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神無月の守護者  作者: なまこ
神無月
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過去編 邪神様

……目を撃たれたからか? 何も見えないな。体が痛い? まさか。体の原型を失ったくらいで痛いなんてことは無い。そんなもの感じていない。


しばらくして、やっと目が見えるようになったと思ったら、忌々しい二人が視界に入ってきた。

なぁ朱花、俺たちはいつ、何を間違えたんだろうな。どうして俺たちは、普通に生きることが叶わなかったのだろうな。





「おい、ツクヨミ。お前は無造作に他人に力を使いすぎだ。そのくせに、世界を飛び回るから住む場所すら定まらん。全くお前は何がしたいのだ」

毎年、神無月になると行われる神様の会議。ここで俺はよく上の奴らに文句言われてた。

「はぁ? うっせぇなぁ、俺は自分のやりたいよーにやって生きたいよーに生きてるんです〜、お前らみたいなあったまかったいやつらとは違うの〜」

「この……バカ者が!」

「はいはい、好きに言えよ」

こんな会話をするためだけに行く。めんどくせぇけど、人間で言う義務みたいなもんだから渋々行ってやってた。まぁ、ずっと悪態ついてヘラヘラしてやってたがな。


東の果てにある小さな島国で生まれた俺は、人様に称えられてこそ神様だと教えこまれて、住居を探せと上から言われていた。が、そんなところに引きこもって何するんだかと思った俺は、そんな言いつけを無視して、世界中を飛び回っていた。


人間から、水が欲しいといえばデカい川を作って、食べ物がないと言われれば、その土地で育ちそうな生き物を呼び出して食わせていた。そんな感じで、世界を巡っては困っている人間を助けてた。別に、目的なんてない。単なる遊びの一環みたいな感じで。


まぁそんなことやってたから、上のやつらにギャーギャー言われんだ。すっげぇめんどくさかった。

仕方がないから、この小さな島国の中に、空き家があるんじゃねぇかと思って、色んな山をフラフラ見て回った。その時に見つけたのがここ、今の彼岸町の山奥。まぁ、住居って言えるような住居じゃねぇけど、定住地が決まったから文句言われねぇだろって思って次の年の神様会議に向かった。が、

