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神無月の守護者  作者: なまこ
神無月
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番外編 絵谷冬樹は認めて欲しかった

こちらは、絵谷冬樹の過去とその後を語る番外編です。当初制作予定ではなかったので後日追加になってしまいました。

彼の銃口がこちら側を向く。普通なら抵抗するこの状況に、僕は自ら陥った。これでいいんだって、こうするべきなんだって。彼が一言僕に詫びると、大きな音がして、僕は倒れていく。

左胸を貫かれたのに、痛みよりも靄が晴れていくような感じの方が強い。視界は暗くなっていくけど、なんにも怖くなんかない。むしろ清々しい。

……僕は、なんでこんなことになってしまったんだっけ。



彼岸町の隣の町に住んでいる僕。物心ついた時から絵を描くことは好きだった。たまにだけど、小学校では賞を取ることもあったんだ。もちろん、最優秀賞みたいな大きな賞じゃなくて、入賞みたいな小さな賞だけど。ただ、絵を描くのが楽しくて、僕にとってはそれが生き甲斐だった。小学校高学年にもなると、中学校の話が出てくる。よくあるのは、何部に入るかって話。僕はもちろん美術部に入るつもりだった。学校が終わったら絵が描けるなんて、僕にとってはご褒美みたいな感じだし。けど、そううまくはいかなかった。

「美術部!? お前、男が美術部に入る気か!?」

「絵が好きなのは分かるけど美術部って女の子ばっかりじゃない。運動したら?」

性別を理由に美術部に入ることを否定された。中学生になって部活の見学に行ってみる。ちゃんと男の子もいた。それを伝えても両親の意見は変わらなかった。


結局僕は美術部に入れずに中学を過ごすことになる。小さい頃にピアノは習わせたくせに吹奏楽も却下されて、半強制的に運動部に入った。元々運動は苦手だったし、部活ではいっつも底辺スレスレだった。けっこうバカにされてたな。それでも、僕には絵があるからそれでもいいやって思えていた。


そんな適当な中学生活を過ごしていた僕も、気がついたら三年生になっていた。受験期ってやつだね。

行きたい高校は……欲を言えば、都会の方にある私立西映高校っていう、芸術に特化した高校に行きたかったんだけど、もちろん却下された。私立だし芸術だし。両親は近場の公立高校、海響高校を進めてきた。海響に行くくらいなら、山葉高校に行って美術部に入りたかったんだけど……

「山葉はバカ高校だろ? 勘弁してくれよ」

って言われた。普通にそんなことは無いし、なんなら海響との偏差値の差はそんなにないんだけど、親は山葉の校風が気に入らなかったみたい。その上、海響に行っても美術部には入らせないの一点張りだった。さすがに僕も言われっぱなしは嫌だなって思って

「ねぇ、十二月の模試で県内一位取れたら美術部に入るの認めてよ」

と条件をつけて交渉をしてみた。当時、別に頭が良かったわけじゃないから、両親は出来るわけないと思っていたみたい。条件を呑んでくれた。


部活の大会が終わってから、生活と簡単な絵を描く時間以外は勉強に費やした。結果、僕は県内一位を取る事が出来た。親もさすがに文句を言えなかったみたいで、やっと美術部に入る許可が降りた。その後、海響高校にはすんなり合格できた。ここから、やっと僕の人生が始まるのかな、なんて思ってたよ。浮かれすぎだよね。


高校生になって一週間過ぎた頃、部活動体験が始まってすぐに美術部に入部した。人数はそう多くない。先輩達が十五人くらいいる程度だった。

さっさと入部届を出して先輩たちと一緒に絵を描いた。

「え、絵谷くんって中学の時美術部じゃなかったんだよね」

「なんでこんなにかけるの?」

先輩達からこんな声ばかりかかる。褒められたらやっぱり嬉しいけど、どう返していいのかってちょっとわからないこともあって。

「小さい時から絵を描くのが好きで、家でよく描いていたので……」

って返していたけど、どう返事すればよかったのかなんて、いまだにわからない。


部活で絵を描くようになってから、毎日が楽しかった。部活の仲間や先輩たちとも仲良くなって、色んな絵を見て描いて。ありがたいことに、小さなコンクールの賞ももらうことができた。まさに、自分が望んでいた光景だった。最初は美術部に入るのを反対していた両親も、賞を取ったからかだんだん僕を褒めるようになっていった。やっと理解して貰えたのかなって思った。


