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神無月の守護者  作者: なまこ
神無月
46/53

神無月(7)

一際輝く月の中央に、羽を広げた少女が浮かんでいる。柚希は真っ直ぐサナを見つめていた。

それが気に食わなかったサナは時を止めて、柚希に当たる寸前の位置にナイフを大量に仕掛ける。

パッと指を鳴らすと時が流れ出し、そのナイフは一気に動き始める。しかし、ナイフたちはひとつも柚希に当たらない。


「なんで?」

「……さぁ、なんででしょうね」

柚希が、壁の絵を具現化していたものを解除すると、壁に突き刺さったナイフがカランカランと地面に落ちては消えていった。それを見るなり、ネズミたちを具現化し、サナの方へと向かわせる。そして、次に具現化する絵の準備をしていた。

サナも、向かってくるネズミたちにナイフを投げて相殺する。


「……すごい、柚希先輩互角に戦ってる」

「ほんと、助かったなぁ……」

ひなみの呼吸の荒さが増している。

「ねぇ、ひなみちゃん……血は一応止めれとるように見えるけど、大丈夫?」

「うん、ヘーキ。ごめんねちょっと血が足りてないんだと思う」

華代が心配そうにひなみを見たが、ひなみは笑顔を崩さなかった。


サナは空中から急降下して、一気に柚希との距離を詰め、軽めの剣で切りかかる。柚希は数回見切りで避けて、白虎を具現化して少し後ろに下がる。

「紙切れなんて切ってしまえばいいんだ!」

そう言ってサナは白虎に切かかるが、白虎は少々切られてもビクともしていなかった。

白虎がサナに噛み付くと、突然爆風が吹いて、白虎はどこかへ飛ばされてしまった。


柚希も何が起きたかよく分かっておらず、当たりを見渡す。サナも白虎も見当たらない。

「……何?」

柚希の足元でゴソゴソと何かが動く音がした。嫌な感じがして、柚希は場所を移動しようとした。しかし、足を動かそうとした時には、もう足元に(いばら)が絡んでいた。

顔を上げるとすぐにナイフが三本ほど飛んできて、後ろの木に突き刺さった音がした。掠れた頬から血が流れる。


「はぁ……たかが人間相手に本当の姿に戻らないといけないなんて思わなかった。屈辱」

そう言って木の影から出てきたのは、大人の姿をしたサナだった。先程の少女の姿よりも背丈と髪が長くなっている。服装も一変していた。

「……本当に、さっきの?」

柚希がつぶやくと、サナは一切表情を変えず、取り出した緑色のクリスタルを柚希の近くに投げた。それが少し光って、茨が溢れ出る。それがまた柚希を強く締め上げた。


「そうそう、言い忘れていたけど、その茨とさっきまで投げていたナイフには、毒がついてるのよ。そっちの妖怪でもだいぶ苦しそうにしているのに……貴女、どれくらい耐えられるでしょうね」

それを聞いた柚希は青ざめて、出せる限りの声で白虎を呼んだ。茂みの奥から飛び出した白虎が、引っ掻いて茨を切った。バラバラと柚希の体から茨が落ちていくが、それと同時に柚希も膝から崩れ落ちてしまった。白虎の前足も溶けかかっている。


白虎は柚希の指示なくサナに襲いかかる。サナは余裕の表情で赤色のクリスタルを白虎に向けた。

「……だめだよ白虎」

それを聞かず白虎は突っ込む。赤いクリスタルからは炎が放たれ、白虎は音を立てて燃え尽きた。


「もっと早く気がついておけばよかった。結局は紙なんだから燃やしてしまえばいいのよ」

火の粉が舞って宙に消える。その火の粉を突っ切ってサナは柚希に近づく。


「散々煽っておいてざまぁない。毒で死ぬの待ってもいいけど、時間がないから先に殺してあげる」

そう言ってサナは、柚希に向かってナイフを振り下ろそうとした。しかし、その刃が柚希に当たる前にサナの右腕が凍りついた。

「まだそんなに元気だったの?」

息も絶え絶えの状態で、ひなみはサナを見る。サナは氷をパッと振りほどき、ひなみの方に向かった。


「もう……もうやめて!」

先程まで座り込んでいた華代が、ひなみを庇うように立ち上がった。

「貴女にはあんまり手ぇ出せないから。どいて」

「嫌。絶対にどかんよ!」

サナは軽くため息をついて

「心配しなくても、後で貴女も死ぬんだから。先か後かだけよ。はやくどいて」

と言う。しかし華代は動こうとせず、下を向いて語り始めた。


「嫌なんよ。もう、ずっと守ってもらってばっかりで。どれだけみんなが傷ついても見とくことしか出来ん。今だって、自分のせいでみんな傷つきよる……。なんで、なんで私だけ何も出来んで、みんなに辛い思いさせないかんの……?」