「人に信仰されないでどうなる」

ってガミガミ説教食らった。

「んだよ、めんどくせぇな。そんなんだったらもうまた旅行しちゃうもんねー!」


まぁ、そんなこんなで旅行を再開した。

ふとある西洋の国に行った時、森の奥にある民家を見つけた。ちらっと覗くと、中で女の子が泣いていた。

「やっほ、なんで泣いてんの」

「……」

この女の子は人間じゃあない。見りゃ一目瞭然だった。ベッドに横たわるオッサンの近くから一向に動かなけりゃ、一言も話さない。


「なに、このオッサンもうすぐ死にそーじゃん」

「……」

「もしかしてこのオッサン、オヤジだったりすんの? それともじーちゃん?」

「……」

「は〜、オッサンも幸せだな。綺麗な女の子に看取られて」

「……何回もオッサンって言わないでよ」

あっ、しゃべった。


「私の、騎士様。お父さんでもおじいちゃんでもない」

「ほーん。じゃあなに? 恩人かなんか?」

「……私の夫。なんか悪い?」

「ほーん。お? 夫? ……まぁいいか。んで、夫が死にそうだから泣いてんのね」

「うん。巷で流行りの病気で、これにかかったら絶対死ぬって言われてる。どちらにせよ、もう寿命も近かっただろうけど」

見た感じ、この女の子は吸血鬼っぽい感じに見える。どっちかって言うと疫病ばら撒く妖怪に、病気を治すなんて、できねぇだろうからなぁ。


「はい、じゃあちょっとしつれーい」

少女を押しのけて、触手でオッサンに触れる。

「ちょっと何するの!?」

「ん? あっ、できたわ。病気、治してやったついでにこれ以上歳をとらないようにしてやりました。これで夫とまた仲良く生活できんじゃねぇの?」

少女が驚いた顔してる。まぁそりゃそうか。人外ってだけで、妖怪と神様は違う。出来ることは雲泥の差だしなぁ。

「あっ……」

「ん? どした?」

「あり……がとう」

そう言ったあとのその女の子の顔が綺麗だったから、まぁやってよかったかな〜とか思いながら家を出ようとすると、

「あの、普段ってどこにいるの?」

って聞かれたから

「あ〜、一応極東の島国にある彼岸町って所の山奥。気が向いたら遊びに来いよ」

少女が小さく頷いたのを確認してから、窓の外に出ていった。


それからまた数年は、会議の度に嫌味を言われながらも極東の島国で生活した。その途中で、物好きな蜘蛛の妖怪に出会った。人間の世界が知りてぇって言うから、色んなこと教えてやったよ。見た目がガキの時は目ぇキラキラさせて俺の話聞いてたっけなぁ。懐かしい。

度々、西洋で出会った吸血鬼の女の子、サナ……通称サンサンも来るようになった。この二人に話聞かせるのなんて、子どもに読み聞かせをするようなもんだった。

サンサンもサンサンで、あの後夫とどんな風に生活してるのかを楽しそうに話してくれる。蜘蛛の妖怪、雅之がちょっといいなとか言うもんだから、さすがに笑っちまった。


そんな、静かな森の奥で賑やかに生活していたある日、俺はこの彼岸花町の人里に降りた。小さな集落で、少ない人達が協力しながら生活しているのを見た。おうおう、涙ぐましいことだねぇと思いながら、農作物の成長度合いを二倍にしてやった。畑に来た町娘が腰抜かしてんの。そんな様を見てはニヤニヤしてたな。


迷惑にならないイタズラを山ほどしたあと、帰っている途中で木箱を見つけた。山の中に木箱なんて珍しいなと思ってたんだが……木箱の中から、赤子の泣き声がした。余計にめずらしいもんだ。箱を開けると、顔の右半分に大きな火傷跡がある赤子が出てきた。そこからだいぶ奥のけもの道から人間の声が聞こえる。茂みの影から覗くと

「あのクソガキともこれでおさらばだな」

「まったくね。泣くわ騒ぐわで邪魔で仕方なかったのよ。やっと荷が降りたわ」

「あんだけやっても死なねぇんだ、棄てるしかねぇよな」

「ほんとよ、あの化け物。気持ち悪いったりゃありゃしない」

……人間は別に悪いやつじゃねぇとは思ってるけど、稀とこういう奴がいる。この赤子を哀れに思った俺は、人間の腕に当たる位置から生えた触手を、人の腕の形に変形して、その赤子を抱いた。すると、すぐに泣き止んだ。しかも、少し笑って手を伸ばしてきやがった。どうせ、この赤子はここにいても生きていられない。そう思った俺は、迷うことなくこの赤子を連れて帰った。


「……どうしたんですその人の子」

雅之に、俺がついに人の子を誘拐したんじゃねぇかって疑われちまった。いやまぁね、そりゃこんな不真面目神様だからそんなこと言われるのも分かるよ。うん。でも違うんだよなぁ。

「んーさっき拾ってきた。人間が山に捨ててた赤子だったから」

ならいいけどって言いながら、赤子を眺めていた。


そこからは大変だった。人間と深く関わったことがねぇから何が必要で、どうしたらいいのかとかはよくわかんねぇし。さすがに雅之も子どものあやし方はわからねぇらしいから、サンサンが来た時に色々教わった。

「サンサンさ……子どもいるの?」

「いないよ。ただ、昔見てた人間の真似してるだけ」

とか言っていた。


気がついたら娘は随分と大きくなって、言葉を喋るようになった。最初はあーだのうーだのしか言わなかったが、だんだんそれらしい言葉を発するようになってきた。そんなある時、娘は俺を指さして不思議そうな顔をした。なにか言いたそうにしてる感じからして、俺をなんて言えばいいか分からなかったんだと察した。娘から神様なんて呼ばれたくはねぇな……って思ったから

