番外編 赤沼樹は夢を諦めたくなかった
こちらは、赤沼樹の過去とその後を語る番外編です。当初制作予定ではなかったので後日追加になってしまいました。
……目が覚めると宙に浮いていた。一瞬びっくりして声が出そうになったけど、ことを理解して言葉を飲み込んだ。
「目、覚めた? 暴れすぎだよ赤沼ちゃん」
上を見るとサナちゃんがこっちを見ていた。
「俺が女じゃないの知ってるだろ? いいんだぜ普通に呼んでも」
「いや……なんかもう女の子の姿に見慣れちゃったからちゃんでいいよ。呼び直すのもめんどくさい」
「そっかぁ」
沈黙が続く。空は段々と黒くなっていった。
「もう、変身は出来ないんだろ?」
俺は守護者に浄化された。邪神様から得る力は、核を突かれれば失われてしまう。そういうもんだって聞いていた。
「そうだね。赤沼ちゃんはもう、赤沼ちゃんにはなれない」
「あー分かってるって! 別に俺女になりたかったわけでもねぇからそんなに問題はねぇよ」
「……もう、多分会わない。でも、それがいいんだよ。これからまた、辛いかもしれないけど……大丈夫だと、私は思ってるから」
サナちゃんがそんなことを言うと、急降下して、地面に降ろしてくれた。俺の家の近くにある小さな広場に着いたらしい。
「なんてねぇけど、少し悲しいこと言うなサナちゃん。もう会わないって」
「せめてもの……って感じだよ。みんなにこういうこと言ってるの。別に、赤沼ちゃんだけじゃないよ」
「はぁ〜なるほどねぇ。かわいいのに優しいなぁサナちゃん!」
俺がそう言うと、サナちゃんは羽を思いっきり広げて俺を叩いた。かわいいと優しいどっちが気に入らなかったんだろうな。
「じゃあね。頑張って」
「おう、ありがとうな」
サナちゃんはそのまま飛んで、彼岸町の方に帰って行った。
「……さて」
街灯の灯りに虫が寄り付いているのを見ながら、俺は立ちすくんでいた。
「……いい加減に、真っ向から立ち向かえってか? ハハっ、立ち向かって変わるなんてこと、あるのか知らねぇけど。
街灯の光が遠ざかる。全て闇に吸い込まれていくような感覚がするが、これ以上の逃げようもない。脳裏に過ぎった過去の記憶が鮮明に映像として流れ出す。
「俺は……」
「出来の悪いやつだな」
親父もお袋も、俺が中学生になって以降、しょっちゅうこんな言葉を投げかけてきた。別に、親父もお袋も出来がいいわけじゃない。出来がいいのは……。
「ねぇみて! また学年一位取れたよ! 県内模試もトップクラス!」
姉貴……ひとつ上の姉。名前は椿、赤沼椿。容姿端麗で博識洽聞、なんでも出来てしまう将来有望な姉貴。育った環境も親も何も変わらないのに、俺と姉貴の差は天と地どころの話ではなかった。自分たちの子どもがすごいってわかった途端に、親父たちは鼻高々になっちまって、出来のいい姉貴を立てては、出来の悪い俺を蹴落とした。そんな日々だった。
家に居場所がない俺にも、救いというものはあった。日曜の朝、テレビをつけるとそこに救いは待っている。
「やぁ、良い子のみんな! テレビを見る時は部屋を明るくして、テレビから離れて見てくれよ!」
一般的には子ども向けとされているけど、俺にとってはこれが救いだった。
小さい時から、ヒーローが大好きだった。どんなピンチも巻き返して、いつでも最後は笑顔でみんなを守るヒーローが。
小さい時はよくヒーローごっこをした。家で遊ぶ時は、姉貴と魔法少女ごっこかヒーローごっこかで揉めていたような気がする。この時はまだ、親も俺らを平等に扱ってくれてたんだけどな。まぁ、気がつけばこんなもんだ。
