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終焉の詩姫  作者: 立川マナ
第六章
318/365

誰?

 チャイムを鳴らしてしばらく待ってからのことだった。扉の向こうから物音と人の声がして、勢いよくドアが開いた。


 「不用意に開けては……!」


 叱りつけるような少女の声とともに飛び出してきたのは異国の少年だった。白い肌に高い鼻。ふわふわと柔らかそうな茶色の猫っ毛。すらりと長身でスマートな体型。どれも、期待していた人物とはほど遠い容姿だ。——そう、『自分』とは似ても似つかない人物が現れ、正義は面食らった。

 部屋を間違えたのかとも思ったが、その少年は正義を見てほっと安堵したように微笑した。


 「やっと帰ってきたね。おかえり」

 「『おかえり』……!?」さきほどの少女の声が再び聞こえ、彼を押しのけるようにして黄金色の髪の少女が出てきた。「まさか、本当に本人……?」


 愛らしい顔立ちを訝しそうにゆがめ、少女は正義を睨みつけてきた。その瞳は透き通るような碧で、陽の光を浴びて輝く海面を思わせる。

 二人とも、つい見とれてしまうほどの際立った容姿で、どこか現実離れした美しさを持っているところはカヤを思い出させた。しかし、それ以上に、正義が戸惑ったのは彼らの纏う不思議な雰囲気だった。それは、『オーラ』という言葉がしっくりくるもので、対峙しているだけでたじろいでしまうような迫力があった。

 彼らが何者なのか、正義には見当もつかない。とりあえず、この部屋にいたのだから、藤本和幸の知り合いなのだろう。


 「どうして、自分の家なのに呼び鈴なんか……?」


 少女が警戒心もあらわに訊ねてきた。

 正義は答えに詰まった。彼らが自分を『藤本和幸』だと勘違いしていることは明らかだった。同じ顔なのだから当然だろう。誤解を解いて、藤本和幸のことを聞きたいところだが、彼らと藤本和幸の関係性が分からない以上、軽はずみにクローンのことを話すわけにもいかない。彼らが藤本和幸の正体を——クローンとして創られたことを——知っていればいいが、その可能性は低いだろう。賭けに出るにはリスクが高すぎた。

 といって、嘘をつくにしてもうまい嘘が思いつかない。これだけ同じ姿をしていることを『クローン』以外で説明する方法が正義には思いつかなかった。

 そんな彼に助け舟を出したのは、背後で黙って様子を伺っていた嵐だった。


 「呼び鈴押したのは俺だよ!」嵐は正義の肩をつかんで、ぬっと顔を出した。「つい、家主がここにいるの忘れて、押しちゃってよ。こいつにも馬鹿にされてたところ」

 「家主って……!?」

 「あなたはどなたですか?」


 ぎょっとして振り返った正義だったが、その声は少女の声に遮られた。


 「俺はこいつの無二の親友。初めまして」

 「親友?」と、少年が小首を傾げる。「そんな存在がいるなんて初めて聞いたけど」

 「しばらく、トーキョーを離れててよ。久々に帰ってきたんだ。こいつと会うのも何年ぶりだか。な!?」


 まるで脅すように、嵐は力強く正義の肩をつかんだ。

 正義の表情はみるみるうちに青ざめる。嵐が何を企んでいるのかは明らかだった。そして、ここまできてはそれに乗っかることしかないことも……。


 「ああ」と、正義は二人に顔を向き直すと、力なく相づちをうち、見切り発車の助け舟に乗った。「俺もほとんど忘れてたくらいで……」

 「それじゃあ、この一週間、留守にされてたのは、その方と遊び歩いていたからですか?」

 「留守!?」


 思わず、正義は演技を忘れて聞き返していた。

 少女の表情はさらに険しくなる。


 「あ、ああ……そうだな」


 正義のぎこちない返答に、背後で嵐は呆れ顔を浮かべた。


 「パンドラは一緒じゃないの?」


 辺りを見回してから、ふいに少年が訊ねてきた。

 正義はきょとんとして「パンドラ?」と言い慣れない単語を唱える。すると、さっきまで好意的だった少年までもが表情を曇らせた。正義はあわてて、「ああ、パンドラか」と思い出したように言って肩を竦める。


 「パンドラは一緒じゃないよ」


 うまくごまかしたつもりだったが、その言葉は少年の疑心をつのらせただけだったようだ。少年の目つきは変わり、知り合いに向けるそれではなくなっていた。そして、彼は迷い無く、はっきりと正義に訊ねた。


 「君、誰?」

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