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FRONT and BACK  作者: 稚明
終わりのはじまり
4/17

忘れることは知らない事と同じ

俺はどうしてこんなことになってしまったんだろう。

今まで本当に楽しい高校生活を送っていたはずなんだ。矢吹と瀬戸が隣にいて笑いあっててクラスの奴らもつられて笑ってた。時々先生に怒られながら、学校が終わったらゲーセンいったりカラオケいったりして、勉強がおろそかになってる事を親に怒られて、優奈にいじられて喧嘩になって、でも最後には笑ってて。そんな変哲もない毎日を送っていたはずなんだ。だから屋上から飛び降りるなんてあり得ない。だけど、俺は俺の人生を変えたくて望む世界にしたくて屋上に行ったことを思い出した。


でも、なんで「死」のうとしたんだろう。望む世界にするならもっと他に方法があったはずだ。誰かに相談できたはずだ。高倉に謝ることもできた。むしろ、仲良くなることだって、できたはずだ。なのに俺は他人を傷つけることをしていたんだろう。俺は、本当に「俺」なのか?



目を開けると俺はベットの上にいた。またこの状況だ。今度はどこから飛び降りたんだ?

「あ、起きた! 大丈夫?」

「…真星。俺、一体」

「高倉くんに謝ってて立ち上がろうとして貧血起こして倒れたって。矢吹と瀬戸くんが保健室に連れてきてくれたよ。本当に仲いいんだね、君たち」

「そう、か。…なぁ真星。俺さ、自分自身が解らなくなってるんだ」

「矢吹君が言ってたよ。みのるんがおかしい。こんなのみのるんじゃないって」

「だろうな。自分でも自分じゃないみたいなんだ。頭を打ったからだけじゃない気がする。俺、高倉のことおもちゃとして扱ってたって実感が全然ないんだ。寧ろ彼の痛みをものすごく理解している。している側がされている側の気持ちをわかるっておかしくないか?」

されている側の気持ちが解っていたら彼を傷つけることなんて絶対しない。

「ねぇ、これ見て」

真星は500円玉を見せてきた。コイントスでもするのか?

「なんだよ」

「この500円玉、表と裏、があるよね。他の硬貨にもあるけど」

「それが、何?」

「物には裏と表があって、世界には朝と夜があって、色には白と黒があって、光には明るさと暗さがあって、それぞれ反対のものが存在する」

「つまり、俺にもそういう裏と表があるってことか?」

「…確証はないけどね。でもそう考えたら納得しない?」

事故の前と後の俺。まさにコインの裏と表。でもそんなことってあり得るのか?

「高倉もいってたけど、俺はみんなの知る俺じゃないっていう。俺に一体何が起きてるんだ?」

思い出したい。でも頭痛が邪魔する。飛び降りたあの日の事、その前の俺の生活、思い出したい。もとの俺に戻りたい。これ以上みんなを困惑させたくない。思い出せ、俺。

「…何が起きてるのかはわかんない。でも、撫川くんは今、幸せなの? この生活が楽しいって思える?」

「この生活が楽しいと今の俺は思っていない。俺は人に優しくしたいんだ。俺の周りが楽しい空間で満たされたら、それで…」

違う。これは俺の気持ちではない。これは、俺、ではない。誰だ? この気持ちは誰の気持ちだ?だめだ、頭が割れそうに痛い。誰かが内側からガンガンたたいているような感覚。嫌だ。思い出したい。知りたい。俺は。なんで。こんなことを思うようになったんだ? まるで、違う俺に蝕られている。


違う、俺?


「真星。鏡…持ってないか?」

「う、うん」

真星は驚いた顔をして、ポケットからコンパクトの鏡を取り出した。

鏡にうつった自分をみる。…これは、本当に俺か?

「どうしたの?」

「…俺、こんなに赤紫の髪色だったか? ピアスまでしている。これは…」


誰だ? これが撫川美稔、か?

