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終焉の詩姫  作者: 立川マナ
第一章
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呪い

「いつのまに、ここに!?」


 俺は、突然後ろに現れた金髪の子供に叫んだ。


「ずっとさ」


 ガキは、相変わらず無邪気な笑顔をうかべている


「……『ずっと』だ?」

「姿は消していたけどね」

「はあ?」


 俺の頭は混乱していた。俺は、実は霊能力者なんじゃないのか、とさえ思い始めていた。

 だめだ、冷静にならなくては。


「ひとつだけ……はっきりしときたい」

「なあに?」

「お前がやったのか?」


 そう、これだけは明確にしとかなくては。ここにいるってことは、こいつが容疑者Aなんだ。見た目はガキでも……用心しなくては。もう、何があってもおかしくない状況なんだ。

 だが、ガキはあわてた様子で首を横にふった。その仕草は子供そのもの。あやしいといったら、その変な服装くらいだ。


「まさか! ケットじゃないよ」

「けっと? お前の名前か?」


 ケットと名乗るガキはにこりと嬉しそうに微笑んだ。なんか、調子狂うな。


「君に聞きたいことがあってあとをおってきたんだけど…思わぬ事態がおきてるね」


 ケットは俺を見つめて、うーんと困った表情を浮かべた。


「なんだよ?」

「呪われちゃったね」

「……はああっ!?」


 の、呪われただ? 急になにいいやがるんだ、このガキは!?

 だめだ、だめだ。こんな子供とまともに相手にしちゃいかん。消えてた、とか言い出してんだぞ。変な子供だ。妄想癖かなんかだ。とりあえず、頭をひやそう。なんか、疲れてきた。


「あれ、どこいくの?」

「うるせえ。おうち帰れよ」

「あんまり、動いちゃいけないよ! 呪いがかかってるんだから。

 今、彼が来るから……」


 俺は聞く耳をもたずに、脱衣所からでた。夜風にあたろう。そう思ったのだ。

 もしかしたら、全部俺の妄想かもしれない。ありえないことがおきすぎだ。あのガキも俺の幻かもしれないし。麻薬に手はだしてないが……俺は『創られた子供』だ。欠陥があってもおかしくはない。異常がとうとうでてきたのかもしれない。

 俺は窓をあけ、ベランダにでた。ここのベランダはとても小さいが、夜風にあたるくらいはできる。


「ふう……」


 少し落ち着いてきた。とりあえず、整理して考えなければ。

 まず、どこからどこまでが現実なのか。さっきのガキは結局、ここまでおいかけてこなかった。もう、どこにもいない。やっぱり、あれは俺のつくった幻と考えて良いだろう。じゃあ、目が光る女は? あれも幻か? それとも……幽霊?

 背筋がぞっとした。夜風が冷たいせいだ。俺は自分に言い聞かせた。


「そういえば……」ふと、さっきのガキの顔が思い浮かんだ。「彼がくる、て……なんの話だ?」


 まあ、いいか。あれは俺のつくった幻だ。気にすることじゃない。

 そう思ったときだった。ミシっと鈍い音がした。


「……まさか」


 嫌な予感がして足元を見る。その瞬間、足場にひびがいきなりはいり、底がぬけた。


「うそだろ!?」


 コンクリートなんだぞ? あんなひびの入り方あるわけがない!

 だが、そんなこと考えてる場合じゃない。俺はそのまま、下の部屋のベランダに落ちた。うまく空中でバランスをとって、きれいに着地はできたものの……精神的には大ダメージだ。


「確かに……呪われてるかもな」


 これを肯定することは、カヤを裏切る気がして嫌だった。だが、ここまでくると……



「きゃああ!」



 悲鳴!? いきなり悲鳴が聞こえた。これ以上、まだ何かあるのかよ?


「痴漢―!!」


 痴漢? ハッとした。ふと窓をみると、着替え中の大学生くらいの女性が部屋の中から俺をみていた。

 そうか。俺は、下の階のベランダに着地したんだった。これは、確かに……不法侵入ってやつだ。ってか、このマンション、女はほとんどいないって聞いたのに……偶然、女の部屋のベランダに落ちるとは……ん? いや、違う。これは、偶然ツイてないんじゃない。


「……やっぱ、呪われてるってわけか?」


 とにかく、ここを切り抜けなくちゃな。俺はゆっくりと立ち上がり、窓の向こうの女子大生(多分)に両手をあげてみせる。


「誤解です! ちゃんと説明するから……」

「きゃー、きゃー!!」


 こりゃ、聞く耳もってねえな。ってか……窓閉まってるし。聞こえてないのか?


