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終焉の詩姫  作者: 立川マナ
第一章
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『カヤ』との約束

「ニュースだ、ニュースだ!!」


 相変わらず、いつも元気な平岡が俺に駆け寄ってきた。朝っぱらからよくあの声量がでるよ。俺は窓際の一番後ろ。なのに、廊下から走ってくるあいつの声はよく聞こえる。

 数学の宿題を終わらそうと思って、朝早くから来たってのに。平岡の噂話で朝の時間はつぶれるな。机に開いていた数学の教科書をいさぎよく閉じると、はあっとため息をもらした。

 平岡は到着するなり、俺の机に両手をおいた。


「転校生だ!」


 またか?


「今度こそ、パンをくわえて走ってきたんだろうな」

「は? お前、前もそんなこと言ってたな。まあいいや。

 今度はひとつ下で、神崎さんみたいにキレーな……」

「私がどうかした?」


 いきなりの声で、俺と平岡は一瞬固まった。平岡と俺がゆっくりと横に顔を向けると、そこにはカヤが立っていた。


「か、神崎さん」


 そういえば、平岡もカヤとはあまり話してないよな。いつも、カヤの噂話はしてるが…劇の練習中も遠めで見てるだけだし。いきなり話す機会がやってきて、平岡は緊張のあまり、カヤに敬礼していた。俺はその様子に、ぶっとふきだした。


「なにやってんだ、平岡」


 一方、カヤはいきなり敬礼されてきょとんとしている。そりゃそうだよな。


「おはよう、カ……」


 俺はそこまで言ってとまってしまった。思った以上にまわりに注目されている。ここで、カヤ、と呼びつけにするという行為がどういう騒動を巻き起こすか、容易に想像できる。

 なんだろう、これは……すごく、照れくさい!


「おはよう、和幸くん」

「!!」


 俺が躊躇しているというのに、カヤはあっさりそう呼んだ。あたりがざわついたのが分かる。

 カヤは、今までいつも注目の的になっていたと言っていた。一方で、俺は逆だ。カインであることもあって、注目にならないよう、表の世界ではひっそりと生きてきたのだ。注目を集めてはいけない、という意識さえあった。その俺が、今、クラスの注目を一身にあびている。いけないことをしているような、落ち着かない気分だ。


「おはよう、神崎……」


 ここで、カヤ、と呼ぶことはできなかった。目をそらし、小声でそうつぶやいた。長年、目立たないよう生きてきたんだ。癖というか習慣というか……つい、注目をさけてしまう。しかし、この様子……砺波に、中学生か! と笑われてしまいそうだ。


「……」


 返事がなにもないので、カヤの顔を見上げると、悲しい表情を浮かべていた。


「え?」


 なんで?


「それで……神崎さん、どうしたの? アンリを探してんの?」


 顔が赤らんだままの平岡が(勇気をだして)カヤにたずねた。カヤは、「あ」と思い出したようにほほえんだ。


「そ、そう。でも、きてないんだね。またあとにする」


 アンリを探してた? いや、違うだろ。あの様子……俺に用があったに違いない。

 カヤは俺にはなにもいわず、スカートをなびかせ、背を向けた。周りの注目をあびながら、カヤは机の間をすりぬけていく。もしかして、と俺は思った。さっきの行動がカヤを悲しませたのだとしたら……考えられる理由はひとつだ。


「カヤ!」


 俺は、教室中に響き渡る声で言って立ち上がった。カヤは驚いて振り返る。さらに驚いているのはまわりのクラスメートと……平岡だ。俺はかまわず、ずかずか歩いていき、カヤの腕をつかんだ。


「和幸くん!?」


 戸惑うカヤになにも言わず、俺はそのままカヤを廊下に連れ出し、歩いていく。廊下ですれ違う奴らは、俺ら二人を見ると、目を丸くして何度も振り返った。


「和幸くん? どこ行くの?」

「心配すんな」

「え?」


 俺はとりあえず、屋上へ向かっていた。


「俺は大丈夫だ」

「……」

「急に態度かえて避けたりしない。何があっても……」


 こういうセリフを言うようなタイプじゃないんだけどな、俺は。恥ずかしくて、カヤの顔を確認する気になれなかった。

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