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終焉の詩姫  作者: 立川マナ
第三章
192/365

カインの十字架

 あと二週間もすれば師走。ジャケットを羽織ってもさすがに肌寒い。曽良はリビングからもれる光を背にして手すりに寄りかかっていた。その手には月の光を浴びて銀色に輝く十字架。ネックレスのチェーンを指にからめると、十字架を手の平から滑らせる。このまま、ここから――三階のベランダから――この十字架を落としてしまえれば……。曽良は指に絡めたチェーンをぎゅっと握り締める。

 リビングから漏れる騒ぎ声がいきなりはっきりと聞こえるようになったのは、そのときだった。誰かの影が伸びてくる。曽良は振り返ることもなく、ため息混じりに声をかける。


「君がパーティーに来るとは思ってなかったよ、カリー」


 呼ばれた人物は後ろ手に窓を閉めて、曽良の背中をつり目で睨みつける。再び、兄弟たちの笑い声が遠くなった。


「その呼び方はやめろって言ったはずだ、曽良。俺はあだ名はいらない。特にお前の考えたやつはな」


 言われて曽良はクスリと笑んで体ごと振り返り、手すりにのけぞるようによりかかった。


「はいはい。分かったよ、留王。その代わり、曽良お兄ちゃんって呼んでくれる?」


 留王はぴくりと頬をひきつらせる。「相変わらず馬鹿だな、お前は」と吐き棄てるようにつぶやいた。曽良は弟の暴言を特に気にする様子もなく、「それで?」と微笑を浮かべる。


「お兄ちゃんに何か相談事?」

「ああ!」と皮肉たっぷりな声をあげると、留王はじりじりと曽良に歩み寄った。「静流姉貴からアレは受け取ったのか?」


 アレ……と曽良はとぼけた顔で空を振り仰ぐ。留王は苛立ちをあらわにして肩をいからせた。


「ふざけんなよ! 何のことか、分かってるだろ」

「ああ」さも、たった今分かったかのように声をあげ、曽良は「これか」と右手に持っていたネックレスを留王に見せる。

 その途端、留王は目を血走らせて押し殺した声で怒鳴りつける。


「お前、渡す気あるのか!? このふざけたパーティーが始まって二時間経ってるんだぞ!?」

「ふざけたパーティー……ねぇ」言って、曽良は窓の向こうで楽しそうに騒いでいる兄弟たちを見つめる。「皆、楽しんでるみたいだけどな」


 カヤが鍋を持ってリビングに入ってきた。皆が「おお」と声をあげるのが聞こえてくる。こうして外から見る分には、彼女はすっかり家族の一員だ。曽良は悲しげに微笑んでいた。


「楽しんでるフリだろ」容赦なく、留王はずばりと言った。「あの女をはめるために、皆は集まったんだ」

「かっちゃんに会うために、集まったんだよ」


 曽良は目をつぶって諭すように訂正する。


「カーヤをはめるのは、そのついでさ」

「どっちでもいい。俺はとにかく、あの女の化けの皮をはがせたら満足だ」


 言って、窓を隔てた明るい部屋を睨みつけるように覗く。そこには、皆に鍋をよそい始めた妖しいほどに美しい女の姿がある。気に入らない兄の婚約者だ。惜しみなく振りまいている笑顔が余計に留王をいらつかせた。


「留王は、カーヤを『黒幕の娘』だと信じてるんだね」


 落ち着いた声でそう尋ねられ、留王はハッとして振り返った。だらしなく手すりによりかかりながら、曽良は刺すような視線をこちらに向けている。珍しく、真剣な表情だ。留王はポケットに手をつっこむと、ガンつけるように顎をひいた。


「当然だ」きっぱりとそう言うと、曽良の片方の眉がぴくりと動く。留王はそれを見逃さなかった。責めるような瞳で見つめると、淡々と続ける。「あやしいと思わないのか?」

「……」

「なんで親父まで、あの女を信じてるんだ!? 俺にはさっぱり理解できない!

 和幸がカインだと名乗って、その夜に神崎は自殺した。タイミングがよすぎるとは思わないのか!?」


 曽良はじっと留王のつりあがった目を見据えていた。アヒル口はぎゅっと閉じられている。開かれようという様子は一切無い。


「なあ」と曽良の返事を待たずに留王は低い声で切り出す。「神崎は本当に死んだのか?」


 曽良はいぶかしげな表情を浮かべた。何を言い出すんだ? と驚いているようだ。留王は構わず推理を続ける。


「神崎の死体を和幸は確認したのか? いや、していない。和幸はあの女から話を聞いただけだろう。先週の葬式にもあいつは行かなかったらしいし。

 こうは考えられないか? 神崎の死は、あの女をこちらに送り込むための――和幸の同情を買うための、大掛かりな芝居で……」

「かっちゃんはそれにまんまとひっかかった?」


 軽くあしらうように曽良はそうつぶやいた。留王は、しかし、鷹の目のように鋭い視線で曽良を凝視する。


「お前たち(・・)が、まんまとひっかかったんだ」

「!」


 さっきまでの余裕の微笑は消え去り、曽良は目を見開いて留王を見つめた。留王はその反応に、自分が立てていたある仮説(・・・・)があたっていたことを確信し――落胆した。


