神無月(4)
時は少し遡り、日が落ちかけたある道の上。雷斗は、突然現れた黒川と戦っていた。
「くっそ……前より桁違いなレベルで強くなってやがる。めんどくせぇ」
「無駄口叩いてる暇なんてあるんっスか?」
迫り来る多数の武器たちを刀で弾く。キリがない。
攻撃の隙を見つけ、一気に距離を詰めて切りかかるが、軽々と避けられる。黒川はカードを一枚捨てて地面からの攻撃を仕掛ける。予想外だったその攻撃を避けきれず、雷斗は右腕から血を流した。
「どうっスか? かつて倒したと思ってた相手から痛めつけられる気持ちってやつは」
「……るっせぇよクソ不審者。たかが一撃くらした程度でいい気になってんじゃねぇよ」
黒川は余裕の笑みを浮かべていた。
上空から降り注ぐ槍を起爆札で吹き飛ばし、再び距離を詰める。黒川に隙ができ、雷斗はそこを突こうとしたが
「罠っスよ?」
そう言って黒川は雷斗の額のあたりに人差し指を当て、軽く弾いた。すると、雷斗はふらつき、片膝を着いた。
「……貴様、一体何をした?」
「フッ、意識は保てたんっスね。常人ならそれで気絶するはずなんだが……まぁいいか。せっかくなら意識のある状態で苦しんでくれた方がいいし」
数秒間、雷斗は動けず、その間に飛んできた武器たちに数箇所体を切られたが、それでも構わず立ち上がり、攻撃を再開した。気がつけば、日は落ちきっていた。
攻撃を続けていると、雷斗はふと何かに気が付き笑った。
「フッ、つかお前、俺のことここで足止めしてていいのかよ。俺がいなかったら儀式始まらねぇから、お前のボスの予定が遅れて行くだけだぜ? 役立ちてぇんだろ? 言ってる割に馬鹿だな、お前」
しかし、黒川はそれを聞いてさらに笑いだした。
「儀式っスよね? それならもうとっくに始まってるっスよ。あんたって、ほんとに価値がない人間なんッスね」
雷斗は酷く驚いた顔をしていた。
「……マジかよ。こういう時だけザッパにして始めてんじゃねぇよ」
黒川はニヤついていた。
「本当にそれはただの大雑把、なんでしょうかねぇ?」
「どういう意味だ」
「あんた、最初っから人数に数えられてないんじゃないんっスか? まぁ分かりやすく言うと、その場にいてもいなくても変わらない存在、実際空気みたいな存在だって思われてたんじゃないんっスか? ん? 」
「……知らねぇよ。アイツらが俺のことどう思ってるかなんて」
「強がってんっスか? 知ってるんっスよ? あんたが家族と仲悪いこと、親戚内でずっと悪口言われ続けてきたこと……全部知ってるんっすよ?」
「るっせぇんだよ! だからなんだ、それがどうした! アイツらが俺をどう思ってようが関係ねぇだろうが!」
「クク、すぐ感情に流されてるようじゃ、俺には勝てないっスよ。ほら」
黒川がそう言い終わると、雷斗は空中から降り注いだ槍に突き刺されていた。
一方、華代はひなみと一緒に山の獣道を下っていた。
「……ここまできたら少しは安心かな。華代ちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫。ごめんねひなみちゃん」
「んふー、大丈夫ならいいよ?」
二人ともあまり音を立てないようにしているが、ガサガサと茂みの揺れる音がなる。
「華代ちゃんそれ動きづらくない? 結構重たそうだし」
「うーん、ちょっと動きづらいかもしれん。着物、だいぶ着崩してるけど……」
「そんなこともあろうかと! じゃーん、華代ちゃんの制服〜! ちょっとお部屋お邪魔しちゃったけど、みんな制服だし、何となく、ねっ?」
華代は最初こそ驚いていたが、
「ふふっ、せっかくやけんサッと着替えようかいな。着物系の着替えは慣れとるから、一分もかからんで着替えきるよ?」
と言って笑っていた。
華代が制服に着替えて、再び山の道を降り始める。
「もうすぐで山を下り終わるはずなんだけど……おかしいね、全然下が見えない」
「……なんかちょっと変やね」
二人は周囲を警戒した。月明かりのみが照らす獣道、二人以外の音はない。
「何も……ないね」
「うん。今のところはね。いつ何が起こるかわからないから気をつけて行こう」
「うん、そうしたらいいんじゃないかな」
背後から少女の声が聞こえた。二人は驚いて同時に振り返るが、そこには何もいない。
「こっちだよ」
華代は耳元で囁かれ、軽く悲鳴を上げた。ひなみが華代を心配しながら
「何、誰? 隠れてないで出てきて!」
と声を出した。
数秒間沈黙が続き、遂に二人の目の前に、白髪の少女が現れた。
「妖怪も一緒にいるとは思ってなかったよ。まぁ別に、妖怪一人いてもいなくても、そうそう変わらないんだけど」
「貴方は……誰?」
「私? 私はサナ・ヴァインベルガー。あなたには帰ってもらうよ、生贄さん」
「させないよ! 華代ちゃん、わっちからあんまり離れないでね」
「う、うん」
「あんまり、手荒なことしたくないんだけどなぁ」
そう言うと、サナは腕を宙で振った。そこに数本のナイフが浮かんでいる。サナが華代達を指さすと、そのナイフは二人目掛けて一直線に飛んで行った。そのナイフをひなみは氷で弾く。
「ふぅ、やっぱりそうなっちゃうよね」
サナはそう呟き、再びナイフを取り出した。
ひなみはまたナイフを防ごうとしたが、そのナイフはひなみの身を切り刻んだ。まるで時が一瞬止まったようであった。
「嘘っ、なんで?」
「貴女じゃ私には敵わないから、早く生贄を渡した方が楽になれるよ?」
ひなみは傷口を凍らせて、滲んだ血を止めていた。