「!」


 ふと、部屋の中にもう一つの人影があるのに気づいた。今までトイレにいたのか、急に現れた。


「友達……か?」


 女子大生は、その現れた人物にかけよった。よくみると……がたいのいい『お兄さん』だ。


「友達以上……かな」


 冷や汗がでた。その男の手にはバットがある。まさか、そっち系の彼氏か? こっちに向かってきている。まあ……こちとら、カインだ。あの兄ちゃんにやられることはない。だが、『呪われている』今、なるべくいざこざは避けたい。


「しゃあない」


 俺はぐっと足に力をいれた。


「覚悟しろよ、痴漢!」という怒号とともに男がベランダに来た。それをきっかけに、俺は大きくジャンプし、ベランダの手すりに乗った。


「な……」

「一応、言っとくけど……マネしないように。

 どうも、お騒がせしました」


 俺はそう言ってお辞儀をすると、後ろに飛んだ。男がぎょっとしている。この人たち、これがトラウマにならないといいんだが。

 俺の体はそのまま地面へと落ちていく。普通ならどこかしら、骨折はするだろう。下手すりゃ、死ぬ。でも……カインの一部の人間には、ある特徴がある。その一部の人間とは…商業用に『創られた子供』。これに分類される奴には、常人離れした頑丈さとパワーがあるのだ。俺もその一人。

 俺は、地面に着地した。ダン! という大きな乾いた音が鳴り響いた。びりびり、と振動がつたわってくる。


「うぅ……気持ちわる」


 上を見ると、さっきの男が青ざめた顔でこっちを見ていた。一応、俺は手をふってみた。

 さて……ベランダが穴開いた。この事実を受け止めよう。まずは、藤本さんに報告するべきだよな。呪いとかはおいといて……。部屋に罠を仕掛けられたんだ。そう考えたら、俺は襲撃された、と言っていい。

 俺の思考回路は支離滅裂だ。今、携帯で藤本さんに報告することもできるが、きっと理解不能なことを言い出してしまうだろう。直接、藤本さんと会って話し合うほうが、冷静さも取り戻せていいはずだ。


 俺は、マンションに背を向け、歩き出した。マンションの敷地から出て、角を曲がった。そこで、俺は意外な奴とであった。


「お前……」

「こんばんは。藤本先輩」


 リスト・ロウヴァーだ。なんで、ここにいるんだ? 近所なのか?


「落ちたんです」

「え?」


 ロウヴァーは、突然そう言って、俺のマンションを指差した。急に、なんのはなしだ?


「二階から人が落ちたんです」


 げ! こいつ、見てたのか?

 あんまり、こいつには俺のことをかぎまわってほしくはない。俺が二階から落ちてなんともない、なんてことこいつに知られるわけにはいかない。幸い、この様子だと、それが俺だと分かってない。偶然、見かけて気になってこっちに来た、てことか?


「見間違えじゃないか?」


 俺は、はは、と笑ってロウヴァーの肩をたたき、横を通り過ぎた。


「見間違えじゃないですよ」


 後ろでまだロウヴァーは言っている。しつこいな……。無視するか。ここは、聞こえないフリして……


「確かに、藤本先輩だったと思うんだけどなあ」

「!!」


 俺は思わず振り返った。見えてたのか?

 ロウヴァーも、こちらに振り返り、クスっと微笑んだ。


「本当に呪われてるんだ。

 参った。いろいろ、計画狂っちゃうなあ」

「……な、んなんだ、お前」


 呪われてる、て、今言ったか? 戸惑う俺を無視し、ロウヴァーは左手を夜空にかかげるように高くあげた。

 次の瞬間、俺は目を疑った。ロウヴァーの左手に……なにもなかったはずなのに、大きな剣が現れたのだ。ロウヴァーは現れた剣をぎゅっとつかむと、それを俺にむかって構えた。


「!!」


 銃をとりだそうと思ったが、そういえば脱衣所に置いてきたままだ。まさか……これも、呪いのせいか?


「ま、いいか。あとで修正しよう」


 ロウヴァーは、その剣をなんの躊躇もなく、俺に突き刺した。

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