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神無月の守護者  作者: なまこ
神無月
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神無月(10)

……俺は、どうなったんだろう。

体が動かない。そもそも、体の感覚がない。目も開かなければ声も出ない。音も聞こえないし、ちゃんと呼吸できてるのかも分からない。ただ、自分の状態を把握しようとしている俺はいる。まぁ、ぼんやりしててよく分からないんだけど。


華代はちゃんと家に帰れたかな。ひなみと柚希先輩も怪我してないかな。守護者っていう役割、半分くらいは果たせてたのかな……なんて、それはどうだっていいか。はぁ、カッコつけといて自分が死んでんじゃ話にならないよな。ちょっとかっこ悪かったかなって思ったのを最後に、考えるのをやめた。


しばらくしてから、急にあたたかさを感じた。春の太陽の光に当たっているような感じで、すごく気持ちがいい。少しずつ視界が明るくなってきて、体の感覚も戻ってきた。

「……ねぇ……起きて」

声が聞こえる。なんだろう、すごく懐かしくて優しい声だな。

「起きて……」

多分手かな。すごくあたたかい。

「……る、とや……る、とやまる!!」

ハッとして目を開ける。目に見慣れた制服が映りこんだ。視線を上に向けると

「華……代?」

「とやまる起きた? よかった」

華代がいる。華代もダメだったのかな。

「……ごめん、守りきれなくて」

そう言うと、華代はキョトンとした顔をした後に、優しい笑顔で

「たくさん守ってもらったよ。やけん、今もここにおれるんやろ? ありがとう」

と言った。後ろめたさで目を逸らした。それでも華代は、俺の右手を両手で包んでくれていた。


「華代ちゃん、雷斗も起きたよ! すごいね華代ちゃんの能力!」

華代の……能力?

「華代、能力って?」

華代は首に下げているペンダントを持ち上げて

「これやね。これが光って、みんなの傷を治せるようになったんよ。とやまるの傷もなくなっとろ? もう、痛くない?」

そう言われてみれば、もう体のどこも痛まない。至る所についていた傷も、あの大きな傷も無くなっていた。

「あれ……じゃあこれもしかして死んでない?」

「うん、生きとるよ。みんな生きとるよ」

そっか、死んでなかったんだ。みんな無事なんだ……よかった。

「……俺が助けられちゃったね」

「ううん、私やっと少し役に立てた……かな?」

「少しどころか、だいぶかな」

そんなこと言って笑いあっていた。


「二人とも起きたみたいだね。寝起きで悪いけど、邪神様の攻撃を防いでるこの壁がそろそろ……。全員、動ける?」

柚希先輩が俺たちの前に立って、壁を作って俺たちを守ってくれていた。全員の目を見てから、返事をする。

「大丈夫です、行けます」

そう言うと、柚希先輩は軽く笑って

「わかった。危ないから、すぐ動けるように準備しておいてね」

と言って壁を崩した。


バラバラと崩れ落ちた壁の向こうに、邪神様が待ち構えていた。こちらを見るなりニヤついて、そのまま攻撃を仕掛けてきた。

「ひなみ、華代のこと頼む」

「うん、任せて! バッチリやっつけちゃってよ!兎夜!」

ひなみがいつもの笑顔を向けてくれた。


自分は攻撃を避けて、華代達を狙う攻撃に銃弾を使う。ひなみと柚希先輩がいるから問題はないけど、できるだけ確実に。

少しばらけたけど、全員無傷みたい。

「あっ、ねぇらーいとー! 雷斗はあんまり激しく動いちゃダメだよ! 華代ちゃんが、内側はどこまで治せてるか判断つかないって! 」

雷斗はため息を着いてから、はいはいと言っていた。


「んで、こっからどうすんだ? 今は多分、お前の方が冷静な判断が出来る。お前の指示に従おう」

冷静な判断……。さっき、心臓を貫いても邪神様は全然平気そうだった。つまり心臓が別のところにある? もしくは、弱点が心臓じゃない? だとしたらどこになるんだろう……。

邪神様が放ったブレスが俺たちの間を裂く。ブレスに当たった木が、黒くなってドロドロと溶けていった。時間がない。相変わらず、邪神様の目は俺たちを冷たく見下している。その目を見ながら色々と考えているうちに、ふと何かを思いついた。


