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終焉の詩姫  作者: 立川マナ
第一章
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放課後の雨宿り②

 アンリちゃんが言ってた。『和幸はああ見えて実はとんでもなく強い奴なんだ』、て。半信半疑だった。失礼かもしれないけど……藤本くんはそんな風に見えないから。物静かで、いつも部屋の隅でイスに座って平岡くんと何か話してる。たまに私のほうを見てることもあるけど、特に話しかけてくるわけでもなく、目があうとすぐ目をそらされる。

 でも、アンリちゃんはあるエピソードを教えてくれた。それは、彼女が高校に入ってまもなくのこと。アンリちゃんは、帰り道に不良にからまれてしまった。しつこくされ困っていると、藤本くんが偶然通りがかって、あっという間にやっつけちゃったらしい。

 それがきっかけになって、アンリちゃんは藤本くんを映画研究会に誘ったらしいんだけど。


 とにかく……もし、藤本くんが本当にそんなに強いなら……

 こんなことして、私はずるいかもしれない。でも、小倉くんの様子で、またアレが始まるって確信した。同じこと、何度も繰り返してたまるか。今度は、たちむかうわ。どんな手をつかっても…自分でなんとかする。そう決めた。だから、藤本くんを誘った。

 二人きりで帰るために、ばらばらに練習をはや引きして待ち合わせをすることにした。まず、私が先に早退。昇降口で十分ほど待ってる。相変わらず、雲の様子はあやしい。すぐにでも雨がふる……そう直感的に分かった。


「神崎」


 藤本くんの声が後ろからした。振り返ると、藤本くんが走ってくるところだった。


「早退するっつったら、アンリがぶーぶー言いやがって……ちょっと遅くなった?」

「ううん。十分ぴったり。打ち合わせどおりだよ」

「そっか」と彼はぎこちなく笑った。


 藤本くんは、よくこのぎこちない笑顔をみせる。シャイな人なのかな?


「帰るか」


 二人で靴を履き替え、昇降口をでた。


「そういえば、神崎、家はどこ?」

「あ、そっか! もしかしたら、家の方向全然違うかも!」


 思わず私は立ち止まった。そういえば、そこんとこなにも考えてなかった。


「うちは西通り三丁目のほうなんだけど。藤本くんは?」

「え? うちは…反対側、かな。まあ、とりあえず神崎の家まで歩こう。どっちにしろ、送っていくつもりだったし」

「でも、なんか悪い」

「いいっていいって」


 あ、今度は普通の笑顔だ。

 藤本くんは「気にすんな」といいながら歩き出した。その背中は、なんだかがっしりしてて……頼もしかった。


「それで……」


 校門をでて、しばらく歩いてから藤本くんが言いにくそうに切り出した。


「小倉と何かあったの? いや、言いたくなかったらいいんだけど……」

「……」


 それは……気になるよね。当然、聞かれるかな、とは思ってた。

 そうね。そろそろ、本題にうつらなきゃ。私はごくりとつばをのみ、藤本くんをじっと見上げた。


「そのことで、相談があるの」

「相談?」

「噂……聞いたことあるかもしれないけど。私ね、何度も転校を繰り返してるの」

「たしか、お父さんの仕事の関係だよね?」

「え……」


 ふと、藤本くんの声のトーンが変わった気がした。表情はさっきとなにも変わってない。でも、どこか雰囲気が違う。なんだろう、この感覚。こわい?


「ううん」戸惑いながらも、私も今まで通りにふるまう。「そういうことにしてはいるんだけど……本当は、父とはなにも関係ないの」

「……そう」


 藤本くんは、がっかりしたような、安心したような、変な表情をみせた。

 確かに、学校には父の仕事の関係、てことにしてるけど、何かしら。さっきの藤本くん。急に真剣な表情で、まるで脅すような声だった。私の、気のせいだよね……。


「全部、転校は私のせいなの」

「君の『せい』?」

「どこの学校にいっても、必ずけが人がでたの。それも、決まって私に近づいた男の子だった」

「……あ!」藤本くんは、なぞなぞの答えが分かったかのような大きな声をだした。


「そういえば、そんな話、平岡から……」

「やっぱり、噂ながれてるんだね」


 分かってはいたけど、実際にそうだと言われると悲しいものである。いつも私は噂の人。私の周りには、あることないこといろんな話がとびかってる。廊下を歩くだけで、まわりがざわつく。ずっとそうだったからもう慣れたけど……好きにはなれない。


「いや、噂っつうか……」

 

 藤本くんは、私が落ち込んだのに気づいたのか、あわてている。慰めようとがんばっているのが良く分かった。

 なんだか藤本くんってかわいい人だな。私はつい笑ってしまった。


「え? どうした?」

「ごめん。なんでもない」私は一呼吸おいて、また話を戻す。「噂を知ってるなら、話ははやいね。いつもなの。私と仲良くしようとする男の子は皆、怪我をするの。そして、皆、私を避けるようになる」

「……じゃ、前の学校で誰かが病院送りになった、ていうのは」

「うん。本当。それも前の学校だけじゃない。どの学校に行っても、誰かが病院送りの大怪我になって、私は転校せざるをえなくなるの」

「でも、その怪我をした奴に聞けば、犯人なんてすぐ分かるだろ?」

「それが……誰も話そうとしないの。なんでもないって言って、それきり皆、口をふさいでしまう」


 藤本くんは、眉をひそめた。分かってる。私だって、意味がわからないもの。


「俺は、ストーカーだ、て聞いたんだけど」

「……多分」


 二ヶ月前のことが頭によぎった。転校してきた日の朝、忘れ物をして家に戻ったら、私は母の変な電話を聞いてしまった。そのとき、受話器の向こうの相手に母は言った。『あんたのことは、ストーカーってことにしてる』と。あれから、母に何度か聞こうと思ったけど、言い出せなかった。怖かった。どんな答えが返ってくるのか。だって……あの会話からして、電話の相手がそのストーカー(てことにしている人物)。

 私がうつむいて黙っていると、足元の地面にぽつりと水滴がおちてきたのが見えた。


「あ」

「雨だ」藤本くんがそういった。

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