俺はいつだって、ヒーローみたいになりたかった。もちろん、本気で変身できるなんて中二を過ぎたあたりから思わなくなった。だから単純に、あの映像を作る側になって、誰かの救いを作り出したいと思っていた。それが、俺にとってヒーローになるということだった。
「よっ、おはよ! あっ、あんたまだそんなん見てんの? ガキねぇ」
小馬鹿にされるのも分からなくは無いけど。
「よぉ姉貴。姉貴も変に化粧品なんかに手ぇ出して、いかにも大人です〜みたいな顔してんなよな。来るだけで香水クセェぞ〜?」
「はぁ〜?」
ある種のやり返しだ。朝から賑やかになってしまうことも、まぁ、よくある事。姉貴のことはあんまり好きじゃねぇけど、嫌な奴ってわけじゃねぇ。度々親にコテンパンにされる俺を笑うこともなければ、下手をすると庇おうとすることもある。だから、あんまり好きじゃねぇと思うのかもしれねぇけど。
貶され続けて約三年、姉貴は県内で一番頭が良い高校に通い始めた。それと同時に俺は受験期に入っていった。親父達はお前なんか高校に行く必要もないだろ、というか行けないだろと笑ってバカにした。思わず
「うっせぇんだよ、バカにしやがって」
と舌打ちを打ってしまって、半日家から追い出されたこともあった。
貶され続けた俺は真面目にお勉強なんざする訳もなく、底辺をうろついていた。夏頃にはさすがに担任も俺を心配した。半ばバカにしたような目が気に食わなかった。
「だー! かったりぃ! どいつもこいつもバカにしやがって。いや、バカだけど! あーうぜぇ」
制服のままベッドに倒れ込んだ。バネが跳ねる音が聞こえた。
「否定ばっか、クソ喰らえ」
一人でボヤいていると、棚の上に飾ってあるヒーローのフィギュアと目が合った。
「……やめろよ、お前まで俺をそんな目で見てんじゃねぇよ」
もちろん返事はない。
「俺だってよ、目標くらいあるんだぜ? 私立だけど、西映高校の写真コース行きてぇんだ。撮影の技術学んで、映像作りてぇんだよ。お前みたいなかっこいいヒーローを魅せることができるやつ」
チラッとまたヒーローのフィギュアを見る。ふとバカバカしくなって一人で笑った。
「フィギュアに話しかけるとか、ガキじゃんか」
黙ってベッドに座っていると、姉貴のただいまって声が聞こえた。それのすぐ後に、お袋のメシできたコールが聞こえる。かったるい体を勢いよく起こして部屋を後にした。
この日、俺はまた親父たちに受験のことを聞かれた。あれだけ否定していながら今度は、自分たちの子どもに中卒がいるのは恥ずかしいとか言い出した。自分勝手も甚だしいな。
「行きたいところとかないのか?」
どうせバカにするんだろうけど、立ち向かってやる。意思は攻撃的なものだった。
「俺が行きてぇのは私立西映の芸術科写真! それ以外は一切受け入れねぇ!」
さぁ、なんとでも否定しろ、馬鹿だのアホだの聞きなれた。
「そうか、ちゃんと身の程にあった所で助かったよ。じゃあ、そこ受かれるように頑張れよ」
……否定されると思ってたもんだからだいぶぽかんとしてしまった。ちょっと嫌味臭い言い回しは腹が立つけど、否定されないだけマシだ。久しぶりに夕飯が美味かった、単純だ。
それから、俺は特に苦労することなく私立西映の写真科に入ることができた。一眼も手に入れて、俺は気がついたら夢の一歩を踏み出しているような形になっていた。
「なんか、気持ちわりぃよな」
そんな独り言を呟きながら、通学路を歩いた。
高校生になってもバカだの出来が悪いだの言われるのは続いた。けど、それも気にならなくなったし、頻度も減った。姉貴は相変わらず頭が良い。常に学年一位に居座っているらしい。