……目。ずっと、俺たちを冷たく見下しているあの赤くて大きな一つの目。ちょうど自動リロードが完了した音がなる。俺は迷わず、邪神様の目を狙って弾丸を放った。すると邪神様は、多くの触手を使って目元を覆った。そうか、そういうことか。


「どこ狙ったらいいか分かった。俺が先陣切るから、背中任せてもいい?」

「了解。ミスんじゃねぇぞ?」

「大丈夫、わかってるよ」

そう言うと雷斗はひなみとアイコンタクトを取っていた。ひなみが深く頷いて少しいつもとは違う、かっこいい笑みを浮かべていた。

「いつでも構わない、お前のタイミングで行け」


少し下を向いて目を閉じる。普段より大きく深呼吸をしてから顔を上げて、真っ直ぐ前を向いた。

「じゃあ、行くよ」

そう言って俺は前に向かって走り出した。


迫り来る触手をひたすらに避けて前に突き進む。たまに掠るけど気にしない。地面に咲いた彼岸花は、何故か爆発しなかった。不思議に思って、触手をかわすついでに見てみると、彼岸花が凍りついていた。


「んふ〜、わっちの能力! なんちゃってね!」

彼岸花は凍らせると爆発しなくなるらしい。でも花は残り続けているから、足元一面が白い彼岸花で埋まっていく。

にっこり笑っていたひなみを多くの触手が狙っている。その内の重なっていた部分を撃ち抜こうとした所で触手はバラバラになって地面に落ちていった。

「自分のこともちゃんと守れよ?」

「えへ〜ありがとっ、でも大丈夫だよ!」

ひなみがそう言うと、雷斗がバラバラにした触手を凍らせて、粉々に砕いてしまった。ねっ! って笑顔をしている。心配ないなという顔をして雷斗が別の所へ行った。そんな様子を見ていたら、自分の真横を触手が掠っていった。人のことばっか心配して見てる場合でもないか。


ブレスを吐かれて、咲いた花が散っていく。散る時も全然爆発する気配はなく、白くなっている花が散っては宙に消えていった。たまに差す月明かりが、花びらを照らしてキラキラと光っている。そんな中をただ突っ切って行く。だいぶ邪神様の本体に近づけたところで目の前に真っ赤な彼岸花が咲いた。

「これ……雷斗が倒れる前の……」

花はすぐ白に変わったけど、突然体内からものすごい痛みがして、血を吐き出す。その隙を突かれたみたいで触手に殴り飛ばされてしまった。飛んだ先には柚希先輩の白虎がいてくれて、あまり大きな怪我せずに済んだ。


「とやまる大丈夫!?」

「……うん。大丈夫」

肺とお腹がとにかく痛い。呼吸するのが少し苦しい。けど、また治療してもらうなんて時間はない。白虎もこっちを見ていた。

「大丈夫だよ。お前も優しいんだな」

そう言うと、グルル……って言われた。これが絵なんて信じられないよな本当に。


口から垂れた血を手で拭ってからまた前に進む。ブレスをかわして、触手を避けて、花びらが舞う。ただ、避けるのもさっきまでほど機敏には動けなくて、どうしても何ヶ所掠ってしまう。至る箇所から血が流れる。でも、一切気にしない。まだ、いける。


フワッと後ろから風が吹いたと思ったら、切り落とされた触手が地面の上で暴れていた。後ろから狙われていたっぽい。

「ビックリすんなよ。背中任せるって言ったの自分だろ? 前だけ見てな」

「あ、ありがとう」

切り落とされた触手が変形して、針の様な形になる。

「雷斗、後ろ!」

雷斗は避けもせず、ただ目を瞑っていた。針は、雷斗に刺さる一歩手前で止まって地面にバラバラと落ちていった。ひなみが凍らせたから、針の動きが止まったらしい。

「こういうこと。自分の心配だけしてやんな」

「そうだね、ほんと心強いよ」

そう言ってまた前に走る。


ふと上を見る。あの赤い目を確実に撃ち抜くには、高いところから撃てるのが理想。でも、高いところなんてない。だから……

四、五回くらい触手の攻撃やブレスをかわしたあとに、比較的上の位置に上がるのが確認できた触手に掴まる。一番勢いがついてると思ったところで手を離して、宙に舞う。だいぶ高い位置まで飛んで、高さが邪神様を越えた。大きな月が自分を照らしているのが分かる。


自分を狙う触手の束は、俺に届く前に凍りついてしまったり、バラバラに切り落とされてしまっている。触手が使い物にならなくなった邪神様は大きな口を開けた。赤い光が集まっている。空中でできるだけ銃を撃ちやすい体勢をとって、ひたすら下に落ちていく。

