皐月(1)
美術室の時以降、毎日を何となく過ごしていたらいつの間にか五月になっていた。通学路の桜の木に緑色の葉っぱが付いていた。
「ねぇきいた? ウチらんとこ、また転校生くるらしいじゃん?」
「えーまぢ? 四月も来たよね? 山葉人気過ぎね?? チョーウケるんですけど!」
……喋り方は都会のギャルっぽい。見た感じ同級生だったし、また新しい人が転校してくるってことかな? 五月か……珍しいこともあるもんだなぁ。
ホームルーム開始五分前、教室にたどり着く。
「とやまるおはよ〜。なんか今日転校生来るらしいやん?」
「あっ、それうちのクラスなの!?」
「うん、そうらしいよ? とやまる知っとったん?」
「あぁまぁ、行きがけにちょっと話し声が聞こえてね」
話の途中でホームルームがはじまった。
俺が転校してきた時は、ホームルームの時には教室にもう居たんだけど…その人らしき人が見当たらない。
後から入ってくる感じなのかな?
いやでも先生も不思議そうな顔してる所をみると……?
次の瞬間、教室のドアが勢いよく開いた。
「おはよーございまーす!!」
めっちゃびっくりした……結構キャラ濃いめなのかな? みんなの驚いて声も出ない感じがすごく伝わってくる。
「あっ、あなた遅刻よ!」
先生にも焦りが見える……。まぁ、ここまで堂々と遅刻してくる子ってなかなかいないもんね。
「はーい、ごめんなさい」
あ、素直。変なヤツじゃないんだな。先生はとりあえず、そのまま自己紹介をさせることにしたみたいだ。
「はーい! わっちは氷見ひなみ! 前にいた高校は海響高校でーす! この学校は賑やかで楽しいって聞きました! 皆さんよろしくお願いします!!」
グレー掛かった髪に青縁の眼鏡。見た目はまじめそうだけど、すごく元気がいい。この子、多分陽キャだ。
俺もあんな風に自己紹介できるくらいの元気と勇気が欲しかったな……。
「おーい、となりの子〜、となりの子〜」
早速誰かに話しかけてる。さすが陽キャ。
「おーい、おーい」
てか相手相当気が付かないな、そんなことあるのか。
「……わっ!!」
「わぁ!? あっ、俺!?」
「そうだよ? やっと気がついてくれた!」
そんなことあるのかとか考えてたけど、俺じゃんそれ……そんなことあっちゃったよ申し訳ない……。てか席、隣だったのね。
「なかなか気づかなくてごめんね」
「んーぜんぜんいいよ! 気にしてない! ところで名前は?」
「えっと、歌田兎夜です」
「そっかー、兎夜か! よろしくね!」
「よ、よろしくね」
「ねーねーあのさあのさー!」
次は華代に話しかけに行った。
とりあえず元気の塊みたいな子だなって俺は思った。
時が巡って昼休み、ひなみも混ぜた三人で昼を過ごすことになった。陽キャ、俺がいる所でよかったのか??
「二人はいつから仲良いの?」
「四月からよ〜、とやまる、今年の四月に引っ越してきたばっかりやけん」
「あぁそうなの! 二人とも仲良さそうだったからだいぶ前から仲良いのかと思ってた」
たしかに、こっちに引っ越してきてから華代とはだいぶ仲良くなった。なんでだろ……最初ある程度仲良くなるのって、結構時間かかるものなんだけど。華代と仲良くなるのにはそんなに時間かからなかったなぁ。
「そうかいな? ありがとうね。あっそうそう、ひなみちゃん海響から来たんやったよね? 雷斗って人知ってたりする?」
雷斗。他校の友達なのかな。
「うん! 知ってるよ! あんまり話したことは無いんだけど、授業中寝てた時に当てられて、その時に助けてもらったり、消しゴム忘れた時に貸してもらったりした!」
「そうなん。元気そうやった?」
「うーん……わっちの元気とは訳が違うからね……でもちゃんとお友達はいたよ!」
「あっ、そうなん! よかったわ……」
その雷斗っていう人は華代の他に友達が居なかったのか……? 友達が出来たって聞いた時、華代がすごく安心してたように見えたし……。
俺は二人が話すのを聞きながらいろいろと考え事をしていた。別に会話に混ざってたってことになる訳じゃないだろうけど、充分楽しかった。
徐々に俺も話すようになっていって、いつの間にか俺たちは三人で過ごすのが当たり前になっていた。
毎日が賑やかで楽しかった。