高校のクラスは多いけど、俺ら芸術科は一クラスしかない。しかも、写真、デザイン、音楽コースが混ざっているから完全に同じ授業を受けるやつはクラスに十人くらいだった。パッと見変なやつらだらけで、いかにも芸術科って感じがする。
「え、それ限定版シンジラのストラップじゃん。持ってるやついるんだ珍しい」
後ろの席のやつが話しかけてきた。
「えっと? い、い……」
「岩岡滋俊だよ。もしかしてシンジラとか、ヒーローとか好きだったりする?」
「お前……もしかして同志か!?」
「そう。僕もそういうの好きだけど、この歳になるとなかなかいなくてね。こんな所でわかる人に会えるとは想わなかった。よろしく」
「おう! よろしくな!」
まぁこんな感じで、同志に会うことも出来たわけだ。残念なことに、そいつは音楽コースだから話すのは昼休みと放課後くらいだけど、結構話が盛り上がって楽しかった。
そこそこ順調なハイスクールライフ。まだ否定は食らうけど気にもしねぇくらいに楽しかった。けど、人生はそんな上手くいかねぇもんだった。
「……会社が倒産した」
親父が働いていた会社が倒産したらしい。なんやかんや言いながら、親父も結構立ち位置登りつめてたらしくて、だいぶショックを受けていたうえに、金が入らなくなった。
「……なんかうちやばいよ。お父さんおかしくならなきゃいいけど」
「大丈夫だろ。親父すげぇ仕事してたんだろ? なんとかなるって」
リビングの近くのドアに隠れて、俺と姉貴は親父たちの様子を見守っていた。
最初は何とかなるんだと思っていた。けど、しばらくしても親父の仕事先は見つからなかった。親父もお袋もうちはそこそこ歳で、高齢の人材は求めないとどこもかしこも突き飛ばされるらしい。俺に出来が悪いだのなんだの言ってた親父も、さすがに元気をなくして小さくなっていった。
家から金がなくなっていってるのは、家にあるものや食い物でわかった。
「……やばいよね。うちどうなるんだろ」
「……なるようになるだろ、きっと」
家の空気は重たくなっていった。
それから数週間後、俺は親父とお袋に呼び出された。なんの話をされるのか検討もつかない。
「んだよ話って」
「樹……すまない、学校辞めてくれないか」
「は?」
学校を辞める? なんで。
「家にもう金がない。保証金も、もうそこを尽きる。お前の学校は私立な上に芸術科。学費が高すぎる。明日の飯すらあやしいこの状況、来月の学費も払えそうにない」
「待てよ、いまうちってそんな金ねぇのかよ……じゃあまず俺と姉貴がバイトして、とりあえず飯食えるくらいの金稼げばいいだろ。わざわざ学校辞めなくても」
「椿には勉強に専念してもらいたい。その方が将来稼げることも明確だしな」
「なにか? 俺はバカだから高校行こうが行くまいがもう別にどうでもいいってか。あんなに鼻高々に、大したこともねぇ分際で人のこと散々バカにしたくせに」
「どうでもいいとは言わない。けど、明日を生きる方が大事だ」
そこからなにかをワーワー言い合った記憶がある。何を言ったか、言われたかは覚えてない。ただある事実は、俺の夢は、現実に食い殺されそうになっているということ。ただ、それだけだった。
次の日の学校は普通に行った。けど、気が気じゃない。
「おはよ〜ってあれ? どーした暗い顔して」
「いわし……」
これ以上の声が出なかった。けど、変に心配されるのもめんどくさくて、とりあえず寝不足だってことにした。夜通しアニメ見すぎたって。
「……どんなピンチも巻き返して最後は笑顔。今回ばかりはどうしようもねぇよ」
授業を聞き流しながら晴れ渡った空を見ていた。
