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神無月の守護者  作者: なまこ
神無月
47/53

神無月(8)

邪神様の目が冷たくニヤついていた。ここからは、相手も本気で来る。相手の動き次第で自分も動こうと思ってしっかり目を凝らしていたけど、いきなり全身に衝撃が走って吹き飛んだ。……何が起こったのかわからない。邪神様の姿が見えなかった。


「じゃーん、俺がちょこっとだけ本気出してみました! 速いっしょ?」

速いどころの話じゃない……目に見えないんじゃ話にならない。とりあえず一回距離を置こうとする。けど、動いた先には

「……彼岸花!?」

血みたいな赤をした彼岸花が爆発して、また吹き飛ばされた。思っていた以上に歯が立たない。間違いなく、さっきまでとは全然違う。本当に遊ばれてたんだって思うと悔しい。


「んだよ、面白くねぇなお前」

「……面白くなくて結構だよ」

目に見える攻撃はひたすら避ける。避けつつ距離を詰めて、銃口を向ける。けど、銃口を向けた先にはもう、邪神様の姿はない。

「残念こっちでーす」

振り返って引き金を引こうとする頃には、自分の体が傷ついている。まだ膝をつくわけにはいかない。どうすれば……どうすればいい。


しばらくは邪神様の攻撃を避けつつ様子を見る。何か、行動に法則性があるかもしれない。

触手による攻撃が八回、その後足元に彼岸花があるから立ち止まらずに動き続ける……。これが法則がと思った瞬間に、全身に痛みが走って祠にぶつかる。まだダメか。

出来るだけ早く立ち上がって、邪神様の死角になりそうな位置に移動する。それでもやっぱり、背後からあの目が見ている気がして振り返る。

「残念! 横です」

鋭い痛みがしたと思ったら、そこがだんだん熱くなっていく。足から血が出ている。


「クッソ……!」

あのニヤついた目が(かん)に障る。でもここで俺が冷静さを失ったら勝機なんて掴めない。軽く呼吸を整える。

邪神様の攻撃をひたすら避け続ける。彼岸花が爆発するあの音はもう聞き慣れてしまっていて、うるさいとは感じない。攻撃を避け続ける途中で、ようやく邪神様の姿を捉えることが出来た。少しづつ距離を詰めて銃口を向ける。引き金を引こうとしたその時、そこに居たのは


「とやまる?」

「えっ……華代?」

邪神様がいたと思った場所になぜか華代がいた。綺麗な着物を着たままで。

「華代……ひなみと先に行ったんじゃ?」

「うん……最初はひなみちゃんと一緒に山を降りてたんだけど、どうしてもとやまるが心配で。ひなみちゃんにも戻ろうって言ったけど、兎夜の意思だからって。でもやっぱり、とやまるだけを置いて行けなくて……」

気持ちは嬉しい……けど

「いや、華代、今すぐ戻って。危ないどころの話じゃないから」

「でもとやまる、傷だらけだよ……?」

「……そうだよ、傷だらけだよ。だから戻って」

華代が少し悲しそうな顔をする。

その悲しそうな顔に向かって、俺は銃口を向けた。


「とやまる……なんで?」

「……華代は、標準語では話さない。いっつも少し訛ってるんだよ。見た目はそのまま華代だけど、お前は華代じゃない」

言葉の弾丸を発した。華代のようなそれは、悲しそうな顔をしたまま下を向いた。そして、その体から赤黒い液体が噴水のように吹き上がった。彼岸花みたいな形で、ドバドバと。華代じゃないのはわかっている。けど、見ていて気分がいいものでは無い。

「守護者くん、大正解」

耳元で囁かれてゾワッとする。弾を放つと、邪神様の頬と思われる場所から血のような何かが垂れたが、余裕の笑みを浮かべていた。


「痛いじゃん」

そう言って、俺の目の前で華代の姿になった。どうして、華代の姿に化けられるんだこいつは……。

「ねぇ、痛いよ。とやまる」

口元だけ笑っている華代が言う。いや、違う。これは華代じゃない。

二、三歩後ずさってしまう。その時、足に彼岸花が触れて……。相手が偽物だって分かっていながら動揺してしまった。後悔しながら茂みの中に落ちていく。植物が容赦なく俺を傷つけてくる。


