芽生えの時
目を開くとそこには綺麗な湖があった。
「ほんとに転生…したんだな。」
目を水面に下ろすと若返った自分の姿があった。
「おお…本当に若くなってる…高校生か大学生くらいか?しかし当時こんな俺の顔は整ってたかな…」
久しぶりに見る若い自分の顔にとまどっていると声がした。
「若返らしたついでにこの世界に馴染むような顔立ちにしておいたわ」
背後からするエリュンの声に振り返るが姿が見えない。
「女神さまも来てるのか?」
キョロキョロとあたりを探す太一の肩あたりからまた声がした。
「ここよここ。」
肩のあたりを見るとふわふわと光る何かが飛んでいる。
「これが…女神さまなのか?」
「あなたの精神世界ならともかく普通の世界であの姿を保つのは大変なのよ。あと女神さまはやめて。エリュンでいいわ!」
テニスボールほどの光の塊が太一に話しかける
「わかったエリュン。それで俺はここからどうしたらいいんだ?」
「何をしたっていいんだけど…そうね。とりあえずあなたの魔法の適性をみにいきましょうか!!」
「魔法の適性…いよいよらしくなってきたな…!」
憧れの魔法に太一は心踊らす。
「この通りを真っ直ぐ行くと教会があるから。そこで調べてもらいましょ!!儀式は簡単だからすぐに終わるわ!さ、出発よ!」
エリュンに急かされながら太一は一本道を歩いていく。見渡す景色には広大な平地と大きな木々がぽつぽつと生えていた。
(魔法かー。楽しみだな…!やっぱり雷属性とかかな…王道な炎も捨て難いし、クールな氷もありだな。いや、主人公なら光属性か!?)
期待を胸に太一は歩みを進める
「お。あれかな?」
「見えてきたわね」
こじんまりとした教会には屋根に誇らしげに十字架がたっていた。
「こんな小さなところで本当にそんなものが調べられるのか…?」
「つべこべ言わない!入るわよ!」
怪訝そうな太一にエリュンが喝を入れ、2人は教会に入っていく。
「ごめんください」
大きな鉄の扉をあけながら太一は声をだす
「いやはやこんな奥地の教会に来客とは珍しい…なにか用かな…?」
奥の方から神父らしきおじさんが歩いてきた
「あの…魔法の適性を調べてほしくて」
「この歳まで魔法の適性を調べないとは珍しい。だがこのさびれた教会でもそれくらいはできるぞ。決まり通り3000エリーもらうがいいかね?」
驚きながらも優しい口調で神父が話す。
「エリー…?」
太一は首を傾げるとエリュンがささやく
「この世界の通貨よ。だいたい円と変わらないわ。ポケットに多少入れておいたからそれで払いなさい。」
言われた通りポケットをまさぐると紙幣が何枚か入っていた。
「3000エリー…これでいいのかな」
1000と記されている紙を3枚渡す
(なにげなく話してるけど数字とか言葉とか日本と同じなんだな)
「言葉や文字はわかるようにしておいたからね!」
ありがちな設定だと思っていたがこれほど助かるものもない。と太一は深く感謝した。
「はいたしかに。じゃあ準備をするから待ってなさい」神父は奥へと向かっていく
(なんだかワクワクしてきたな…)
神父が戻ると太一に声をかけた
「お主の名は?神に名を申さねばならぬ」
「ふじむ…」
神父の問いに答えようとして口を閉ざす
「アレオノール!!せっかく私がつけてあげたんだからちゃんと覚えなさいよね!」
耳もとでエリュンがキャンキャンと吠えている。
神父はこちらをじっと見ている。エリュンの声はどうやら太一にしか聞こえてないらしい。
「アレオノール。アレオノールだ。」
アレオノールが名乗ると神父は手をスっと差し出してきた。
「これを握り自分と向かいあいなさい。そうすれば自ずと結果はあらわれる。」
おそるおそる何かを受け取りアレオノールはギュッと握りしめた。
(なんだか練り消しみたいな触感だな)
なんとも言えない柔らかい物体を握りしめながらアレオノールは祈りを捧げた。