昼休み、俺はいわしと屋上で飯を食っていた。秋風が涼しい時期だった。
「なぁ、知ってるか。なんでも願いを叶えてくれる神社の話」
口から溢れ出るように言葉が出てきた。最近噂の都市伝説。普段こんなもの信じないか、面白半分でからかうんだけど。
「あぁあるね、そういうの。やめときなよ?」
……気持ちが読まれているみたいだった。
「行くわけねぇぢゃん? 私、そういうの信じない! ちょーウケるんですけど!?」
「ギャルのモノマネで誤魔化してもダメだよ。てか、あれ彼岸町でしょ? こっから遠いじゃん。やめときなよ」
「遊びだから大丈夫だって! 心配すんなよな!」
都市伝説なんかに縋るくらいには参っていた。バカみたいだと思う。いわしは、本気で俺を止めていた。いつになく本気だったことは分かっていたけど、それで俺は踏みとどまらなかった。
「神にでも縋らねぇとどうしようもねぇ事だって世の中にはあるんだよ、いわし」
次の週末、俺は朝から電車に揺られて彼岸町って場所に向かった。マンションなんかひとつも無い、空が広い田舎だった。
「山にその神社があるって……一面全部山じゃねぇか!」
あまりの果てしなさに少しだけ腹が立った。駅の人に話を聞いたら、お前も冷やかしかって嫌な顔された上に、知らないって言われた。
「ケッ、地元民でも知らねぇのかよ」
スマホ片手に山奥へと向かった。
秋の山、見どころが沢山あるのは知ってるけどそんなもん気にしてる場合じゃねぇ。たったと前に進んでも、ずっと木。延々とけもの道と木が続くだけ。
「はぁ〜? んだこれほんとうにあるんだろうな!?」
今ふと冷静になれば、神とか都市伝説とか、そんなのに縋って奇跡が起こったなんて話、聞いたこともない。絶望的状況は何も変わらないまま、そのまま下に落ちていくことしかないってのは何となくわかっている。それでも、こんな所に来た俺がどれほどバカだったのか。この時に一瞬呆れた。
「でも、地道な努力じゃどうしようも無いことはどうすりゃいいんだ。どんなピンチも巻き返す……無理なもんは無理なんだわ」
木の間から差していた光が消える。周りが薄暗くなった。雨でも降るのかもしれない。どうにも出来ねぇんだって、今更実感がわいて立ち尽くした。このまま俺は、学校やめさせられて、わけも分からんところで働いて、夢も叶わず目指すことさえ出来ず、バカにされたまま終わるのか。息が詰まりそうだったその時
チャラン……
鈴の音がした。
「んだよ猫かよ……って嘘だろ」
鈴の音がした方を向くと、そこには、さっきまでなかったはずの鳥居の群れがあった。所々に真っ赤な彼岸花が咲いて、風に揺れている。
「……気味悪。けど、これはどう考えても!」
躊躇せずに鳥居をくぐって行く。走り抜けるような感じで前に進んで、周りなんかよく見ていなかった。粉々になった石の作り物が足元にゴロゴロ転がっていたみたいで、何度か転けそうになったけど、一回も転けなかった。たどり着いた先は、ボロボロの神社だった。蔦やらコケやら、もう誰かが使っていた形跡すら残ってないような感じ。カァカァとカラスが鳴いていた。昼間なのに不似合いだけど
「は……? おいまだ昼だろ? なんで、空が赤いんだ」
「よぉ。どうしたそんな驚いたような顔して」
「うぉっ、びっくりした……」
振り返ると、そこにはタコ足の化け物がいた。ヒーローが倒してる怪獣やら化け物やらで見慣れていて、そんなに驚きもない。特にこれが神様だって言うなら、別に、怖がるもんでもないだろ。
「お前……都市伝説の神様なのか?」
「都市伝説ぅ? 知らねぇよそんなもん」
は? じゃあこいつなんなんだ?