「やっぱりか」と鼻で笑う。ちらりと曽良の右手に握られている十字架のネックレスを見やった。「ソレを渡せない理由がよく分かった。お前があの女の肩をもつのは和幸のため――そう信じたかったが……もっと、個人的(・・・)な理由があるみたいだな」


 曽良は何も言わない。真剣な表情で留王を見据えているだけだ。


「このパーティー。皆、命がけで来てる。あの女が『黒幕』の手下なら、俺たちはこれで全員アウトだ。顔も名前も知られたんだからな。そのリスクを分かって皆来たんだ。和幸のためじゃない。これは、あの女もろとも、『黒幕』を消せるチャンスだからだ。そのために、皆こうして集まった。俺たちが神崎カヤをもう疑っていない――そうあいつに信じ込ませて、油断させるために。

 どうして皆がそこまでのリスクを冒していると思う?」

「……」


 熱く語る留王とは対照的に、責められている曽良はどこか冷めた表情を浮かべていた。ちらりと留王から目をそらし、リビングの様子を伺う。窓の向こう側では熱い鍋を囲んで皆が楽しげに笑いあっている。外はこんなにも寒くて心まで凍りつきそうなのに。そう思うと、虚しくなる。

 曽良は諦めたようにため息をつくと、留王に手を差し出した。ネックレスをもっていないほうの手だ。留王は眉をひそめて「んだよ?」と困惑の声を漏らす。すると、曽良は落ち着いた様子で言う。


「銃。渡して」

「!」

「持ってきてるでしょ。カーヤを殺すために」


 それは、恐ろしいほどに冷静な声だった。さっきまでとは違う。冷酷にも思える表情。留王は一瞬たじろいで、後ずさった。


「留王。銃、渡して」と語調を強めて曽良はもう一度言う。

「なんで、渡さなきゃならない!? 俺の勝手……」

「今、彼女を殺されたら困る。分かってるでしょ。彼女はしばらく泳がせるんだ」


 その言葉に、留王は目をむいた。あの女を騙すのをしぶっていたのではないのか、という疑問がうずまく。


「もしものときは、彼女の『お片づけ』は俺がやる。皆にもそう伝えてある。いや、約束した。だから……皆、リスクを承知で来てくれた。そうだよね?」

「!」


 それはまさしく、さっきの質問の答えだった。留王はつり目をめいっぱい開いて曽良を見上げる。いきなりたたき起こされたような表情で。

 曽良のアヒル口はフッと笑みを浮かべ、穏やかな眼差しが留王に向けられていた。


「分かってるよ、留王。兄ちゃんを信じて」


 言われて、留王は呆然とした。豆鉄砲をくらった鳩――その例えがまさに当てはまるような顔だった。


「……誰が、兄ちゃんだ。気持ち悪ぃんだよ」


 我に返ったように顔をしかめると、ぼそりと悪態をつく。しばらく唇をかみ締めながら曽良の左手を見つめ、そしてゆっくりと腰に隠しておいた銃を取り出した。どこか腑に落ちない表情を浮かべつつも、曽良の目をみることなく、おもむろにそれを手渡す。

 曽良は目を細め、「ありがとう」とつぶやいた。


「『もしものとき』が、手遅れじゃないといいな」曽良が受け取った銃を腰に差すのを見つめながら、留王はぼそりとつぶやいた。「もう、手遅れかもしれないけど」


 曽良は難しい表情を浮かべて、またリビングへと目を向けた。そして、はたりと少女と目が合う。にこりと穏やかな笑顔を浮かべる愛らしい少女。笑顔を返すと、少女は立ち上がってこちらに向かってきた。

 曽良は右手の中に眠る十字架を、ぎゅっと握り締める。

 家族か、彼女か。自分にはそんな選択肢はないんだ――そう自分に言い聞かせた。


***


「お鍋、食べないの?」


 ベランダに足を踏み入れ、私は開口一番そう尋ねた。皆の熱気とお鍋のゆげで汗ばむほど暑い部屋の中と違って、外はすっかり冬の寒さに近づいていた。思わず、両腕をさすって震えた。

 ベランダで何やら話し込んでいた二人――曽良くんと留王くんはしばらく黙ってから視線を交わした。そして曽良くんがいつもの明るい笑顔を浮かべて、


「留王、食べておいでよ」


 その瞬間、留王くんはハッと目を見開いた。すぐには答えず、曽良くんを睨むように見つめている。なんだか……張り詰めた空気が漂っていた。この二人、もしかしてケンカでもしていたのかな。私、まずいときに来ちゃった? どうしよう。今からでも、部屋の中に戻ろうかな――そう思ったときだった。


