表の僕
表の世界、現実世界の話いよいよスタートです。
僕は何日の間あの暗闇にいただろう。
大きな扉をくぐってそれから、望む世界を目指して
なりたい自分を創造して、願いが叶って、僕はなりたい僕を描けた。
彼女は最後に言った。
『描くだけでは妄想のなかでは実現とは言わない。本当に行動に起こすことが貴方にとっての始まりだから。だから、まず楽しいことからはじめよう?』
彼女は一体何者なのか、僕たちも解らなった。誰の依頼で僕を助けに来てくれたのだろう。
真星さん。僕たちは、一番君に救われていたんだよ。ありがとう。
あれから僕は目を覚まし、みんなが驚いていた。家族はそんなにだったけど、病院の関係者たちは僕の生命力に称賛の声を上げていた。それはそっか、学校の屋上から飛び降りて、木々に助けられて、足の骨折と頭の強打で済んでいるんだから。僕の生命力は凄いだろう。
でもね、これはきっと神様が僕にくれた最後の試練なんだと思うんだ。もう一度踏ん張れと、限界のきていた僕に、もう一度、残酷な現実を生きろと、命を粗末にした罪だと、言われているようなんだ。その代り、神様はヒントをくれたんだと思う。僕の中で俺が生きてくれたこと。僕がなりたかった僕を過ごしてくれたこと。その意志はきちんと僕の中にある。それがなければまた僕は命を粗末にするだろう。
入院からリハビリをうけて、動けるようになり、自宅療養になったが、いまだに家族との会話は今まで通りだった。母親は自分を責め続けていたし、父親は無関心。妹ですら僕を避けていた。
完全に家族として機能していない状態。僕はそれを望んではいない。なら、前に進もう。
あの飛び降りから三か月がたち季節は春になっていた。
学校へ復帰の手続きと今回の事を先生や校長に話をした。自殺したのかと聞かれたが、そこは濁した。したといえばきっと高倉利人が責められるだろう。僕はそれはしてほしくないと思った。それでは僕の望む世界ではないからだ。校内を歩く。久々にきたようなそうでないような変な感覚。今、後ろから真星さんが現れそうな気がしたが、先生にきくと、真星千紗という学生はこの学校にはいないと言われた。
「な、撫川、くん?」
その声に驚き僕は振り向いた。
「迫川さん…こんにちわ」
「…よかった。生きててくれて」
迫川さんだけは夢の中と変わらない。そのままだ。だから違和感がない。
「僕も自分で驚いているよほんと」
「あ、あのね。私、あの…」
「そうだ、あの後クラスのみんなとはどうだった? あれから、僕がいなくなって、迫川さん、大丈夫だった?」
「…うん。誰もが誰かを責めているような感じ。ピリピリしていたよ」
僕が屋上から飛び降りたのは誰のせいだという論争が進級しても終わらないらしい。もし僕がここに生きていなかったらそれがずっと彼らにあって、忘れられない事件になっていただろう。でも。
「そう、うん。いいんじゃないか。誰のせいかって改めて考えてもらうのも悪くない」
誰かのせいにして、自分を保とうとする。それは夢の中でもあった話だ。現実でもあるはずだ。
「…撫川くん? なんか変わったね」
「そう、かな? たぶん信じられる人に会ったからだと思う。それだけでもう一度やり直そうって今は思えるんだ」
「それってもしかして、千紗の、こと?」
その名前をきいて僕は驚いた。迫川さんがなぜその名前を。
「迫川さん、真星さんを知ってるのか…?」
「うん。私が撫川くんを助けたくて、目を覚まさない撫川くんに声を掛けてほしくて」
「迫川さんだったんだ…真星さんがいってた依頼してきた子って」
世の中の狭さを痛感した。血眼になって探さないといけないのかと思っていた。迫川さんの友達だったんだ。
「私が、あの日、撫川くんを見つけたから。私があの時、あなたを助けていればって…」
迫川さんはあの日のことを思い出したのか泣き始めた。罪悪感があったのだろう。そうあの時僕は見下されたことに絶望を感じて、教室で暴れて、身を投げた。最後に会話した人が彼女なら先生たちはいろいろ聞いてきただろう。責められたかもしれない。学校からクラスのみんなから。
僕は迫川さんの頭にぽんと手を置き、撫でた。
「君のせいじゃないよ。僕が弱かっただけ。心が弱かっただけだから。でも大丈夫。真星さんを呼んでくれたおかげで僕は強くなった。信じられる人を僕の中につれてきてくれてありがとう」
子供のように彼女の頭を撫でた。緊張の糸が途切れたように、迫川さんは泣き始めた。
ありがとう。君も僕を助けてくれた。夢の中では僕の本心を暴いてくれた。君は強いよ。
だから僕も強くなりたい。
自分を保つだけではない。誰かを守れるような、力がほしい。
僕はこの人生をまた生きていけるのだから。終わりにするまで僕はやり遂げよう。
僕の望んだ世界は作れる。あれが夢だったとしても、真星さんがいるとわかった以上僕は前に進める。
僕の見た目はダサいままだった。前髪は目にかかり、眼鏡をかけている。陰キャそのもの。
裏の僕になれば、真星さんが見つけてくれるかもしれない。なんて安易な考えが頭をよぎり、僕は髪を同じ赤紫に染めた。ショッピングモールでピアッサーとピアスを購入した。陰キャのままだと、また同じことをくりかえすだろう。なら僕は裏の僕になって生きよう。そして眼鏡をはずし、トイレの鏡の前に立ってみた。うん。夢を現実にするとはこういうことだな。見た目を変えた途端、僕の中にいる俺になり始めている感覚になった。
「さて、新しい人生のはじまりだ」
にやりと笑い、僕は俺として生きる決意をした。