ダメだだんだん頭が割れるぐらいいたくなる。

「う、うあ、ああああああああああああ」

「撫川くん?!  大丈夫?!」

俺は頭を両手で抱えながら痛さに耐える。何かが思い出せそうな感覚。痛さで誤魔化されている。でも我慢していれば思い出せそう。でも痛すぎて涙がでてくる。

「まって、薬、……いや、これはもしかして」

真星は俺が頭を押さえている両手に自分の手を添えた。そのあと、真星の額が俺の額に当ててきた。

「大丈夫。大丈夫」

ゆっくりと優しい声が降ってきて頭痛は少しずつ和らいでいった。真星は癒しの白魔法でも持っているのか。神社の跡取り娘だけでこんな力が使えるのか? こいつこそ一体何者なんだ。

「無理して思い出さなくて、いい。今この世界が君が望んでいたものならば尚更」

「でも俺は飛び降りた。この場所の高いところから、新しい自分になるために」

また視界がぼやける。立ちくらみのような感覚がまた襲う。

「それは君じゃない。君がなりたかった君が、今、何を望んでいるのか」

視界がぼやけているから余計に真星の言っていることが上手く聞こえない。理解できない。俺、どうしちまったんだろう。こんな奴じゃないし、でもこんな奴だった気もする。強かったと思うのに弱かったと思うことがある。泣いてるやつをキモイと思ったことがあったのに、今は自分がたくさん泣いている。誰か、教えてほしい。教えてくれよ、俺、どうしてこんなことになったんだよ。

…なぁ、真星。教えてくれよ。お前、本当は何か知ってるんだろ? 知ってるから俺に近づいてそうやって助言してくれるんだろ? 本当の俺を、誰か。



『やっと、会えた』

「それはこっちのセリフだ。お前は誰だ?」

あの溺れかかっている声の持ち主が俺の前にやっと現れた。そいつは黒髪で前髪も長く、眼鏡をかけている。迫川と同類のような男だった。

『僕は君。君は僕。僕の望む世界にやってきた僕は君だよ』

「は? 意味わかんね。俺はこんな奴じゃねーし。てか、どこに俺要素があるんだよ」

『僕は、そうなりたいと、願いながら、あの日、飛び降りたんだ』

「俺が飛び降りた理由って…」

『それは僕だよ。僕の記憶。僕の行動。そして君の感情は僕でできている』

「はー? 意味わかんねんだって。俺は俺だし、お前じゃない。何言ってんだ?」

『僕はこんな人間になりたいとは願ってなかったんだけどな~強気になろうと思えばなれたわけか』

「ちゃんと話せよ。俺がなんであの日飛び降りたのか、なんでこんな正反対な性格になっちまったのか、お前が知ってるんだろ? 今の俺がこうである理由、お前が何か知ってんだろ?」

そいつを掴もうとすると透けてつかめない。

『だから、僕は君で君は僕なんだよ。そして君の世界は本当は…』


「お、おい!!!」

俺は驚いて目を開けた。気付いたら真っ暗な自分の部屋で、時計をみると深夜の三時だった。あれから俺は真星と一緒に帰り、家に着いた後、病院からもらっていた頭痛薬を飲んでそのまま寝ていたらしい。変な時間に寝ると変な夢をみるっていうけど、本当だな。なんだよ、俺だというあいつは一体何者なんだよ。真星は今回やってこなかったけど、俺は夢の中のあいつと話すことができた。それだけでも少し進んだような気がする。真星に話したいが時間も時間だったので、明日学校に行ったら話そう。

俺はもう一回寝転がり、目を閉じた。



「その子と話せたんだ~で、どうしたの?」

登校中に真星に会えたので覚えているうちに話しておこうと思い引き止めて話をしつつ学校へ向かった。

「なんかよくわかんねぇけど、俺はあいつであいつは俺でってわけわかんねーことばっかいってて。見るからに真逆キャラだったんだぜ? 陰キャ中の陰キャ。俺はあんなんじゃねーし。でさ、俺の世界は本当は何なのか言わずに目が覚めてさー」