「パパだよ〜、ほら、パッパ〜だよ〜」

とか言ったら、雅之にものすごい顔をされちまった。けど、娘は

「パッ……パ?」

と聞き返してきた。そうだぞ〜? とか言ってたら、それ以降俺の事をパッパと呼ぶようになった。なんか違うけどまぁいいだろう。


娘は基本的に俺にぺったりくっついていた。喋りはするものの、口数が多いわけではない。たまに居なくなっては花を摘んでくることがあった。

「パッパ〜、これ」

「おぉ〜綺麗なの取ってきたね〜」

「パッパ、これ好き?」

「おう、好きだぜ」

そう言うと、ニコッと笑っていた。箱の中で泣いてた頃とは見違えるような表情で、なにか、少しあたたかいものを感じた。


ある秋の日に、花が好きな娘を山の奥にある花畑に連れて行ってやった。真っ赤な花が咲き乱れている。

「パッパ〜、これなに?」

「ん〜、これは彼岸花だな。これ好きか?」

「うん、パッパに似合うから好き」

娘は俺に似合うと言ってくれたが、俺的には……そう思って、花一個取って、娘の頭に乗せた。

「うーん、お前の方が似合うな」

そう言うと恥ずかしそうに笑っていた。あぁ、そう言えば、娘には名前がなかったんだ。赤子の時に棄てられてんだから、本人が覚えてるわけもないだろう。


「娘よ、好きな物はあるか」

「パッパ〜」

「あ〜……それ以外で」

「うーん……赤いお花? 赤いお花が好き」

赤い花か。

「そうか。そうだな〜じゃあお前の名前は……朱花(あやか)だな」

「名前? 朱花?」

「そ、名前。自分の事だよ。それが聞こえたら、呼ばれたと思ったらいい」

「朱花、朱花……。朱花、パッパ好き」

「よし、朱花は賢いな」

まぁこんな感じで、意外と幸せに生活してたよ。人間から見れば俺なんてバケモノだろうが、その辺はあんまり人間と変わりなかった。

朱花はすくすくと成長していった。んで、雅之は一時期人里に降りると言って途中でいなくなった。


朱花が十七になる年、この年の月はやけに綺麗だったことを覚えている。そんな中、俺はまた毎年恒例の嫌がらせイベント、神無月の神様集会に出かける。人間の子どもと生活してるなんて言ったらまためんどくさくなるから、何も言わないで黙ってた。


はぁ〜だるかったな〜とか思いながら山に帰る。

「やっほ〜帰ってきたぜ〜。長らく待たせたな」

……なんかいつもと違ぇなって感じた。

「朱花? 朱花〜……?」

返事もなければ光もない。サプライズ……って感じでもなさそうだった。山の中を探し回っていると、突如、鉄の臭いがした。視線を下にやると、そこには、変わり果てた姿の朱花が横たわっていた。


確かめるまでもない。死んでいた。


体の至る所が切り刻まれ、背中には数本の矢が刺さっている。腹部辺りはぐちゃぐちゃになってしまっていて、至る所に虫が這っていた。死んでからそこそこ時間が経つのだと思う。

「朱花……」

変わり果てた娘の頭を撫でた。撫でても、昔のように笑ってくれない。ただ、光の灯らない目がどこかを見ているだけだった。目を伏せて、ボロボロになった娘を抱えて山奥に帰った。人間は、死ぬと墓を作るらしい。申し訳程度に埋めることしか出来なかった。


「噂のバケモノってあれですかい。随分と人間みたいな姿をしてますね」

「あぁ、しかし考えてみろ。あんな女が山で一人で生活出来るわけないだろう。狐憑きか何かだ。あんなもん」

「まぁ、それもそうですね」

……朱花を殺したのは、こいつらか。人間が、朱花を殺したのか。可笑しくなって、その場で笑っていた。泣いているのか笑っているのかも分からない。そもそも、俺に感情らしい感情があったことを、ここで初めて知ったくらいだ。


笑い疲れた体を引きずって見渡しのいい場所に来た。そして、人間どもが住む場所を見下ろした。

「人間、俺の娘は、朱花は、お前らに何もしていない。なんの害もなしていない。むしろ、朱花を棄てたのはお前らだ。当たり前の生活を奪ってなお、お前らは、命までも奪うのか?」

声に出しても返事はない。ただ、声が虚空に消えていく。ふぅとため息をついて、人間どもの住む場所を飢餓に陥れた。ありったけあったはずの穀物は枯れ果て、家畜は死に絶えただろう。人間の悲鳴が聞こえる。そんな気がした。