一番、目に近い高さまで。

邪神様から赤い光が放たれたと同時に引き金を引く。次の瞬間、爆風が吹いてどこかへ飛ばされた。爆発音や得体の知れない唸り声が聞こえる。目は開けられない。


どこかで体がギュンと引っ張られて、痛みを感じることなく地面に足が着いた。柚希先輩の白虎がまた俺を回収してくれたらしい。


「最初からずっと助けられてるね」

というと、フンと言って消えてしまった。

「とやまる! どっかで怪我したやろ? ちょっと治すけんじっとしとって!」

華代は、俺の右手をとって両手で包むと、ペンダントを緑色に光らせた。

「あぁ、ごめん。ほんとに助かるよ」

「ごめんやないよ。全然」

繋いだ手が、あたたかかった。


「随分と気持ち悪いものを見せつけてくれるよな」

ハッとして後ろを向いた。けど、そこに邪神様の姿はない……わけではなかった。ドロドロと黒いものが溶けかかっていて、人の形をしているように見える。ちょっと気持ち悪い感じ。

「お前……邪神様か?」

「そうだよぉ? お前がやったんだろ? ビビんなよ」

なぜだかすごくゾワッとする。華代の顔を少しだけ見てからそのドロドロに近づく。


「ほんとに……人間ってのは自分勝手で、自分の為だけに他のやつを平気で傷つけて、それでおいて正義ヅラしやがる。お前らと俺と、どっちが悪者なんだろう……なぁ、守護者君」

どちらが悪いなんて、それは……。

「言葉も出ねぇってか? 面白くねぇな。まぁいいさ、お前らみたいな腐れた生き物が、この世界を蝕んでんだよ。存在する価値すらない。まぁ、今に見てろよ、お前らは、生きていることを後悔することになるぜ?」

そう言うなり、邪神様はずっと高笑いをしていた。どんどん体が溶けて、最後にはバスケットボールくらいの大きさの、黒い塊になってしまった。


「……終わった、のか」

もう、邪神様だったソレから、笑い声すら聞こえなくなった。

「……やったか。守護者、それを撃てば間違いなく終わりだぜ。さっさと片付けちまいな」

この、黒い塊を撃てば全てが終わる。けど、引き金を引く気にはなれなかった。

「どうしたの?」

ひなみが不思議そうにこっちを見ている。

「……ううん、なんでもないけど。この状態になった邪神様に、何ができるんだろうって」


「なんだお前、変な情でもわいたか?」

ザッザッと雷斗が近づいてきて、短刀を抜いた。

「お前がやらねぇんなら俺がやってやるよ。こんなバケモンに、情けとか要らねぇだろうが」

雷斗が黒い塊に向かって青く光っている刀を突き刺した。けど、黒い塊に届く前に、それは白髪の女性を貫いていた。


「じゃ……神様……」

雷斗が刀を元の短刀に戻す。自然と女性から刀も抜ける。苦しそうに咳き込んで、血のようなものを吐いていた。

「……もしかして、サナ?」

「あなたがやったの?」

俺の問に対する答えはない。けど、それがきっと答えなんだと思う。

「……こうなることは、もう分かっていたの。でも、お願い。もう、最期くらい綺麗に死なせて。あなた達が何もしなくても、邪神様はもう助からないから」

銃をリストバンドに戻す。黒い塊をギュッと抱きしめて、震えながら泣いているボロボロのサナを、攻撃しようなんて気にはなれないし、何より

「俺はさ、大事なものを守りたかっただけなんだよ。もう、その邪神様は何も出来ないんでしょ? だったらさ、守護者の……いや、俺の目的はもう果たしたから、これ以上は何もしないよ」


そう言うと、サナは小さくありがとうと呟いて、邪神様を抱えたままどこかに飛んで行ってしまった。

「これで、よかったんだ」

全てが終わった。誰一人として欠けていない、全員、生きている。

深呼吸をしたと同時に、その場に座り込んでしまった。

「とやまる!?」

「……ハハッ、いつものことだから大丈夫だよ」

もう一回深呼吸をしてから、立ち上がる。

「帰ろっか」

そう言って、ボロボロになった祠を後にした。


山を下ると、空がオレンジ色に染まっていた。とても長かった夜が、音もなく、ただ静かに明けていった。

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