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FRONT and BACK  作者: 稚明
終わりのはじまり
9/17

裏の僕

今日の夢の中は暗闇だけど、自分の上からスポットライトが当てられていた。

まるで学芸会の始まりのナレーターのよう。


『最後の試練、お疲れさまでした』

俺の斜め右側から声がした。上からスポットライトが当てられた。その声は真星だった。

「何が?どれが?」

『僕の願いをかなえてくれてありがとう』

俺の斜め左側から声がした。上からスポットライトが当てられた。その声は(あいつ)だった。

「だから何が?」

三人はそれぞれ感覚を開けてパイプいすに座って話している。

あれから俺は矢吹とタイマン…ではなく対等に話しをし、俺が思っていることを伝えた。納得はしていなかったけど、言いたい事を言えたのですっきりした。瀬戸はどっちつかずだった。

結局あいつらも二人でいなければ何もできないのだ。一人かけたらきっと高倉のような立ち位置になっていただろう。誰かといることで安心する、誰かがいないと不安になる。彼らもそういう気持ちを持ち合わせていたのだ。そうだよな、同じ人間なんだもんな。


『じゃあそろそろ、ネタバレ、しよっか』

『うん。僕の望みもかなったわけだしね』

真星と僕という俺が俺の知らない話をしている。何のことだ?

『君にこの間いった僕が表で君が裏というのはね、君の存在が裏なんだよ』

はぁ? 意味わかんね。裏ってどういう…

『撫川くん。ってああそうか、二人ともそうだったね。裏の撫川くん。私がコインの裏表の話したの覚えてる?』

「もう、俺のことは美稔でいいよ。…ああしたな。それが何?」

『僕は君なんだって話もしたよね』

「あーしたした。だからなんだっていうんだよ」

『美稔くんは、存在しない存在なの』

は…? いや、俺ここにいるし。存在しない、え? こいつのほうが存在しないだろ?

『存在しているのは、僕の方。僕は僕がなりたかった僕を脳内に描いていた君』

ややこしい。なんだよそれ…

『美稔くんの存在は撫川くんが見ている夢、なの』

「………は?」

『僕は、高倉利人にいじめられて、耐えられなくなって屋上から飛び降りたんだ』

いや、まてまて、高倉? いじめられて、た?

『僕は願ったんだ。人に、優しい自分になれたらな。愛される人になれたらなって』

『結果的には愛されて、た? のかな』

まって、いやいや、おかしいだろ。こんなの。俺は屋上から飛び降りて奇跡的に助かって、今みんなと笑いあって…この俺の人生が存在しないもの、だって?

『混乱、するよね。無理ないよ。だって君は君の人生を生きているって思っているから。実際この世界は撫川くんの夢に過ぎないの。私がここにいるのが何より証拠』

真星は人の夢の中に侵入できる。…そういえば誰かに依頼されたっていってたな。

「つまり、お前、俺は表の俺の夢の登場人物だということ、なのか?」

『そそ、そういうことー。だから、実際に起きてないし、君の訴えもすべて空想の世界。現実ではない、撫川美稔の妄想の世界。貴方は小説の主人公にすぎなかったの』

真星が軽くいう。あんなに泣いてくれたのに、あんなに助けてくれたのに。あんなに訴えてくれたのに。あれも空想、妄想だというのか。現実ではないと。

『美稔くんが別人になってしまったのも、表の撫川くんだったから。裏の君を使っていたから』

俺はまだ混乱している。俺は俺じゃない俺だと何回か思っていた。それがこいつ、表の俺だというやつだったのか?

『でも、君のおかげで勇気がでたよ。そして真星さん。僕を助けてくれてありがとう』

『いえいえ~。友人のお願いならなんでもしますっ。ただ、時間かかっちゃったなー』

「は、どういうことだよ?」

『私、人の夢の中というか精神の中にい続ける経験まだあんまりなくて、今回たまたまうまくいって、これ戻ったあとちゃんと意識あるのかなーって』

「真星は、お前は、表の世界でもちゃんと存在、しているんだよな」

『大丈夫、存在してるよ! ただね』

「ただ、なんだよ…」

『美稔くんのそばにはいないと思う』


そういわれて俺は血の気がひいた

真星と離れ離れになる。そう思ったら、さらに視界が真っ暗になった。存在するのに、そばにいないってなんだよ。どうしてそうなるんだよ。

『裏の僕。僕を新しい人生として生きてくれてありがとう。僕、もう一回頑張ってみるよ』

「な、なんだよ最後の別れみたいな言い方…」

『裏の君としては最後になる。僕はまだ死んでいないから』

そういって表の俺は俺を抱きしめた。体が小さな粒子で光っている。足が手がだんだん消えていく。暗闇だった世界が朝焼けの色に変わっていく。目の前にいた表の俺はださい髪型で眼鏡ででも俺だった。紛れもなく、あの日の俺だった。

「最後にお前にいっておく。言いたいことはちゃんと伝えろ。誠意をみせろ。周りに流されるな。ちゃんと考えて…」

『うん。解ってる』

「あと、もう、しのうとするな。解ってくれる奴がいるから」

『真星さん…のこと?』

「……あいつのことは戻ったら探して会いに行けよ」

『うん』

ああ、もう体半分が消えかかっている。本当に突然なんだな。夢、なんだもんな。

「あと、由津里があっちにもいたら世話しろよ」

『ふふふ、いたらね。本当に、ありがとう。もう一人の自分』

「俺はただ自分のしたいことをしただけだ。あとはお前がどうするかだ。大丈夫。信じてくれる奴は必ずいる。俺はこうなっちまうけど、きっとお前の中にい続けると思う。みててやっからな」

『うん……』

そういって俺はただの光になった…。


『もう、大丈夫そう? 撫川くん』

僕は涙を吹いて真星さんを見る。

『はい。ありがとうございます。誰に頼まれたのか解らないですけど、僕は裏の僕の意志を引き継いで、また生きていきます。そして僕の望む世界を今度は僕が作ります』

『うん。わかった』

真星さんは僕の額にキスをして、消えていった。

光に包まれている感覚になり、僕はそのまま倒れ込んだ。



ありがう、もう一人の僕

ありがとう、真星さん。

僕は一度人生に幕を閉じてしまったけど、君たちのおかげでもう一度がんばろうって思えた。

もう一度、彼に立ち向かおうって思えた。

怯えることなんてない。僕の中に【俺】がいるから。彼がいるから僕は強くなれる。

そして信じられる人ができた。それだけで力になる。



僕はあの日、屋上から飛び降り、幸いにも落下したところに木が生い茂っており、

それがクッションになって九死に一生を得た。


長い長い夢はようやく終わった。


ここで第一章「終わりのはじまり」は終わります。

彼の長い長い夢の話でした。ここから現実の話に変わります。

第二章もお楽しみ。

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