「んで、お前、なんでここに来た」
「なんでって……願い叶えてもらう為だけどさ、お前、そういうことできんの?」
化け物の大きなひとつめがニヤニヤしながらこっちを見ていた。気味が悪い。
「じゃあ早く言えよ。おら、おら」
化け物が願い事を言えって言ってくる。なんかもう訳わかんなくなってきた。けど、夢でもなんでもいいから、雑に
「金が欲しい」
と言った。化け物はそれを聞いて笑っていた。
「真意はそれか? もっとあるだろ。金が欲しいだけなら俺の所に来れやしねぇよ」
「どういうことだよ。俺、出来が悪ぃから理解できないんだわ」
化け物は鼻で笑って
「その願いの根元にあるものはなんだ?」
って聞いてきた。根元にあるもの、ようするに、どうしてその願いを持つようになったかを遡れってか。
「親父の会社が倒産して、再就職も出来ずに金がねぇ。それのせいで俺は学校辞めさせられる」
「で?」
「学校を辞めさせられたら、俺の夢は叶わなくなる。俺は、俺の夢を叶えたい」
「ほーん」
「……俺は、俺の救いだったヒーロー達を魅せることが出来る写真や映像を撮りたい。そして、俺が救われたと同じように、俺も誰かを救いたい。それが、俺にとってヒーローになるってことだからさ」
化け物はニヤニヤしている。バカにしているようにも見えるけど、そうじゃないようにも見える。変に緊張した。
「まぁ、言いたいことはわかった。その願い、叶えてやるよ」
「マジか! そんなことってあるのか……え」
急に体から力が抜けた。膝を着くなんて、ヒーローだったらあってはいけないことだけど、息苦しい。目線を下にやると、心臓にあの化け物の腕が突き刺さっていた。んだよこれ、命と引き換えにみたいなタイプかよ……。痛みと気持ち悪さで意識が遠のく。
「お前のお望み通りの力をやるよ」
化け物が見下すように俺の事を見ている。それを視界の隅で確認したあとから記憶が無い。気がついたら家にいた。
「聞いてくれ! 先週買っていた宝くじが当たったんだ!」
飯を食う時に親父が晴れた顔をしてそう言った。あの化け物と会ったことは、正直、夢だったんじゃないかなんて思っていたけど、こんな偶然はないだろ。
「しかもそれだけじゃないぞ! 遂に就職先が決まった! これで安心だ」
家の奴らがワーワー喜んでいた。後に、学校をやめなくていいって親父から言われた。普段の雰囲気を保ったまんまで話を聞き流して、さっさと部屋に帰った。
「やべぇよ……夢じゃねぇ。奇跡だろこんなもん」
こんなこと誰にも言えねぇなとおもいながら、真っ暗な部屋で一人、笑っていた。
次の週末、もう一度俺は彼岸町を訪れた。この間の化け物に一応礼を言おうと思って。最初あの神社を見つけるまではだいぶ苦労したけど、今度はスっとあの鳥居の群れが現れた。二回目は楽だな。
「おい化け物……いや、神様。いるのか?」
この間ほど気味悪い感じがしない。ここにたどりつけても居ないことなんてあるのか。
「また来たのかお前」
「うぉっ……いきなり現れるのはビビるやめろよな。てかそうだ神様! 学校辞めずに済んだぜ! ありがとうな」
「別にぃ? 俺の気分だよ」
「なんかこう……お礼とか出来ないか? 酒とかは買えねぇけど、お供え物みたいなもんなら全然買ってくるぜ?」
そう言うと、神様は腕をスっと振り下ろした。何してんだろうなと思ったら、俺の右腕がぐにゃぐにゃになっていた。
「うわぁああああ!!! なんだこれ!」
でも、痛くはない。
「お前、ヒーローになりたいんだろ? 変身できる能力をやるよ。使えるだろそれ」
「いや、全くわけがわかんねぇよ!? なんだよこれ!」
「いや? ヒーローみたいだろそれ? 変身できる。腕だけじゃねぇ、全身もいける」
「……これは望んでねぇよ! なんだこれどうしたらいい!?」
「それもうお前の力なんだし、なんとかなるだろ。んで、礼がしたいんだろ? だったら……」
そうして俺は、神無月のこと、守護者のことを知ることになる。願いを叶えてもらった礼としてあいつに協力をすることになった。俺は、サナちゃんの力で大勢の記憶を操って、守護者が通う高校、山葉高校に通う女子生徒として守護者達の情報を神様……邪神様たちに流していた。
