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神無月の守護者  作者: なまこ
皐月
9/53

番外編 黒川涼空の憂鬱

こちらの小説は

ネットプリントにて先行公開していた

「神無月の守護者 第3巻」の番外編作品です。


これを読まなくても本編に支障はありません。

ストーリーの展開を考察する上で役立つかな? くらいのものなので、気軽に読んでもらって大丈夫です。

大学の講義がいきなり休講になった。

家に帰るのもめんどくさいから、その辺の公園のベンチに座って本を読む。平日真昼間から親子連れが遊んでる。……目を逸らしたくなる。


この力を手に入れる前までは、色んな本を読んできた。と言ってもまぁ、そのうち四割は漫画なんっスけどね。だが、今手に持つ本はそんなくだらない本とは格が違う。おもちゃなんかじゃない、本物の魔術書……。


本をぱらぱらとめくる。本来、内容を見なくたって覚えているが、力の発動には、各ページに描かれている魔法陣が必要であるため、いちいち開かないといけない。ここが難点だが、本物感があるっちゃある。


さて、そろそろよそに行って魔法の試し打ちでもしてくるか……と思って、視線をあげた。

……目の前に子どもがいる。いや、厳密には高校生がいる。


「……何してんスか?」

「あっ! ごめんなさい。ちょっと面白そうな本読んでるなぁって思って覗いてました……」


紫がかった髪をふたつに結っている。高校はウサギ野郎と同じ所っぽいんっスけど……高校生はこの時間学校ッスよね?


「お嬢ちゃん、学校どうしたんだい?」

「……サボりました」

真面目そうな見た目してるのに、学校サボるのか……と思ってると、その子の腹が鳴った。

……顔が赤くなっていくのが目に見えて分かる。


「……聞こえました?」

「あーまぁ。バッチリ。」

顔がさらに赤くなっていく。ワタワタと視線を変えて、何かを探しているが、見つからなかったらしい。


「あの……すみません、隣いいですか。場所がなくて……」

あぁ、昼飯食うんだな。そういやそんな時間か。


「構わないっスよ?」

「ありがとうございます……!」

そう言うと、その子はちょんと横に座った。

カバンからおにぎりを取り出して食べだした。その姿が、写真で見るハムスターと重なる。


「お嬢ちゃん、なんでまた学校サボってみたんっスか?見た感じヤンキーとかではなさそうなんっスけど」

口につめたおにぎりを飲み込むと

「えっと、ちょっとどうしても行きたい所があって…そこに行ってました」

「へぇ。若い子は元気でいいねぇ……」

「良くはないですよ、多分後でお母さんにバレて怒られちゃいますもん」

しゅんとしていた。


「まぁ、若いうちの冒険は大事っスから。大人になるとそういうこと出来ないんッスよ?」

「そうなんですか……やっぱり大人って大変だなぁ」

カバンからもうひとつおにぎりを取り出して、また食べ始めた。


お嬢ちゃんのカバンの上には、やたら古い本が置かれている。俺の魔術書よりも年季が入ってそうな本。


「それ、なんの本なんスか?見た感じだいぶ古そうなんっスけど……」

「……これはですね、この町の歴史書です。昔の彼岸町についての事がたくさん載ってます。」

「町の歴史かぁ……勉強熱心なんっスね。」

「いえ、趣味みたいなものなので……」


趣味で歴史について調べる子が、この時代にも残ってるんっスねぇと思いながら、本の表紙を見ていた。


「そういえば、お兄さんってさっきなんの本読んでたんですか? 文字はよく読めなかったんですけど……」

内容が内容だから、すんなりと教える訳にもいかねぇが……まぁ、よく分かってねぇだろうし、上手く誤魔化すか。


「そうっすねぇ……西洋の歴史について書かれた本っスね。お嬢ちゃんには難しいかもしれないっスけど」

……目が輝きだした。やべぇ、西洋医学とかって言えばよかった。


「西洋の歴史!? どんなですか!? 西洋もまた日本と違う味がありますよね!」

「あぁ……そうなんっスよ。って言ってもまぁ、これどちらかと言うと西洋の歴史の中の怪談っぽいっスから、ちゃんとした歴史ではないっすよ……」

更に目が輝く。やってしまった、子どもはこういうのの方が好きに決まってるよな。


「怪談ですか! 現代風のだと、妙にリアルで怖いんですけど、昔のなら面白いですよね。どんなのですか?」

おぉ……どうしよう。


「そうっすねぇ。吸血鬼のお話とかっスかね。」

輝く目が眩しい。詳しく聞きたいと言うことだろう。

「……まぁ、その昔、吸血鬼の女の子がいたんっスよ。見た目は子どもなんっスけど、一応大人みたいな感じの。んで、その吸血鬼は、夜な夜な宙を飛び回り、一人深夜に動き回る人を後ろから襲って……わぁ!!! みたいな。」

わぁ! って言ったところでちょっとビクってしてたな。……周りの親子連れの目線もちょいとばかし痛かった。


「面白いですね! 吸血鬼、かっこいいですもんね……!」

「おう、そうっスね」

なんとか誤魔化しきった。若干身内を売った気がしなくもないっスけど……まぁいいっすよね?


すると突然、俺のスマホの通知が鳴る。液晶に時刻が映った。それを見るなり、お嬢ちゃんはビックリして


「うわ、もうこんな時間だ! 行かないと……」

そう言うと、お嬢ちゃんはスっと立ち上がった。


一時して、何かを思いついたようにカバンを漁り始める。すると、もうひとつおにぎりを取り出した。


「よかったら食べてください! いろいろお話出来て楽しかったです」

「あぁ、ありがとう。」

なぜか受け取ってしまった。


「あの……ありがとうございました!」

そう言うと、お嬢ちゃんは去っていった。


手に残ったおにぎりを見る。他人の手料理なんていつぶりだろうか。

それを口に運ぶと、なぜか懐かしい味がした。

「あぁ、こういうののこと家庭の味って言うんだろうな。懐かしい。」


さっと食べてしまい、俺もベンチから立った。そうしてフラフラと公園から出て、路地裏へ入っていった。


お嬢ちゃんはどこへ向かったのかわからない。ただこの先も道に迷わず、陽の光の当たる場所で元気に過ごしてくれればいいと思った。

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