考えてみればそうだった。人間共は昔から、俺を見かけては何かを乞うてきたな。その癖に、姿を出せば気持ち悪いだのバケモノだの言って石を投げてきたっけな。自分たちだけ満たされていればそれでいい。他人のことなど気にしてはいない。そんな奴らばっかりだったな。人間は。


苦しめ。死ぬほど苦しめ。自分の勝手で簡単に他人の命を奪ってしまう、それがどれほど重罪か、身に染みて味わうがいい。


……そこからは何も考えずに、死に絶える人間共を見ていた。苦しみながら死んでいく人間の様は、見ていて気分がよかった。

そんなある日、

「お前がこの町を飢餓に陥れた神様だな」

数名の人間が、俺の元に来た。

「お前のせいで我らは滅びそうになっている」

「お前のせいで多くの人が死んでいる。どうしてくれるのだ」

しかしよく見れば、そのうちの二人は、朱花を殺した人間だった。もう気が狂いそうだった。その顔が憎い。

「……わぁった、飢餓に貶めるのは止めよう」

馬鹿な人間共は喜んでいた。

「だがな、俺もタダではやめてやらねぇよ。五年に一度、お前らの一族の子どもを、誰か一人生贄に差し出せ。そしたら、その五年間は平和に過ごさせてやるよ」

最後、人間を試そうと思った。自分勝手な生き物ではない、少しくらいは心があるんじゃないかって。だが、奴らは迷いもせずに

「ありがとうございます」

と言った。そうか、お前らは大人だもんな。自分らが死ななければそれでいいのか。

可笑しくなってまた笑ってしまった。気がついた頃にはもう、人間はいなくなっていた。


それから、山の中に神社が建って、その手前に生贄を捧げるための祠が建った。

最初の生贄は、今日の生贄とひどく似ていたことを覚えている。朱花と同じように、ぐちゃぐちゃにして殺してやった。床に転がったその死体を見ても、何も心は満たされなかった。


とある月が一際明るい夜、水面に映る自分の姿を見た。触手は黒く染まり果て、顔の周りに浮いていた札はボロボロになっていた。目の色も赤くなっていた。元々の姿の面影が消えて、正しく()()()()になっていた。そんな自分の姿を見て、ニヤニヤと笑っていた。


そんで、例年通り神無月の神様会議に向かうと、俺の変わり果てた姿を見て、上のやつらは

「お前のような腐れた奴はもはや神ではない! おぞましい、出ていけ!」

だと。まぁ、ついに見放されたってやつだな。でも、そんなことはどうでもよかった。むしろ、俺からしても好都合だった。


雅之やサンサンを捕らえて近くに置いておき、五年に一度の虐殺を繰り返した。一つ一つ消えゆく命も、最初はなんとも思わなかったが、段々と楽しさを覚えるようになって言った。どう殺せば一番苦しみ喚くのか、そんなことを考えていたっけか。


娘を失ってから約四百年経った頃、昔、一度だけ俺に楯突いた守護者がもう一度現れたと風の噂で聞いた。正直、その顔を見るのもウザったいと思った。

だから、悩みを抱えて神社に来た馬鹿な人間共に呪いをかけてやって、俺の手下にしていた。アイツらにそんな気はなかったようだが。







ま、そうして今に至ったわけだ。原型を失って、サンサンに抱えられて空を飛んでいる。結局、最後まで味方してくれてたのはサンサンだけだったな。


サンサンが崖の上に立つ。空の向こうから、朝日が照っていた。

「邪神様、長かった夜がもう……終わるよ」

吸血鬼は、朝日に弱い。わざわざ俺にこれを見せようとしてくれているのか。

「ごめんね、役に立てなくて。でも、もう大丈夫だよ。もう、辛くないよ」

そう言ってサンサンは俺を抱えたまま、崖の下に落ちていった。ザバンと音を立てて、崖の下に流れる川に沈む。水面が遠ざかっていく。朝の光とは対照的に、俺たちは深く冷たい闇の底に沈んで行った。死ぬって言うのは、こんなにも冷たくて寂しげなもんなんだな。はぁ、寂しかっただろうな、辛かっただろうな。心の中で独りため息を着いた。


……朱花、今行くからな。

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