「そうだな」と留王くんは微笑んで頷いた。さっきまでの神妙な面持ちは消え去っている。「腹減ったし。お前の分も食べとくよ」


 曽良くんは苦笑して「そうして」と答えた。曽良くんは食べないんだろうか。体調でも悪い? じっと彼を見つめていると、「カーヤ」と甘い声で呼びかけられた。儚げなその笑顔は、あまりにも色っぽくて私は思わず顔を赤らめた。


「渡したいものがあるんだ。向こうで話そう」


 向こう、と言って曽良くんが視線を向けたのは、リビングの隣にある静流さんの寝室のベランダ。境がないから、歩いていける。でも、リビングの光があふれるこちら側と違って、真っ暗。わざわざ、なんで場所を変えるんだろう。どちらも同じベランダなのに。戸惑いつつも、私は頷いてベランダを歩き出す。丁度、入れ替わるように留王くんはリビングに入っていった。


「渡したいものって?」


 静流さんの寝室はカーテンで締め切られていて、中を伺うことはできない。でも、きっとエスニック調の小物であふれてるんだろう、と予想がついた。ちょうど真ん中あたりにきたところで立ち止まり、私は曽良くんに振り返った。リビングから溢れる光が逆光となって彼の表情はよく分からない。でも、「これなんだけどね」と答えた彼の声色はいつも通り明るくて、とりあえずホッと安堵した。さっきの切なげな笑顔……なんだったんだろう。


「じゃーん」と言って、彼はネックレスを私に差し出した。暗がりで細部までは見えないが、それが十字架がぶらさがったネックレスだということは分かった。


「ネックレス?」


 そう尋ねると、曽良くんは深々と頷く。


「カインの皆からのプレゼントだよ」

「え」耳を疑った。カインの皆から? 私に? 「うそ」

「ほんと」


 アヒル口がにぱっと開かれたのが分かった。胸が苦しくなって、感情の波が――溢れてしまいそうなほどの嬉しさが襲ってくる。曽良くんは気づいてるだろうか。私の瞳が……潤んでしまってること。だって、あれほど嫌われてた皆さんから私にプレゼントだなんて……だめだ、泣いてしまう。


「つけてあげるね」


 思わずうつむいた私に、優しく彼はそう言った。気遣うような声色で、彼が私の涙に気づいたことを悟った。もう隠すこともせずに、私は「うん」と涙声で答える。

 私の背後に回った彼は、頭上からネックレスを私の首元におろした。月明かりに照らされる十字架が目の前に降りてくる。神秘的にも思えた。


「約束して欲しいんだ」


 背後から、彼の真面目な声が聞こえてきた。


「約束?」私は胸元の十字架に触れながら尋ねる。

「お風呂に入るとき以外、絶対にはずさないで」

「!」

「お守りだから、いつも身につけておいて欲しい。カインの兄弟たちからのお願いなんだ」


 言いながら、彼は私の目の前に戻ってきた。真剣な表情が、月光に照らされている。高い鼻の影が濃く落ちて、ニホン人離れした顔立ちが強調されていた。


「誓える? カインのお嫁さんとして」


 ぎゅっと十字架を掴んだ。カインの皆からのお守り。彼らから認められた証。これを片時も離さない――そんなこと、きっと言われなくてもしていた。


「もちろん」と私は曽良くんに微笑んだ。「誓うよ」

「ありがと」


 丁度、彼がそう言ったときだった。冷たい風がベランダを通り抜け、痺れるように体中が震えた。「寒っ」と思わずつぶやいて、身を縮こませる。さすがにコート無しでこのアリサさんのワンピースで外にでるのは無理があったな。


「カーヤには、かっちゃんを好きでいて欲しいんだ」


 唐突に曽良くんはそう言って、着ていたジャケットを脱いだ。「え?」と戸惑う私に、彼はそのジャケットを私に羽織らせる。そのまま、ジャケットの上から私の両肩をつかみ、食い入るように見つめてきた。

 真剣な眼差し。視線で焦がされてしまいそうだ。ただでさえ人並み以上にキレイな顔立ちが、より一層魅力的に見えた。なんだか、曽良くんじゃないみたい。雰囲気が、全然違う。

