エピローグ 神無月の守護者
あの夜のことを知っているのは、俺たちだけで、あとの人達は、何一つ変わらない普通の日々を送っていた。
陽の光が差し込む窓を開けて、朝の風を浴びる。あんなことがあったすぐなのに、もう学校に行くなんて、普通に考えたらありえないよな。そんなことを思いながら、流れる雲を見て、本来起きる時間に流れる音楽が流れるのを待った。
簡単な朝食を作ってお母さんを起こす。
「ねぇそういえばさ、あんたこの間また朝方にガタガタ音してたけど……大丈夫?」
目玉焼きを割りながらお母さんが聞いてくる。あの夜が明けた日のことだな。
「うん。窓の外でまた猫が。俺、猫に好かれやすいのかな」
こんな冗談で、全く何も疑われないことに疑問を覚えるけど、ある意味、これがお母さんのいい所な気もしてる。
「いいご飯だと思って狙ってるんじゃないの? 兎だし」
「名付けた人が言いますか、それ」
そんな賑やかな食卓を囲っていた。その後はサッサと準備を済ませて家を後にした。
少し涼しくなった秋の道を、少し早めの時間に歩いている。土手に生えたススキが揺れて、少しザワザワと音が鳴っていた。学校に着いて辺りを見渡しても、全然人がいない。朝練をする運動部すらまだグラウンドに出てきていない。静かな廊下を歩いて、コンコンと階段を上がる。こんな当たり前の風景が、なぜだか少し懐かしいような、恋しかったような……そんな気がした。
ガラガラと教室のドアを開けると
「おはようとやまる。はやいね」
朝日に照らされた華代がいた。
「おはよ。何となく、今日はちょっと早く来たいかなって思ってさ」
「こっちも、だいたいそんな感じではよ来てしまった。奇遇? やね」
朝の風で華代の髪が揺れている。増して少し綺麗に見える。
「本当やったら、私はもうこの朝日を浴びることはなかったんやね」
「……そうなるね」
「……なんでやろうね、少し暖かい気がするんよ。よかった、ちゃんと今、生きてて。もう一回こうやってとやまると話すことが出来て」
なんでか、ちょっとだけ照れくさいけど
「うん、よかった。たくさん危険な目に合わせちゃったけど、今こうやって、二人とも生きることができてるの、本当によかった」
そんなこと言いながら、しばらく二人で笑いあっていた。
これは、ごく普通に生きていた俺に起きた、ちょっと不思議なお話。