時が流れて、三年の先輩が卒部した。寂しい思いもあって、なかなかみんな手が進まない。けど、少しずつ元の流れにもどっていく……そう思っていた。

三年の先輩たちがいなくなったあとから、顧問の態度が激変した。部活の規則はいきなり厳しくなり、注意の言葉一つ一つにトゲがついた。この時点で二、三人がリタイアした。やることだけは真面目にやっていたから、この時は特に害はなかったんだけど

「あなたの絵、面白くないんですよね」

「……え?」

「え? じゃないんですよ。全然中身がない。面白くないんですよ、全く。」

「はぁ……」

中身がない。風景画に中身なんかあるもんなのかと思いながら最初は聞いていた。でも、

「色使いがよくない。全く魅力がない」

「本当に見ながら描いたんですよね? これはちょっと

……」

「これを文化祭に出すつもり? へぇ、そうですか」

時間と共に、刺さる言葉は作品と共に積み重なっていった。この辺りから、絵を描く楽しさが少しずつ薄れてきていた。


描けど描けど貶される。でも、周りの部員たちはそんなには言われない。むしろ、

「いいですかみなさん、この人の絵は素晴らしい! 皆さんもこんな絵をかけるように頑張ってください」

手本にまで取り上げられる人もいる。なんの差なんだろう。僕の絵の何がそんなにダメなんだろう。


部活に行っては貶され、嫌味を言われ、同じ部活の人たちも、チラチラとこちらを見はするけど、すぐに目をそらすようになってしまった。僕は、納得もいかない状態で部活から浮いた。何故そんなふうになったのか、同級生に聞いても

「わからない」

としか答えてくれなかった。日々喪失感は募っていった。


「冬樹、お前最近表情が暗いぞ」

家でお父さんからこんな声がかかった。

「そうかな? 気のせいだよ」

「お前、まさか絵のことで悩んでるんじゃないよな?」

なんで分かるんだろう。

「……うん。実は最近さ」

「だから絵なんてやめとけって言っただろ」

なんでそんなこと言うんだろう。どうして?

「絵は人生を狂わせるぞ。出来ない奴がやったって時間も無駄だし、何も残らないんだ。辞めるなら早いうちにしろよ」

……言いたいこと、聞いて欲しいこと、沢山あった。けど

「……はい」

それ以上の言葉が出なかった。


「なんでもっといいものかけないの?」

「成長してないの貴方だけですよ」

「絵ってね、心を写すんです。あなたの絵にはなんにもありません。つまり、そういうことです」

なんで、なんでこんなこと言われなきゃいけないんだろう。僕の絵が空っぽ? どう訂正していいかも分からないよ。

「すみません、一体どうすれば僕は成長出来るのでしょうか」

そう聞いても

「そういうところじゃない?」

と言われて終わりだった。なにもわからない。僕の絵の何がダメなんだろうか。


絵は貶され部活で浮く、そんな日々が約一年続いた頃、教室の机で突っ伏していると、クラスメイトの話し声が聞こえた。

「ねぇ知ってる? この町にある山奥の神社に、なんでも願いを叶えてくれる神様がいるんだって」

なんでも願いを叶えてくれる神様。そんなのいるんだ。

「それ本当? 胡散臭くない?」

「ほんとうらしいよ。なんか願いかなった人がいるんだって。でも、どこにあるのかって詳細は分からないんだよね」

普段なら、聞いたとしても面白いなって思うくらいで終わるそんな噂話が、僕には重要な話に聞こえてならなかった。この日も僕は、部活で散々絵を貶されて帰路に着いた。


その話を聞いた週末、僕は無意識にその神社がある山に向かった。彼岸町には山がたくさんあって、正直どの山にあるのかなんて検討もつかなかった。けど、手当たり次第に探してみようと思って山に足を踏み入れた。