俺は笑いながら話していたが、真星は難しい顔をしながら考え事をしていた。面白い話として話していたんだけど、真星は真剣に聞いてくれていたみたいだ。なんか申し訳ない。

「撫川くん、本当に覚えてないの? その子の姿…」

真星が何か言いかけたとき、真星の目線に何かがとまった。

「…み、美稔!!」

呼ばれた先に目線をやると、そこには茶髪のナチュラルカールがとてもかわいいふわっとした女子がいた。直観でわかった。この子が俺の彼女と言われている人だ。

「よ、よかった…生きてて、よかったよぉ~」

その子は俺に抱き締めてきて泣き出した。ちょ、俺にとっては初対面なんだけど…!

「あー、この子が撫川君の彼女か。なるほど」

いや、真星、何納得してんだよ、俺チョー困ってるんですけど!

「なんで、学校来る日にラインくれなかったの? 私ずっとつらくて家にいて、学校に来るのも苦しくて、でも噂で美稔が復活してるって聞いて、私、私会いたかったんだから!!」

肋骨が折れそうなぐらいの勢いで俺を抱きしめる。かわいいけど、めちゃ痛い。

「あー、ごめんごめん。なんかバタバタしてて、あと、ごめんなんだけど、俺あの事故の後遺症で少し記憶喪失になってるぽいんだよ」

「わ、私とのあれやこれを忘れてるっていうの?! その辺は大丈夫だよ! 美稔が生きてる限りまたすればいいんだから!」

いや、何の話?! 俺はこの子の名前を聞きたいだけなんだけど。

「で、その子だれ? あの~美稔は私の彼氏なんですけど~」

あっかんべーの顔で真星にいう。いやその前にお前の名前を教えてくれ。

「撫川くん、こういう子、好きだったんだ~。まぁ胸はふくよかだもんね」

にやりと真星は笑う。いや、助けてくれよ、俺はこいつの名前を聞きたいんだー!

「そうよ! 私、由津里(ゆづり)千紘(ちひろ)はEカップよ!!」

まぢかよ、どうりで俺の脇腹に素敵な脂肪が二つ当たってると思ったよ。いや、その前にまさかこのタイミングで本名を知れることができて、ラッキーだ。

「なるほど~ふーん」

意味深に俺を見るのはやめてくれないか、真星。俺は胸のでかい子を基準に選んだわけではない、たぶん。

「で、えーと、由津里は、俺と付き合ってんだっけかな?」

「むー、そうだけど~美稔は私の事そう呼ばないでしょー? ゆづりんって呼んで!」

まぢか。みのるんとゆづりんってなんだ俺たちお笑いでも目指してたんか? 真星はクスクス笑う。いや、一番笑いたいのは俺なんだけど。

「でも、元気でよかった! 美稔が生きてて、よかった。嬉しいから今日一日テンション高めに過ごせそう!」

なんて単純な子なんだ。そのあとまた昼休みに会いに来るといって、先に教室へと向かった。

「なんか不思議な彼女だね、撫川くん」

「いや、俺覚えてないから。彼女いるのすら実感ないんだから」

「まーね。そりゃそうだよね。でも彼女がもしいたらあんな子がいいってことなんだろうね」

「…真星、それどういうことだよ?」

俺が望んだ彼女像があの子なのか? いやまて、彼女実在してるじゃん。俺の妄想の具現化された姿なら他の人には見えないはずだし、そんな都合のいい世界なんてできないだろう。

「撫川くん。私会った時からずーーーーーーーーっと君にきいてるよ?」

そんなためていうことではないと思うのだが、確かに真星は最初から俺に聞いてきていた。

【これは君が望む世界なのか】どうか。


ぶっちゃけ言おう。由津里は、俺の理想の女子そのものだ。


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