川マナ
第六章
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覚醒

「ひどい……」


 和幸の『自白』を聞き、カヤは俯きぽつりと言った。

 根津は勝ち誇ったように鼻で笑うと、ICレコーダーの再生を止めた。


「これで納得いただけましたか? あなたはずっと騙されていたんですよ。藤本和幸はあなたを利用していただけで……」

「どうして……そんなひどいことができるの?」


 暑さも寒さも感じないはずなのに、カヤは己の身体を抱き、がたがたと震えていた。


「それは、彼が『無垢な殺し屋』だからですよ」と、根津は当然かのように答えた。「どんなに無垢にふるまおうと、彼らはただの人殺しで……」

「いったい、どうやったの? どんなことをして……彼にそんなことを言わせたの!?」


 え、と根津は言葉に詰まった。そして、次の瞬間、根津はぞっと顔色を青くした。

 フードの下で、カヤの目が射るように根津を睨みつけていた。そこに穏やかさも、純真さもない。清らかな水面を思わせる透き通った瞳は、禍々しい輝きを放ち、猛々しく揺れる炎を映しこんでいるかのよう。それまでのカヤとはまるで別人――今にも根津に噛みつかんという、獣じみた凶暴ささえ漂っていた。

 そのオーラに気圧されたのか、根津はじりっと後ずさった。


「和幸くんに……こんなことを言わせるなんて」

「言わせた? 何を言ってるんだ? これは、彼の『自白』で……」

「あなたたちには分からない……私を愛することの意味。どれほどの覚悟がいることなのか」


 その場の空気ががらりと変わっていた。

 根津の表情からはさっきまでの余裕は消え、その額には汗がにじんでいた。後ろで控えている男たちも緊張した様子で顔をこわばらせている。がたいのいい男たちが銃を腰に差しながら、丸腰の華奢な少女に怯えていたのだ。


「彼は、私を愛してくれた。この身体に怯えることもなく」熱でもあるかのように息を荒くし、カヤは続ける。「嘘や演技でできることじゃない」

「なんの話を……」

「彼はいったい、どんな思いであんなくだらない『自白』をさせられたのか……」


 カヤは震える手で顔を覆った。「だめ」と何度か苦し気につぶやいてから、ぴたりと震えを止める。

 嵐の前の静けさのような不気味な静寂が漂った。

 やがて、男たちが息をのんで見つめる中、カヤはぽつりと言った。


「ニクイ……」


 まるで抑揚のないロボットのような声で、それがどういう意味なのか、一瞬で理解することは難しかっただろう。だが、すぐに男たちはその意味を身をもって知ることになるのだった。


   *   *   *


「いいから、早く鍵を!」


 ホテルの清掃員を見つけ、前田は必死な形相で詰め寄っていた。眼鏡をかけた気弱そうな青年は、しかし、「そう言われましても」と煮え切らない返事をするのみ。


「緊急事態なんだ! 部屋の合鍵があるだろう。それを貸してくれ」


 前田は今にも掴みかからん勢いで青年に怒鳴る。それでも、青年は「はあ」と生返事。前田はいらだちもあらわに髪を掻きむしった。


「君では話にならない! 他に誰か……」


 痺れを切らして、ぐるりと身を翻した、そのときだった。前田はハッと目を見開き、固まった。今にも叫び声でもあげそうな驚愕の表情で……。

 いつからいたのか、そこには人影があったのだ。それも、従業員でも宿泊客でもない。


「なんで……君がここに……」


 カヤを助け出す方法を捜し、ホテル中を駆け回っていた前田は、ようやく『鍵』を見つけた。それは前田にとって、思いもよらない人物だった――。

今回、短くなってしまいましたが、更新を再開します。

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