自力で起き上がる前に自分の体が浮いた。いや、正確には持ち上げられた。人の手ではない、気味が悪い冷たさの触手で。

「ね? 人間って馬鹿なんだよ。分かっていても引き金を引けないんだぜ? 弱いよなぁ」

首元を掴まれている。振りほどくにも力が足りない。足も地面につかない。

「なにイキってっか知らねぇけどよぉ、人間ごときが俺に楯突いてんじゃねぇよ」

苦しい。最後の望みだった右腕の銃も、虚しく地面に落ちていった。クソ……こんな所で。

目の前が暗くなっていく。ぼんやりと光る邪神様の赤い目だけが見える。息が吸えなくて、目を閉じかけたその時に、青白い光が視界に飛び込んできて、俺は地面に落ちた。


しばらく立ち上がれずに、うずくまって咳き込んでいた。全身にやっとで酸素が巡る。

ザっと足音が聞こえる。顔を上げると、そこにいたのは

「へぇ……お前、五年前のザコガキか。少しは成長したか?」

「まぁ、貴様の片腕切り落とせるくらいにはな」

青白く光る刀を持った、緑髪の少年がいる。

「……雷斗?」

雷斗がこちらを向いた。

「死ぬんじゃねぇぞ守護者。立て、お前が守ってみせろ。華代を、みんなを」

そうだ、俺が、俺がみんなを守らないと。こんな所で倒れてちゃ話にならない。


「ごめん雷斗、助かった」

立ち上がって雷斗を見ると、俺以上に重症を負っていた。なんでその傷でまだ立っていられるのかが不思議なくらい。

「雷斗……それ」

「あ? あぁ、気にすんな。のちのち話す。最低、お前の盾にはなってやるから……あいつを、討て」

自滅覚悟なのが何となくわかった。けど、

「……盾なんかにならなくていい。雷斗も帰るんだよ、みんなの所」

そう言うと、雷斗が少しびっくりした顔をして

「……あぁ、そうかよ」

と言っていた。……少し笑っていたのかな。


「お話済んだ? まぁ、ボロ雑巾が二枚に増えたって俺はなんも変わらないんだ」

邪神様の近くで爆発が起こる。雷斗が起爆札を使ったんだと思う。そして一瞬こっちを見て何かを投げた。

「お前、武器から手ぇ離すなよ」

そう言って邪神様の方に向かっていった。


「お前さ、人が話してるときに攻撃とか卑怯だと思わないわけ? ほんと、心無いよね〜」

雷斗の攻撃をかわしながら邪神様が言う。

「お前には言われたくないね。人の気持ち……大事な人失った人の気持ちなんて分からないお前にはな!」

雷斗の攻撃が邪神様に当たるんじゃないかなって思ったけど、掠る程度で吹き飛ばされていた。その隙を突いて横から照準を合わせるけど

「バレてんだって」

足元に彼岸花が咲く。


茂みに飛ばされた雷斗が咳き込んでいるのが聞こえる。そりゃそうだろ、横腹に穴空いてたんだから。そんな体で邪神様の攻撃なんて食らってちゃ持たねぇよ。雷斗の方に邪神様が向かうのが見えて全速力で立ち上がる。斜めから照準を合わせて撃ち抜く。

その隙を見つけたのか、雷斗も邪神様に一撃食らわせてから、起爆札を使ってこちら側に来た。

「……貸し借り無しな」

「別にそんなつもりじゃないけど……まぁ、そういうことにしとこうか」


邪神様は珍しく、すぐこちらには向かってこなかった。その場に居たまま、一人で笑っていた。何かおかしいことがあった訳では無いと思う。雷斗も嫌な顔をしていた。


「あぁ、そういえばよぉ、人には触れちゃいけねぇ傷があんだよ。おいザコ、お前、それにふれたな?」

二人とも何も返せずにいる。

「痛みを知らない? 馬鹿言え。こっちはお前らの顔見ただけで虫唾が走るわ! ただ虐殺するだけじゃ気がすまねぇよ。死んでなお後悔し続けろ(けが)れが」


邪神様の様子が一変する。今以上に人間の形から離れていって、月を覆い隠すくらい大きくなった。

「……嘘、だろ」

邪神様は、ドラゴンのような形をした化け物になった。大きな唸り声を上げている。

雷斗もこれは知らなかったようで、動揺が顔に浮きでている。


「冷たい土の下で、永遠に苦しみ続けろやクズ共が」

化け物は低く冷たい声でそう放った。

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