皐月(3)
俺は柚希先輩の後輩、旭飛に連れられて廊下を歩いていく。新入生に引っ張られながら廊下歩いてるって、まぁ、面白い状況かもしれない……。
そんなこと考えてると
「着きました!」
着いたのは文芸部の部室。なんで文芸部なのかはわからないけど……。
「ちょっとまってくださいね……」
そう言うと、旭飛は大きく息を吸って
「小春ーー!! おるーー??」
叫んだ。いや、部室そんなに広くなさそうだからそこまでしなくても聞こえると思う。あー、案の定部員の人達ビックリしてる。
「ちょっとちょっと旭飛!! そんなに大きな声出さなくても分かるって!」
そう言って、出てきたのはツインテール……にしては少し位置が低めな髪型の、旭飛より小柄な少女だった。
「いや〜ごめんごめん、つい。んでさ、この間の彼岸町の資料ってある? ちょっと見たくて」
旭飛がそういうと小春という少女はキョトンとしていた。そして俺を見て驚いた。
「えっ!! まって男の子いるじゃん! もう男の子の友達作ったの!?」
ん、友達……?
「あぁ、えっと……初めましてだね? 俺は歌田兎夜。引っ越してきたばっかりの二年生。よろしくね」
さらにビックリして
「えっ!! 二年生……!! ごめんなさい制服が真新しくかったので同い年かと……」
「いや、分かる……でも言うて俺も一年生と変わらないっちゃ変わらないから大丈夫だよ。ビックリさせちゃったね」
「……ちょっとまっててください! すぐ資料持ってきます!」
そう言って小春ちゃんは部室の奥に走っていった。
「小春、人見知りなんですよね〜。すぐ赤くなるんですよ。色が白いから余計に目立つし」
「へぇ……小春ちゃんとは昔から仲良いの?」
「仲良いですよ〜、小学生の頃からの友達です。小春、高学年で転校してきたので、小学校で一緒におれた時間はそんなに長くはないんですけど」
明るい笑顔で話す。
「持ってきたよ〜、これ?」
そう言って持ってきたのは彼岸町の歴史に関する資料だった。
「そうそう! えっとこれの真ん中過ぎくらいの……あっ! これこれ! 邪神様伝説のやつ!!」
「えっ、邪神様!?」
思わず声が出た。たしか邪神様って全身真っ黒男が言ってたあの……。
「兎夜先輩知ってるんですか?」
旭飛が聞いてくる。
「……このさ、邪神様って何? 引っ越して来たばっかりで、この町についてよく分からないんだけど……」
「あー、私も詳しくは知らないんですよね。ただ、小春が、この資料見てる時に一緒に見てただけで……。小春はその邪神様うんぬんみたいなのは知ってる?」
「一応資料に載ってた分だけやね。これ、途切れ途切れやし、わからん所もあるんよ……。だいぶ古いしねぇ…」
「小春、説明できそう?」
「うーん、ちょっと自分の理解してる範囲でまとめてみる!」
そういうと小春ちゃんはペンを取った。
邪神様、それは遠い昔この彼岸町に現れたそれはそれは恐ろしい見た目をしており、この町に災害をもたらしては人々が苦しむ様子をみてよく笑っていたという。そんなある日、邪神様は仰ったのです。「生贄を差し出せ、そしたら五年間は平和に過ごさせてやる」
人々は、町で一番偉い家の綺麗な娘さんを生贄に捧げました。すると、本当に五年間平和に過ごすことができました。それ以降、五年に一度この町にくる邪神様に生贄を捧げ、町の平和を守るのでした。
「……って感じのやつなんですけど……どうでしょう?」
流石文芸部。文を書くのがめっちゃ早くて分かりやすかった。
「ありがとう分かりやすかった! ……で、これって昔話なのかな。未だにこれが続いてるなんてことはないよね?」
「……私もそう思ってたんです。でも、兎夜先輩のリストバンドが……」
そういうと旭飛は資料の絵を指さした。
黒いモヤモヤと腕になにか巻いてる人間。そして巻いてるものがキラキラ光ってる……そんな絵。
この町に来てから不思議なことが結構あったし、正直これが何かに関係していても不思議ではないかもしれない。
「これは文章が添えられてないんですよ。だから、なんの絵かもわからないんですよね……」
小春ちゃんは色々な資料を読み漁ったみたいだけど、それっぽい文献は見つからなかったらしい。
「うーん、生贄っていいイメージないんよね……この負を断ち切るヒント!! ……みたいな?」
「負を断ち切る? ……お祓いみたいなイメージなのかな?」
「兎夜先輩……それありそうじゃないですか?」
ここで、下校時間のチャイムがなった。
意外と時間が経ってたみたい。
引っ越して来たばかりで、この町の昔話に俺が関係しているわけは無い。けど、少なくても、この昔話は、まだ終わっていない……そんな気がした。