女子生徒になっていたことに深い意味はない。なんなら男だった方が守護者には近づきやすかった。でも、女になっていた。理由は単純で、せっかくなら女になってみるか! みたいなノリ。どうしても顔が姉貴に似ることが嫌だったけど、上手く変わらねぇから、とりあえず、胸だけ盛っていた。姉貴らしさが半減する。そこで俺は、男勝り気味なギャルとして半年間を過ごした。この期間、元いた地域では俺は存在しなかったことになっていたらしい。家族も、俺の存在を忘れていた。それに関してはちょっと、そのままでも良かったかもしれねぇと一瞬頭に過ぎってしまった。
そんな感じだった。
最初の頃はそんなでもなかったけど、時間が経つにつれ、一つの疑問が大きくなっていった。
「俺がやってる事は、何だ? ヒーローはこんな事しないだろ」
軽く後悔をしていた。どうしようも無いことだったけど、それだからといってこの道を選んで……。今俺がしていることは
「ヒーローというよりも、完全に悪役だな」
そうしてついに俺は、守護者に敗れた。真のヒーローに負けたんだ。
「赤沼さんもさ、実際ちょっと優しいでしょ? あの時、ぼっちで浮いてた俺に声かけてくれたじゃん」
あいつは、俺が悪いやつだって知りながらも、俺に向かって優しいなんて言葉をかけた。初めて言われた褒め言葉だった。ヒーローは困ってる人を助けるものだ。当たり前だそんなもん。力を失って全身に疲労感が乗っかって、その上意識も朦朧としているのに、気持ちが晴れたような気がしたのは、きっと、ヒーローが悪役を倒した時の安心感と似たようなものだったと思う。
……そうして今に至る。脳裏に過ぎるやけにリアルな映像を振り払っては前に進む。久しぶりの家だった。時間的に鍵は開いていると思う。軽く深呼吸をしてから家のドアを開けた。俺がいなかった間の記憶は一体どうなってるんだろうと疑問に思いながら廊下を進む。リビングのドアを開けると、家族が揃っていた。そして、半年近く忘れ去られていたはずの俺を、さも昨日まで普通に暮らしてたかのように扱う。ちょっと妙だけど、なんとかなったし、良しとした。
部屋に帰ると、相変わらずヒーローグッズが並んでいた。ホコリひとつ被っていない。さすがに奇妙で、ヒーローのフィギュアを手に取った。でも、どこも不思議な部分はない。本当、うたたねの時に見る夢みたいな半年だったと思う。フィギュアを棚に戻して、即寝た。
次の日の学校は山葉じゃなくて西映に行った。こっちでも俺は普通に受け入れられている。わけが分からない。休み時間も、普通にいわしと屋上で話してる。いわしも、俺の事昨日も一緒にいたとか言う。話を合わせるのが少し大変だった。
「ところでお前、最近ちょっとカワイくなった? 妙に女っぽいような気がすんだけど」
「……は!? 誰がだよ!」
いやそりゃつい昨日までJKしてたから仕方ねぇだろ!見逃せや……とは言えねぇ。いわしは笑っていた。
「なぁ、ヒーローになるって簡単じゃないよな」
いわしがそんなことを言ってきた。ちょっとドキッとする。
「そりゃお前……そうだろ。悪役になるのは簡単だけど、ヒーローになるのは難しい。世の中そんなもんだろ」
「それもそうだよな」
そんな話をしていると、放送で呼び出された。なんでだと思っていると、どうやらこの学校にいたことになっている俺は、昨日締切の重要書類を提出し忘れていたという。そりゃ怒られるだろ俺。
「行って来なよ。先生怒るよ」
「おう……じゃあ行ってくるわ!」
ダッシュで教室に戻ってカバンの中を漁る。その書類らしきものを数枚手に持って廊下を走り出した。その中の一枚に、進路希望調査表があった。その紙の志望枠には、映像関係の専門学校の名前が入っていた。備考枠に、
「俺はヒーローになりたい!」
とでかでかと書いてあった。誰だよ、こんなの書いたやつ。
書いた覚えのないそれは、紛れもなく俺も文字だった。
「おかえり赤沼。その夢、叶うと思うよ」
彼はそう言って、屋上を後にした。
ここまで読んでくださってありがとうございます。原作者のLiarことなまこです。
本編完結から約半年、番外編を書くのに随分時間がかかってしまいました。それなのに行けると思って二期を初めてしまった誤算……お許しください。
神無月の守護者は自分にとって色々意味がある作品でもあるのですが、長編小説を書くのは初めての経験で、拙い部分が多かったと思います。それでもここまで読んでくださった方々にすごく感謝しています。
神無月一期、これにて完全終了致します!
改めてお付き合いいただきありがとうございました! よろしければまた二期もよろしくお願いします。