歩く度にガサガサと音が鳴る。普段動きなれていないから体力もそんなになくて、休み休みに道を進んで行った。動物らしいものが動く音も聞こえる。普段なら写真を撮ってそれを絵に……なんて思うかもしれないけど、なんかもう、どうでもよかった。


日が落ちる。木々の隙間から見える空が、橙に染まっていた。

「……バカだなぁ。迷信に踊らされてこんな山奥まで」

空を見てもうすぐ日が暮れるなんて思った頃には、右も左も分からなくなっていた。家に帰るのもダルくて、もうこのまま山に居ようか……なんて考えながら足を引きずっていたら

「……なに、これ」

突然、木々の間に鳥居の通路が現れた。イラストでしか見た事ないような鳥居の数。壊れた灯篭やお地蔵さんも転がってる。すごく不気味だった。けど、それに吸い寄せられるように鳥居をくぐって行く。カラスみたいな大きめの鳥がバサバサと飛び立っていく。それでも前に進んでいく。

「……え」

鳥居の行列を抜けた先、そこにあったのは朽ちた神社だった。手入れが行き届いていないどころの話じゃない。人がもう何十年も来ていない、忘れ去られた神社……そんな感じ。神社の周りは少しだけ木が少なくて、空が見やすかった。……空の色が、赤い。


ただならない空気に圧倒されて唾を飲む。なんでだろう、すごく緊張する。恐る恐る神社の本殿に近づく。僕は一体何を恐れているんだろう。

「よぉ、ガキ」

「うわぁああ!!」

声がした。人の声が。こんな山奥に人なんて

「よくこんな所に来れたもんだな」

……言葉を失った。僕の目に映ったのは人間なんかじゃなかった。大きさが二メートルくらいあって、足と腕はタコみたいになってて、目はひとつ。その見た目はどう見ても、バケモノに近いものだった。けど、人じゃないってことは

「神……様?」

そう言うと、ソレはニヤッと笑うような目をした。

「知らねぇよ。それより、お前なんでここに来た?」

漫画とかで見る神様も、だいたいこんな感じだっけ。

「……僕は、誰からも貶されない、認められる絵が描きたい。そんな絵が描けるようになりたい」

そう言うと、神様はほぉと言いながら更にニヤついていた。

「叶えてやるよ、その願い」

多分、僕は悪いことをした。けど、もう誰からも貶されない、高校に入ったばかりの時みたいな、満たされた日々に戻れることに安堵していた。けど、そんな安堵は貫かれた。僕の体ごと、全部。

痛い。左胸が裂けるような、焼けるような、そんな痛みがして、全身の力が抜けていく。それなのに、体の中に何か入ってくるような感覚だけがあって、気持ち悪くって。

「こんくらいで嗚咽漏らしてんじゃねぇよ気持ちわりぃな」

……僕、泣いてるの? まって、どうなってるの、今、ボクは。頬を伝っているそれを拭いたくても、もう体に力が入らなくて。僕の左胸に突き刺された神様の腕が抜けると共に、力なく地面に崩れ落ちた。痛い、苦しい、けどそれすら悪くなく思えるこの感情が気持ちよくて。