 そして彼はまじめな表情でこう言った。


「俺はかっちゃんを好きなカーヤが好きなんだ」

「!」

「だから、カーヤがかっちゃんを好きでいる限り、俺もカーヤが好きだよ」


 なに……言い出すの? 何を言ってるの? 曽良くんの言っている意味が分からなかった。解けもしない謎かけをされているようだった。


「曽良くん? 何の話……」言いかけたとき、肩をつかむ彼の手に力がはいったのを感じた。ぐいっとひきよせられ、気づけば私は彼の胸の中にいた。


「!」


 ぎゅっと背中を彼の腕が包み込む。

 私は状況がつかめずにいた。どう反応すべきか判断しかねて硬直する。

 確かに、曽良くんに抱きつかれることは今まで何度かあったけど……それとはどこか違う。今までなら、抱きしめられてもいつも胸元には卵一個分くらいの隙間はあった。おそらく気を遣っていたんだと思う。でも、今は違う。息が苦しいくらい密着している。彼の心臓の音まで伝わってきそうだ。

 これはただの挨拶のハグなんかじゃない――そう悟った。と、同時に「どうしよう」という気持ちが心の中を覆い尽くす。心臓が慌てて血液を体中に送り出す。さっきの彼のセリフが脳裏によぎる。私を好きだと言った彼の声。


「曽良くん、困るよ」かろうじてそんなセリフが口から漏れた。「和幸くんに見られたら……」


 なに言ってるの、私。もっと他に言うことあるでしょう。これは……ここで和幸くんの名前を出すことは、卑怯だ。


「私は、曽良くんとはいい友達でいたいから」


 言い直し、私は密着している二人の体の間に手を滑り込ませる。彼の胸元に到達すると、やんわりと押した。それだけで、簡単に彼は離れてくれた。でも……二人の距離は依然として近くて、彼の顔が目と鼻の先にある。そんな距離で熱のこもった瞳で見つめられ、私の鼓動は勢いを増した。思わず、息を呑む。


「もう友達ではいられないよ」

「!」


 幼い子供を諭すような言い方だった。私は思わず「そんなことない」と考えもせずに口走っていた。――言ってすぐに気づいた。そんなことあるんだ、と。『勘当』という言葉が脳裏によぎる。そう。和幸くんが『勘当』されれば、私もカインとの関係は絶たれる。静流さんからそう聞いたじゃないか。

 つまり、曽良くんや砺波ちゃんとも会えなくなるんだ。自然と視線が落ちた。胸が締め付けられる。


「かっちゃんを裏切らないでね」


 聞いたことのない、寂しげな曽良くんの声だった。眉をひそめて顔をあげると、やはりつらそうな表情が浮かんでいた。別れを惜しんでいる――そんなものじゃない。どこか、藤本さんに似ていると思った。赦されたいと切望する罪人のような表情。どうして、曽良くんがそんな顔するの。そもそも、言ってることだって彼らしくない。


「裏切るわけない。曽良くん、どうしちゃったの?」


 曽良くんの様子が、明らかに変だ。怖くなってきて、責めるような口調でそう尋ねた。曽良くんは何も答える様子はなく、ただじっと見つめているだけ。私はまくし立てるように続ける。


「何かあったの? 私でよければ、話聞く――」


 それは……一瞬の出来事だった。想像もしていなかった出来事だった。体が反応できないほどに、唐突だった。

 言葉を続けることはできなかった。気づいたときには口が塞がれていた。いつも愛らしく微笑んでいた彼の唇に。

 混乱して、感覚まで麻痺しているようだった。彼の唇の感触も伝わってこない。すぐにも彼を突き飛ばすなり何なりしなきゃいけない。抵抗しなきゃいけない。そう分かっていても……体が動かなかった。目も瞑れずに、ただ硬直した。身をかがめて私に口付けをする彼の長い睫毛が目の前にある。

 自分の心臓の音が直に聞こえてくるようだった。ドクンドクン、と一つ一つ大きくゆっくりと波打っている。不思議と落ち着いていた。心臓も状況がつかめていないのかもしれない。

 何十分にも、何時間にも、思えるほど長い口付けは、きっと数秒だったんだと思う。彼はゆっくりと唇を離すと、悲しそうな微笑を浮かべた。


「もう二度と、会えないといいね」

「!」


 ぼそりとつぶやいた彼の言葉に私は驚愕して目を見開いた。キスしてから言うセリフ? 言ってることとやってることが滅茶苦茶だよ。そもそも、和幸くんを裏切るな、て言ったのは曽良くんじゃない。他の人とキスするのって、裏切りにははいらないの? 私は……一体、どうすればいいの? 何を言えばいい? どう反応すればいい? やっとここにきて、心臓が大慌てで働きだした。体が熱くなっていく。

 とりあえず何かを言わなきゃ、と口を開けてはみるものの、結局言葉は出てこない。エサを求める金魚のようにパクパクと虚しく動かすだけだ。

 そんな私を愛おしそうに見つめて、彼は「サヨーナラ」と軽い調子で言った。

 丁度そのときだった。リビング側の窓が開く音がして、誰か人影が出てくるのが目の端で見えた。

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