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FRONT and BACK  作者: 稚明
新しい真実
14/17

新しい箱庭-2

朝のHRが終わったあと、俺は担任に話がしたくて追いかけた。


「先生、あの」

「ん? どうした撫川?」

その余裕な笑顔を俺は知っている。そんなことってあるのか。

「先生、妹いますよね? 真星千紗、っていう」

「…それきいちゃう? 今きいちゃう?」

軽いノリで俺の質問に答える。本気度が伝わらない。茶化されているように感じる。

「俺、真剣にきいてるんですけど」

「あーはいはい、そんな怖い顔しなーい」

先生は俺の両肩に両手をポンと添えた。

「君の思っている通り、俺は千紗の兄、真星八尋(まなぼしやしろ)だ」

やっぱり。そうだったんだ。

「でも、だからってお前に千紗と会わせるわけにはいかない」

「な、なんで?」

「まーずは、お前はたたかわなくちゃいけねーんだろ? 千紗たちから聞いている。だから俺はここにいる。お前のサポートをするためにな。まぁ、高倉はそんなこと知らないから邪魔はされないだろうし、俺は担任という立場を利用するまでだけど」

「でも、なんで真星に会えないんですか? 彼女は今どこにどこの学校に行ってるんですか?」

「…お前はあいつがいないと何もできない奴なのか?」

そんなことはない。たぶん。でも彼女がいてくれたら俺はこれ以上強い気持ちでいられる。

高倉利人に勝てる気がする。

「ま、とりあえず千紗に会わせることはできない。お前のためだ。あと、何かされたらまず俺にいうこと。一応学年主任や生徒指導の先生たちには気を配れって言われてるから」

先生は俺の頭を撫でた。少し安心する。真星のお兄さんと知っただけで、心強く感じた。

「…わかりました」

そして先生と別れた。


教室に戻ったら高倉利人ら三人でだべっていた。俺をちらちら見ながら。

そういえば、迫川さんは同じクラスじゃないみたいだ。

俺のクラスは高倉利人たちを除けばそれなりの人たちだ。俺みたいにネクラ・陰キャの奴はいない。

女子もそうだ。ギャルの女子たちを筆頭にそれに付き添う女子たち、自分たちの世界を作っているグループ。カーストがすぎる。自分は劣ってはいないとしている空気が出ていた。


「ねぇ~撫川くんって彼女いるのー?」

俺は席に着き次の授業の準備をしていたところにギャル女子がやってきた。

一人は金髪に近い髪色をした少しカールのかかった化粧濃いめの子。

もう一人は黒髪の長い髪をなびかせている子。なぜか逆らえない雰囲気だ。

正直怖い。高倉利人たちよりたちが悪そうだ。

「…いないよ」

「じゃあー誰にそそのかされてそんなイメチェンしたのー? 利人だっていってたじゃん」

「そそ、もしかして利人のまねでもしてんのー?」

キャハハハハハと笑いながら聞く。

「そういう風に笑わないでほしいんだけど」

「あと、そうそう! 屋上から飛び降りたときの気持ちってどんなだった?」

「あれじゃね? バンジーみたいな気分とか? やったことないけど」

ナニソレーといいながら二人は笑いあっている。

人の命があの場所で終わろうとしていたのに、よく笑っていられるな。


でも、もし俺が死んでしまっていたら、彼女たちはそうやって笑い話しにしていたのだろうか。


「結構スリリングだったよ」

「えーまぢぃー? スリリングだってー!」

金髪カール女が教室にいるみんなに聞こえるように言う。

ヤバくねー。くそうけるー。そういいながら二人は笑う。

何がおかしいのだろう。人の死に対してなんで笑い話にできるんだろう。


俺はどこからか怒りがあふれてきた。でも冷静だ。なんだろう。頭がさえている感覚。

「じゃあさ、試してみる?」

俺はそういって金髪カール女の腕を持ち、教室の窓際まで連れてきた。


「いたっ。なにすんの?!」

「スリリング味わいたくて笑ってんだろ? やってみなよ」


俺は窓を開けた。そこは三階。風もあの時と変わらないぐらい優しい。

「ほら、した見ろよ。どう? スリリングだろ?」

俺は彼女の頭をぐいっと押し込むように窓の外に出した。

「や、やめてよ! やだ! たすけて!」

「は? どんな気持ちか知りたかったんじゃねーのかよ」

俺は彼女の耳元で囁く。俺の気持ちはこんなんじゃ収まらない。

「うんうん! わかったから! だから離してって!」

そういわれても俺は彼女の頭を押していた。ぐいぐい上半身もう窓の外に出ていた。

「…死ぬって怖いだろ? だからもうそうやって俺の事茶化さないでくれる?」

「うん! 解った! わかったから!!」

彼女は腕をバタバタさせながら俺の手をはねのけようとする。

「そんなことしてたら本当に落ちるよ? それこそスリリングだね」

俺の中の知らない俺がニヤリに笑う。これを仕返しというには不気味すぎるかな。

彼女が少し泣きそうになっていたので、俺は頭を押さえ終えた。そして彼女にビンタされた。


「な、なにすんのマヂ、バカじゃないの!!」

「大丈夫?!」

クラスのみんなは彼女に寄ってきた。今まで止めようとしなかった奴らが湧き出てきた。


「バカだから俺は飛び降りたんだよ。わりぃかよ」

クスっと笑った。そう、バカだから考えがそれしかなかったんだよ。

でもそのバカのおかげで俺は救われたんだよ。

救ってくれた人がいたんだよ。お前たちと違う。


「おーい、何があったんだー? 撫川」

おいおい、誰かが担任を呼びに行っていたらしい。あぁ。もう一人の黒髪女子か。

「ちょっとスリリング知りたいっていうもんだから、味わせただけ特に何もないっすよ」

両手を上げて降参のポーズをとりにっこり笑い先生の質問に答えた。

「お前なぁ~。あと、お前らも、学校は勉強しにくるところだ。人を傷つける場所じゃない。撫川、お前が一番解ってるだろ?」

ああ、知っている。知っているよ先生。でも、俺だけの感情にしたくないじゃん。

「はいはい、すみませんでした」

俺はあっさり謝罪をし、席についた。


そしてそれからは誰も俺のところには近寄らなくなった。

むしろ裏で俺をどう落とし入れようか計画を立てているように思えた。何でもこい。

やられた分のお返しをしてやる。


これは僕がいままでされてきたことの反撃なのだから。

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