「あとはお前次第だろ。まぁ、先は読めてるけどな」

神様の声が聞こえたあと、意識が遠のいていった。それと同時に、あるべき僕もきっとどこか深いところで眠ってしまった。


目が覚めた時にはもう、空は黒くなっていた。神社は跡形もなく消えていて……というよりは、山の麓で目を覚ましたと言ったほうが正しい状況だった。

何も考えず、考えることが出来ず、とりあえず起き上がる。頭に浮かんだ言葉は

「描かないと」

それ以降、ボクには絵のこと以外何も見えなくなっていた。時間の許す限り何かを描いていた。何を表現したいもなく、ただ、茫然と、腕が動くそのままに。

あれだけダメ出ししてきた先生も、できるだけ目を逸らしていた部活の仲間たちも、ボクを見るようになった。誰からも、貶されなくなった。その上、不思議とその絵たちは評価を受けた。そんなことばかり覚えている。ときおり、ボクは無意識にまた山を昇って神様に会いに行っていた。その時に、神無月の事や守護者くんのこと、柚希さんを初めとする御三家のことを軽く聞いていた。ボクが彼らを攻撃したのは、神様の指示なんかじゃない。ボクの意思……いや、僕の作られた意思によるものだった。だからって、僕が責任を取らないって言う気は無い。柚希さんや守護者くんたちを傷つけたのは、紛れもない僕だから。


そうして、現在に至る。守護者くんに撃ち抜かれて、あの時の不思議な感覚は消え失せていた。もちろん、あの絵を具現化する力も、もう無くなっていた。絵は絵のまま、僕を紙の中から覗いていた。

「……バカ、だよね。こんな思いすること誰だってあるんだよ。誰からも認めて貰えなくて、浮いてしまって、寂しくて、悲しくて、認めて欲しくて。楽しくて絵を描いていたはずなのに、いつのまにか、認められることが楽しくなっていたみたい。結局、それの為だけにこんなことにまで手を染めていたんだよ。バカ、だよね」

そんな独り言を漏らしても、絵はもう形として出てくることはない。紙の上に水滴が落ちて、絵の具が滲んでいくだけだった。


一週間後、僕は学校に復帰した。周りから非難されることも覚悟していたけど、周りは僕を心配してくれた。事件に巻き込まれたからって……。僕が主犯なんだけど、誰もそのことは分かってないみたい。ちょっと変な感じ。何人かには、あれは僕がやったんだと言っても

「事故って疲れてるのはわかるから、ゆっくり休めよ」

と言われるだけだった。


復帰したその日は部活が休みだったから、僕はある人の元へと向かった。一つ下の学年、彼は確か部活に入っていないから、早く行かないと帰ってしまうかもしれない。少し急いで階段を上る。彼がいると思われる教室に向かうと、教室内にはまだ人が沢山いた。

「あの、雷斗くんいる?」

僕の顔を見たそのクラスの子はビックリして

「います! どうぞお入りください!」

といった。山葉でのこと、やっぱりみんな知らないふりをしてくれてたのかもしれない。そうだよね、事件の主犯者が怖いのなんて当たり前だよ。教室内に僕が入るとやっぱりザワついた。一番後ろの端っこの席にいた彼も、僕を見るなりため息をついた。

「あの……雷斗くん」

「絵谷先輩……何しに来たんですか」

「あっ、えっと」

ちょっと僕が吃ってると、雷斗くんは荷物を持って立ち上がった。

「人が見てますから……話しづらいでしょう。場所変えましょう」

周りの人達が物珍しそうに僕達を見ていた。なんの話しをしたいかをなんとなく察して気を使ってくれたみたい。ちょっと助かった。


人が少ない、体育倉庫の近く。静かで、風の音と揺れる草の音しか聞こえなかった。

「はぁ……あんた、自分が有名なことくらい分かるでしょう。目立つんですよ……」

「あぁ、ごめんね。やっぱりあんな大きな事件起こしたから……」

「はぁ? 事件? ちげぇーよそれじゃねぇ。普通にそっちはあんたのせいじゃないことになってますよ。どういう原理かは知らんが……」

「事件が僕のせいじゃないことに? じゃあなんで僕そんなに名が知れてるの?」

「あぁ……先輩、普通に絵が上手いし、まぁその……そういうことだろ。自分で何となく察してくださいよ」

事件じゃないのに目立つ理由はよく分からない。僕が何も言い出さないと

「んで、どうしたんですか」

って雷斗くんから聞いてくれた。なんか気を使わせてしまって申し訳ない。

「えっと雷斗くん……この間はごめんね。怪我させちゃったから……」

そう言うと、彼はまたこっちを見てため息をついた。

「あんなもんかすり傷じゃないですか。あんくらい気にしてませんよ。俺も俺でやることやろうとしただけですし。けど、そうやってわざわざ謝罪しにくるってことは、守護者に負けたんでしょう?」

