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神無月の守護者  作者: なまこ
神無月
42/53

神無月(3)

あっという間に時間が過ぎてしまって、空は一面黒に染まっていた。頃合を見ながら家を抜け出して、今はけもの道を歩いている。


儀式が始まる時間は柚希先輩から聞いていて、その時間より少し遅れて着くようにして欲しいと言われた。


スマホのライトで道を照らして歩いていると、道の先に明かりが見えてきた。もし誰かいて、部外者がいるって思われるとマズいからスマホのライトを消す。音も出来るだけ立てないように、明かりの方向に近づく。


近くに行くと、それは儀式の明かりだった。数名の大人たちと柚希先輩がいて、祠の前に綺麗な着物を着た華代がいた。

綺麗だな……ってちょっと見とれてたけど、頬を軽く叩いて緊張感を取り戻す。


その場にいる大人の中で、一番年上に見える人がお経っぽいのを詠んでいるのが聞こえる。灯った灯篭の火が揺れているのもあって、だいぶ気味が悪い。

華代が一礼して祠の中に入っていく。闇に吸い込まれて行くようで見ていられない。だけど、ぐっとこらえる。


大人たちが扉に鍵を掛けて、その鍵を柚希先輩に渡した。そうして、何事も無かったかのように大人たちは去っていった。薄暗いからしっかり見えている訳では無いけど、誰一人として表情が変わっていないように見える。それが不気味で怖かった。


大人と一緒に柚希先輩も去っていく。大きな音がならないように、自然に鍵を落としてくれた。大人たちが手に持った提灯(ちょうちん)の明かりが小さくなった頃、俺は茂みから飛び出て鍵を手にとった。


ここから先は、いつ邪神様が出てくるか分からない。鼓動が速まっているのが分かる。不意打ちなんて食らったらひとたまりもない。それでも、この暗闇に閉ざされた祠の戸を開ける。


「華代? いる?」

祠の奥から布が擦れる音がする。トントンという足音と一緒に床が軋む音も聞こえる。

「……とやまる?」

開けた戸から差し込む淡い光で華代の顔が見えた。


「うん、俺だよ。大丈夫?」

「う……ん? 大丈夫」

華代の反応が微妙だったのが気になったけど、よく考えてみれば、華代の方から俺を見ると逆光になっていて、本当に俺なのか確認しづらかったんだと思う。

スマホのライトをつけて少し遠くから天井を照らす。こちらからも華代の顔がはっきり見えた。


「これで安心かな?」

そう言って右腕のリストバンドを見せると、

「うん! 本当にとやまるやね。よかった……」

と安心した表情を見せてくれた。


でもその安心感は一瞬にして消え去った。

俺は華代を自分側に引っ張って、暗闇に向かって銃を向けた。華代は状況を理解出来ておらず、ただ「どうしたの?」と聞いて来るが、それにまともに答える暇もない。なぜなら


「いや〜いい所で邪魔してすみませんね〜、もうそれ系の茶番は見飽きてるんで、待たなくてもいいかなって」

闇の中で、大きな赤い一つの瞳がぼんやりと輝いている。その目が、明らかにこの世の者では無いことを証明していた。


「……お前が、邪神様?」

そう呟くと、赤い瞳がにんまりと笑って、

「そうでーす、俺がかの有名な邪神様! よくここまで生き残ったねぇ、守護者君」


銃はまだ撃たない。邪神様が動いていないように見えるけど、見るからにバケモノである邪神様に向かって闇雲に銃を使うと、カウンターを食らいかねない。


「ところでさぁ守護者君、君にチャンスをあげるよ。俺はさ、心優しーい神様だからさ、無駄な命を取る気はないんだよね〜。そこでさ、守護者君に相談なんだけど、その生贄こっちに渡してくれりゃ、君は無事に帰らせてあげるよ。どうする?」


「渡すわけないだろ」

答えは一つしかない、渡してたまるか。

「そっかー、それは残念! あー残念! じゃ、二人仲良く死のっか!」


暗闇から何かが伸びてくる。それに向かって弾を撃ち込んで、華代の手を引いて祠の外に出る。さっきまで暗い所にいたからか、視界がやけにハッキリとしてる。


華代を庇うようにして立つ。どこから来るか分からない。

「いきなり銃弾撃ち込んでくるとか痛いじゃん? いじめないでよ〜」

こちらは真剣なのに、邪神様はヘラヘラとしていた。邪神様が祠から出てきたことによって、初めて邪神様の全体が見えた。


足や腕がタコの足みたいになっていて、顔には大きなひとつの目がある。口や鼻があるのか、そもそもわからない。とりあえず、自分よりも大きな、タコのバケモノ……といった所だった。


またこちらに向かって触手が来る。間一髪で避けたけど、真後ろにあった石造りの灯篭が音を立てて崩れ落ちた。華代がゾッとしている。


「華代、大丈夫だからね。もう少しまってて」

華代が小さくうなづいた。

ふと気がつくと、足元に赤い彼岸花が咲いていた。明らかに異様な雰囲気を発しているそれから、急いで華代を遠ざけると、それは勢いよく爆発した。


「花が爆発とか、悪趣味だね」

「そう? 彼岸花ってちょっと炎みたいだし、ありじゃね?」

そう言ってまた彼岸花が次々と咲いていく。

咲いては爆発を繰り返す。俺は華代の手を引いてただひたすら走る。今は華代をできるだけ危険から遠ざけることを優先したい。


しかし、それはいつまでも続かない。華代の体力の問題もある。華代が限界に近い頃、彼岸花の爆発を避けきった後に、後ろから触手が近づいてきていた。銃弾を打ち込もうとしたその時、邪神様の触手が凍りついた。


「兎夜!! 華代ちゃん!! 遅くなってごめん!」

自分たちの左側から聞きなれた明るい声が聞こえた。

「ひなみ!」

声はいつもと同じだけど、見た目は妖怪の時の見た目をしていた。

「ひなみちゃん?」

「うん! わっち!! なんでこの姿が華代ちゃんに見えてるのかはわかんないけど、それはあとでだね! 華代ちゃん、行くよ!」

「ひなみ、華代を頼む」

「んふー任せて! 兎夜も、あとは頼むよ!」

「うん、任せて」


そうして、ひなみは華代の手を引いて祠から遠ざかって行った。華代は最後まで俺の方を心配そうに見ていたから、笑ってそちらを向いていた。


「あーあ。一匹取り逃しちゃったじゃん。せっかく遊んであげてたのにさぁ」

邪神様は、凍りついた触手を軽く地面に叩きつけて氷を払っていた。

「で、何? もうお前一人なんだから、ちょっと楽しめるくらいに遊んでいい?」

「……来るなら来い。俺が相手になる」


邪神様の目が、ニヤリと笑っていた。

「ちょっとは楽しませてくれよ? 守護者君」

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