「華代ちゃん……」

華代が涙を流しながら語るのを、ひなみが悲しげな顔で見ていた。

「私だって、みんなを守りたいよ……」

華代がそう言ったとき、華代の胸元が緑色に光った。兎夜からもらっていたペンダントの石の部分が、キラキラと輝いている。


「本当に守ってくれるなら……みんなを守って!」

華代がそう言うと緑色の光は強さを増して、辺り一面を照らした。サナは眩しくて目を塞ぐ。


「……華代ちゃん、見て」

ひなみが立ち上がる。先程まで傷だらけだったが、傷が全て消えていた。柚希もフラフラと立ち上がった。傷はひとつも残っていない。

「私、守れた……?」

華代も何が起こったかよく分かっていないような顔をしていたが、

「うん! これは華代ちゃんのおかげだよ、ありがとう」

とひなみが言うと、華代はうんと頷いた。


柚希は体の傷が消えているのを確認して

「華代ちゃん、ありがとう。ごめんね二人とも、助けに来たつもりが助けて貰っちゃって」

と言った。

「いえいえそんな」

華代とひなみが声を揃えて言ったので、柚希が少し笑っていた。そこで、突然拍手が鳴った。


「奇跡ってやつ? 綺麗なお話だね」

拍手をしてはいるが、その目はとても冷たかった。

「綺麗なハッピーエンドを迎えることが出来るのは、おとぎ話だけだってこと、教えてあげる」

そう言うと、サナは紫色のクリスタルに軽く口づけをして宙に投げた。すると、辺り一面真っ暗になり、視界が悪くなった。その中で爆風が吹き荒れ、全員飛ばされる。何が起こっているか把握出来ない中、突然空間が元の灯りを取り戻した。

地面にひなみと柚希が横たわっていた。


「奇跡が起こったって、それはすぐに黒く塗り変わるの。変な希望を持つのはやめなさい」

「柚希先輩……ひなみちゃ」

華代の後ろから何かが飛んできて、それはサナに突き刺さる。氷で出来た鋭い矢のようなものだった。

「そんな事ないよ。ね、柚希先輩?」

サナはびっくりして足元に横たわっていた二人を見た。片方は雪のように消えてしまい、もう片方も墨が水に溶けていくように消えていった。


柚希は大きな紙を持ち、それを前に突き出して

「そう。あるんだよ、奇跡って」

と言って、近くにある木よりも大きな龍を具現化した。サナは赤色のクリスタルを使って龍を燃やしてしまおうとしたが、龍はビクともせず、そのままサナを飲み込んで爆発した。


強い風が吹いて木々がザワザワと揺れる。巻き上がった砂が入らないように塞いだ目を開けると、木の下にサナが横たわっていた。

「……フッ、都合いいね、ほんと」

サナは笑って小さくそう呟くと、バラバラと小さなコウモリになってしまい、月に向かって飛んで行った。


「……勝った?」

「やったよ華代ちゃん! 柚希先輩! わっちらの大勝利〜!!」

柚希は二人を見て安心した笑みを浮かべていた。

「華代ちゃんそのペンダントどうしたの? いきなり光ったからびっくりした!」

「これ、今日の朝とやまるにもらったっちゃん。なんかあったら守ってくれるって言って貰っとったっちゃけど、本当に守ってくれるなんてね」

「マッ!? 兎夜ナイスじゃん! すごーい!」

「本当に、華代ちゃんのそれなかったら少なくとも私は死んでたよ。本当に助かった」

「……やっと役に立てて嬉しいです」

華代が笑っていた。


「じゃあひなみちゃん、あとは華代ちゃんをよろしくね」

そう言うと柚希は山の上に向かう方向に歩き始めた。

「待ってください!」

華代が止める。

「私も、行きたいです。とやまるのところ」

柚希は立ち止まって、少し考えてから華代の方を見た。

「……上は、さっきの吸血鬼よりも強い化け物がいる。しかも、華代ちゃんを狙ってるんだよ?」

柚希がそう言うと、華代は自分の力でペンダントを光らせた。ペンダントと同様に、華代の左目も輝く

「少しかもしれないけど、役に立てるかもしれないので」

華代がそう言うと、柚希は

「そうだね。じゃあ行こうか」

と言った。


月明かりが照らしていた少し開けた場所から、三人は木々の影で薄暗い道へと消えていった。月はなお、明るく光り続けていた。

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