「負けた……。うん、そういうことになるかな。僕は清々しい感じがしたからいいんだけど……彼らにも怪我させちゃったからすごく心配で」

「いいですよ。守護者はそれが役目なんですから。生きてりゃいいです」

やけに即答だった。

「そう、なの?」

「まぁ、先輩も今から普通の人に戻っていくんですから、そうそう深いこと考えないで、自分のやりたかったことにちゃんと目ぇ向けてりゃいいんじゃないですかね」

……自分の、やりたかったこと。彼のそんな言葉が頭の中をぐるぐるしてる時に、別の人の声が入ってきた。


「あっ! 雷斗いたー! 今日定時退校日なんだ! 一緒帰ろうぜ……って、え! 隣にいるのは絵谷先輩! すっげぇ雷斗! 絵谷先輩と知り合いなのか!?」

キラキラした目で頭にヘアバンドを付けた男の子が話してくる。本当に純粋な目をしている。

「あー、一応知り合い? なのかねぇ。はぁ……とんでもねぇ人と知り合いになっちまったな」

「えー! じゃあさ! 絵谷先輩も一緒に帰りませんか!?」

僕も一緒に……?

「……先輩の好きにしていいですよ」

「えっと、じゃあ……ご一緒していいかな?」

「やったー! えっと! 俺、工学科一年の亀澤大輝です! よろしくお願いします!」

そう言うと、大輝くんは満面の笑みで僕の手を引いてくれた。それを見ていた彼は、少し笑っていた気がする。その日の帰りは、三人でアイスを食べながら帰った。こんなに楽しい下校ははじめてだったかもしれない。


それからまた日常に戻ってく。……部活には少し顔を出しづらい。けど、それで逃げる訳にはいかない。だから、逃げたい気持ちを必死に抑えて部室に向かった。そこで、またいつもみたいに絵を描き始める。周りの目が突き刺さるように痛かった。けど、それでも、何故か楽しくて……。筆が羽のように軽くて、手が勝手に動いてるみたいだった。一息ついて休憩しようとすると、周りに人だかりが出来ていた。

「うわっ! あっ、ごめん。僕ちょっと集中してて」

でも、周りの目は僕を刺すような冷たい目をしていなかった。

「先輩の絵、やっぱりこっちの方が好きです。先輩の、優しさが絵に出ていて」

「え?」

「ごめんなさい絵谷くん。ある日を境にあなたの絵が変わってしまって、ずっと自分のせいだって思っていたんです。本当に申し訳ないことをしてしまいました」

「え? 先生まで……どうして?」

みんなが僕を見ていた。何がなにかわからない。


「先生も、絵谷くんが山葉の美術部に負けない実力を持ってるがあまりに期待しすぎて酷い物言いをしてたんだって。私達もいっつもそれが嫌で嫌で。でも、苦しむ絵谷くんになんて声をかけていいかもわからなくて」

「絵谷が居ない日に、先生に大抗議したんだよ。そしたらさ、先生、美術部顧問の集まりでいつもバカにされてたって泣きながら話してくれて」

「……すまないことをしてしまいました。自分が辛かった故に生徒に当たるなんて言語道断。謝って許されることではないとわかっているんです。しかし、せめて謝らせてください」


もう、なにがなんだかわからないんだけど、怒る気にも悲しい気持ちにもならなくて。

「別に、いいですよ。僕も、何かにとりつかれていましたから。今はただ、描くことが楽しいんです。先生がどう評価しようと、周りにどう思われようと関係ないんです。僕が本当に好きだったのは、絵を描く行為、そのものなので」

それ以降の記憶はない。


それから約一ヶ月半後、夏休みが明けた最後のコンクールで、僕が描いたその絵はコンクールの最優秀賞を受賞した。周りからの拍手喝采は凄かった。けど、そんなものがもう、どうでも良く感じたんだ。


僕はただ、描くことが楽しいだけなんだから。

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