「!?」
アレオノールや神父の驚きとともにアレオノールの手のひらの中からは芽が芽生え、ぐんぐんと大きくなった。そして教会を埋め尽くすような蔦を伸ばし教会をその蔦が包んだところで成長を止めた。
「おお…これは土魔法の才能じゃ。芽が生えるのは土魔法の特徴だが…これほどのものは私も見たことがないぞ。普通は小さな芽が顔を出すくらいなんだ。」
神父は驚きを隠せず声を荒らげる。
「土魔法…?俺の才能は土魔法なんですか?」
少しガッカリした様子でアレオノールが聞くとブンブンと手を振りながら神父が答えた
「ここまでの才能を持つものはとても少ない!!精進して高みを目指しなさい!!」
感情昂る神父を横目に挨拶をすまし、教会をあとにする。
「なによ、随分不満そうね」
エリュンが尋ねるとアレオノールは答える
「雷とか炎とかカッコイイのが良かったんだ。あわよくば全属性使える!とか思ってたんだが…まさか土とはなあ」
肩を落とすアレオノールにエリュンは声をかける。
「何事も大地から始まるんだから!存分に使いこなしなさい!!」
エリュンに励まされながらもトボトボと歩く2人の前にひとつの影があらわれた。
やせ細った体と大きな頭。木でできた棍棒のようなものを持っている。
「ゴブリンね。魔物の中では雑魚だけど…今のあたなには丁度いいかも。ステータスを開きなさい。」
異形の姿の生き物を目の前に淡々と言葉を放つエリュン。アレオノールは困惑しながらも言われたことをこなそうと努力した。
「す、すてーたす??」
(あ、あのよく見るやつか!!いよいよ異世界転生って感じだ・・)
ワクワクしながらアレオノールは唱えた
「ステータスオープン!!!」
なにもおこらなかった。
顔を真っ赤にするアレオノールにエリュンは笑って言う
「ステータスを開くにはマトラと唱えるのよ・・・」
「…マトラ」
恥ずかしさを押し殺し、とりあえず口にしてみるとゲームでよく見なれたようなウィンドウが目の前に広がった。
アレオノール 土属性
スキル
神々の悪戯
極めし者
ロックブラスト
まるでゲームみたいだ…と眺めるアレオノールにエリュンが声を大きくする。
「1つくらい技みたいのがあったでしょ??それを早く使いなさい!!あなた死ぬわよ!?」
死という物騒なワードにアレオノールは慌てる。
「技みたいの…!?これか?ロックブラスト!」
アレオノールが唱えると目の前に巨大な岩の塊があらわれ、ゴブリンの体に激しくぶつかった。
大きな音がした後、そちらを見ると砂煙の中から倒れたゴブリンの姿が見えた。
「なんとか…なったのか?」
「ええ。ゴブリンは倒せたわ。やるじゃない」
動転した気持ちを抑えるのに精一杯なアレオノールにエリュンは続ける。
「スキルは敵を倒したり何か大きなことを成し遂げて増えたりするわ。常時働くようなものもあったり使い道の無いものまでたくさんあるから頑張って集めることね。」
「あくまで名前としてポンと覚えるのがその形ってだけで、自分ができる範囲でこうしようって考えればそれはそれでスキルになるわ。スキルは詳しいことを知りたければ見れるから暇な時に確認しておきなさい。私もいくつか授けておいたからね。」
ほうほうと聞いているアレオノール
「あ、あとこの世界の生物はスキルという概念はあるっちゃあるけどステータスが見れたりはしないから聞いたりするのはやめなさいね。おかしな人だと思われるわ。」
「じゃあこの世界の人達はどうやってスキルを確認したり使ったりするんだ?」
エリュンの言葉に対しアレオノールは問う。
「無意識のうちに使ったり、一生その才能に気づかないことが多いわね。魔法なんて使えるだけでレアなんじゃないかしら」
あっけらかんと応えるエリュンの言葉にアレオノールはやれやれと肩を竦めた。
(この世界をつくった神様はずいぶんと適当な人みたいだな・・・)