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神無月の守護者  作者: なまこ
神無月
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神無月(6)

日が落ちきった路上、雷斗は黒川の魔法で召喚された槍に貫かれていた。脇腹辺りが赤黒く染まり、口からは血がポタポタと地面に落ちて、右手に持っていた月明刀は音を立てて地面に転がり、次第に元の短刀に戻っていった。


「そんままほたっときゃ、いつか死ぬっスよね。ほんっと、思った以上のザコって感じだったな」

そう言って、黒川はその場を立ち去ろうとしたが、ふと立ち止まって、魔導書を開く。


「意外とこういう奴って丈夫だったりするんっスよね。もう一本刺しときゃ確実だろう」

雷斗を貫いている槍よりも一回り大きい槍が宙に浮いて、それが真っ直ぐ雷斗に向かって飛んで行った。そのまま立ち去ろうとした黒川だったが


「……烈」

背後で突然爆発音がした。カンカラカンと金属類が転がる音がする。砂埃が立ち、視界が悪くなる。


「……くっそ、見えねぇ」

「だろうな」

黒川の目の前に雷斗が飛び出した。黒川は咄嗟に己の腕で攻撃を防いだ。

……血が出ている。


「……あんた、よくあの状態から動けたっスね」

雷斗は口の中の血を吐き出して

「ったりまえだろうが。こんな所でくたばってたまるか」

と言った。青く輝いていた月明刀に光はなく、短刀のままになっている。

雷斗は目を瞑って、月明刀を宙で振った。すると、短刀だったそれは刀へと変化し、青く輝いた。深呼吸をして目を開く。


「……ようやく落ち着いたよ。儀式始まってんなら、尚更早くケリ付けねぇとだよな」

「あんた、まさかまだ自分が勝てるって思ってるんっスか? そんだけボロボロにされといて」

黒川がそう言うと、雷斗は少し下を向いて口元をニヤつかせ、大量の起爆札を投げた。宙をふわふわと舞ったそれは大きな音をたてて爆発し、砂埃が立ち、道の街灯は不自然に点滅していた。


「あいつ、自滅する気なんか……!?」

爆風に吹き飛ばされつつ、次に攻撃が来ることを見越した黒川は魔法でバリアを張るが、それもすぐに壊れてしまう。

「どうなってんスか……!」

黒川は手元のタロットカードを地面に捨てるが、それは地面に着き切る前に二つに裂けた。それを見届ける間もなく黒川は腹辺りを強く殴られた様な衝撃を受けて体勢を崩した。


体勢を立て直す前に、黒川は魔法で二本の剣を呼び出し、それを使って雷斗の攻撃を防ぐ。金属が触れ合う音がする。

「お前、剣なんか使えたのかよ」

「俺も、別に魔法一本ってわけでもないんでね!」


黒川が剣を振る。雷斗はそれを軽々と避け、二本の同時攻撃を刀で受ける。その攻撃を振りほどいて反撃を仕掛けるが、黒川もそれを防ぐ。手先を器用に動かし、途中で黒川はタロットを地面に捨て、高速で対象を狙う剣を召喚した。雷斗は飛んできたその剣を、数箇所掠りながらも月明刀ではじき飛ばす。そのすぐ後に黒川が切りかかってくるのを、何とかかわして起爆札を爆発させた。


黒川はタロットで風を起こして砂埃を払う。雷斗が切りかかろうとしてくるのを読んでいたため、ちょうどその位置くらいに槍を召喚したが、雷斗は既に背後に回り込んでいた。黒川がそれに気がついて振り返った時には、月明刀に当たって吹っ飛んでいった。


黒川が起き上がる前に、雷斗は黒川の胸ぐらを掴み、上半身だけを起こした。

「お前には大概世話になったな。もうケリ付けてやるからよ」

しかし、黒川は笑っていた。


「あんた、もしここで俺を倒したとして、今から行って間に合うんっスか? 色んなもんだいぶ消費したでしょう? クフフ、哀れっスよねぇ。こんな所で時間食って、身内には無いモノ扱いされて、結局は生贄の子も救えないんでしょう? 何も成せねぇ……」

黒川が全てを言い終わる前に、雷斗が口を開いた。


「お前は、誰かを守るために命を奪う、そして自分の命を落とす覚悟はあるか?」

「はぁ?」

「……俺は」

雷斗はそう言って、あえて力を抜いた月明刀を黒川の首に当てた。

「俺は、今ここでお前を浄化するのではなく、()()()()くらい容易くできる。貴様のように、ゴタゴタ沢山の言葉並べる前にな!」

そう言って黒川を首を刺そうとした時


「やめてください!」


点滅する街灯が照らす夜道に、少女の声が響いた。雷斗もビックリして手が止まる。


道の奥からタッタッタッと走ってくる音が聞こえる。街灯が照らしてやっとその少女の姿が明確に見えた。紫の髪をミドルツインテールにした、高校生にしては小さめな少女がそこには立っていた。


「この人、悪い人じゃないんです! 」

雷斗は、黒川を地面に叩きつけるようにして手から離した。少女を見る。

「……あんた、八月頃にあったお嬢ちゃんっスか?」

「そうです! あの……あの時は」

「いやいいっスから。あんた早くどっか行きな」

「いや、だってあなた今……」


二人が話している様子を雷斗はしばらく見ていた。なにか、懐かしいものを思い出すかのような表情をして

「悪い人じゃない、ねぇ」

と呟いた。それを聞いた少女は雷斗を見る。雷斗の脇腹に空いた穴を見てヒッと悲鳴を上げていた。それを見て雷斗は、

「あぁ、エグいもん見せたな。すまん」

そう言って上着で傷を隠した。


「……あんたからすりゃ、今は俺がワルモンだろ? すまねぇことしたな」

そう言って雷斗は暗い道の先へと歩き始めた。

「あっ、あの……」

少女のその声は聞こえていたが、雷斗はそれを無視して


「おい、クソ半人外。その子、絶対これ以上悲しませんなよ」

とだけ言って去っていった。


「……お嬢ちゃん、なんでまたこんなタイミングで」

「いえ……なんでもないんです。なんでも」

黒川は軽く魔法を使ってその少女の心を覗いた。神無月について知っていること、その少女の知り合いがこの神無月に関わっていることを読み取り、黒川は後ろめたい顔をしていた。純粋な少女の眼差しが、彼には少々突き刺さる。


「……それ、危ないんっスよ。早く家に帰りな」

「いやです、あの、今日帰りたくなくて……」

「いいから! 帰りな嬢ちゃん、それはあんたが軽く関わろうとする世界じゃねぇんだ」

「いや、ちょっとまってくだ」

少女が全て言い終わる前に、黒川は魔法でその少女を転送させてしまった。

静かになった道の上で彼は

「あんたはこっちにかかわっちゃダメなんっスよ。小春……」

と呟いていた。


一方、雷斗は、少々ゆっくり道を歩いていた。

「はぁ……今更痛みがきやがった。クソが」

祠の近く、邪神様がいるだろうと思われる場所に向かう。まともに戦える状態ではないが、今更帰る訳にもいかなかった。

「……はっ、最悪の場合、盾くらいにはなれんだろ」

軽く笑いながら、彼は暗い道の闇の中に入っていった。

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