神の騎士
和幸は商業用に『創られた子供』。その体は頑丈だ。意識して一点に集中すれば、筋肉で銃弾さえも防ぐことができる。もちろん、銃弾がどこに当たるか正確にわかるわけがないので、その防御法を実際に試した者は誰もいないが。
だが、リストの剣は大きく、まっすぐに刺してきた。和幸には、どこが刺されるのか一瞬だったが、はっきりと分かった。そこにちゃんと意識を集中させたのだ。なのに、リストの剣は簡単に体を貫通していた。
「……なんで……」
和幸は、これが全て悪夢であってほしいと願った。
リストが剣をひきぬくと、和幸はあまりの激痛にその場に倒れた。分からないことだらけだ。このまま死んでも死にきれないだろう、と思った。ゆがむ視界でリストをとらえると、やっとのことで声をだす。
「リスト・ロウヴァー…お前は、なにものなんだ」
リストは、けろっとしている。まるで今、自分が何をしたか理解もしてないような表情だ。
「オレは、リスト・マルドゥク。ルルの世界『エリドー』を守る、神の騎士」
「……は?」
和幸は、死を前にして、耳がおかしくなったのかと思った。それか、リストは麻薬でもやって頭が狂ってるのか。まあ、どっちでもいいか、とどこか諦めの境地にきていた。
死を覚悟して目をつぶった。しかし、なかなか『死』というものは訪れない。結構、時間がかかるものなのか、と和幸はまぬけなことを思ったりもした。
「ところでさ……いつまで、やってるわけ?」
急に、リストはため息まじりに言った。その言葉に和幸は目を開き、あることに気づいた。リストの剣に血が一滴もついていないのだ。
「あれ……」
そういえば、痛みももうない。和幸の脳裏に、さっきの赤い眼の女がよぎった。あのときも、心臓の痛みは一瞬だった。そうっとさされた腹を見る和幸。
「な、ない!?」
そこに、傷はなかった。
「どういうことだよ!?」
「言ったでしょう? ルルの世界を守る、て。オレは、君たちの味方ってことだよ。
傷つけるわけないでしょ」
リストは、持っていた剣をぽいっと放り投げた。和幸は、反射的に受け取ろうと手をだしたが、その剣は和幸の手に達する前に煙のように消えた。
「!?」
「あなたにかけられた呪術を解いたんだ。だから、もう大丈夫。
ま、もちろん……救われるには、それなりの痛みを伴うものだから。
責任として、激痛は体験してもらったけどね」
ニコッと微笑むリスト。和幸は、ただぽかんとするしかなかった。
「さて、ここからどう計画を修正したものか」
リストはのんきにそうつぶやいた。