番外編 対談
こちらの小説は
ネットプリント限定で公開していた
「神無月の守護者 第1巻」の番外編作品です。
これを読まなくても本編に支障はありません。
ストーリーの展開を考察する上で役立つかな? くらいのものなので、気軽に読んでもらって大丈夫です。
彼岸町に来てからもうすぐ一か月が経つ。すっごい田舎だけど、こっちに来てから友達もできたし、まぁ楽しく生活できてると思う。
不思議なことが起こることに関しては別だけど……。
ふと、引っ越してくる前の町の友人のことを思い出す。
「あいつ元気にしてるかな?」
携帯から電話をかける。あいつ、早く寝ちゃうタイプだから起きてるといいんだけど……。
「……あっ、もしもし?」
「あぁ、もしもし兎夜? ひさしぶりだね、元気にしてた?」
「うん、元気だよ。そっちは?」
「もちろん元気だよ。そうそう、電話してくるなんてなかなかないじゃん? さみしくなった?」
「うーん、さみしいとかじゃないけど……なんとなく?」
「なんだよそれ、でもまぁ、たまにはいいかもね」
「いわしっち、そっちいまどうなってるの? なんか変わったことあった?」
いわしっち。本当は岩岡滋俊って名前で、魚っぽい要素なんてひとつもないんだけど、あだ名の方が呼びやすくてこんな呼び方をしてたんだったな。思い返すと懐かしい。
「いやぁ……特に変わってはないかな? まぁ、しいて言うなら僕に彼女ができたくらい?」
「ふーん……えっ!? 彼女!? いわしっちに!?!?」
「そうだよ? できちゃったんだよ、本当にかわいい彼女」
ここからだいぶ惚気話を聞かされた気がする。相当好きなんだろうな、彼女のこと。
「いやぁ、ごめんごめん。だいぶ語っちゃったわ」
「いや、いいよ。幸せそうでよかったよ」
ついこの間まで、この学校ろくなやついねぇとかいってたのに……一か月ってこんなに事が変わるほど長いものだったんだなぁ。
「そっちはどうよ、ちゃんと友達できた?」
「友達くらいできますよ。ちゃんと初日からお話してきましたぁ」
…というのも、話しかけてくれたの向こうなんだけどね。
「おぉ、成長したじゃん。高校入ったすぐは友達出来ねぇって萎えてたのに」
画面の奥でいわしっちが笑ってた。
「そ、それはお互い様じゃん……そっちだって……」
ただ楽しそうに笑ってるから、それはそれでよかった。
「いやぁ、よかったよかった。んで、どうなの、楽しい?」
「それなりに楽しいよ。まだ若干なれないこととかあって、少し緊張してる気がしなくもないけど」
そう。こっちの生活は前いた町よりも、傍から見たら退屈なのかもしれない。
けど、俺にとっては結構楽しい生活だった。
「まぁ、たまに変なのでたりするけど」
「え、なに? 熊とか? それとも猪?」
そんなのだったらまだかわいい…わけないな、じゅうぶん怖いわ。
「いや……なんかどっちかっていうと……おばけ?」
「はっはっは、キツネかなんかに化かされてるんじゃないの?」
「キツネか……たしかに山の中だからなぁ。そういうのだったらいいんだけど」
穏やかでいい町だけど、出るっていうのはやばいよね。冷静に考えたら。
なんか笑えてきた。
「そういえば、僕が渡したリストバンドどうよ、着け心地悪かったりしない?」
「いや全然、むしろ毎日つけてるかも。なんかすごくなじむんだよね」
「そう? それはよかった。あげたかいがあったよ。よければ大事にしていてくれ」
「うんわかった。ありがとう」
「じゃあそろそろ僕は寝るよ。久しぶりに話せて楽しかったよ。またかけてきてね」
そういうといわしっちは電話を切った。時間はまだ二十二時時。本当に寝るのはやいなぁ。
……明日は月曜日か。俺もたまには早く寝てみようかな。
部屋の照明を落として横になる。田舎町だから車の音なんて一切聞こえない。風の音、葉っぱが揺れる音。自然と自分が一つになったみたいで気持ちがよかった。
ふと視線を窓の外に移すと、空一面の星が、ただ静かに輝いていた。
幻想的だなと思って目を閉じた。
一方ある都会の町では。
「どうだかね、あの田舎町。生まれたときから都会育ちの兎夜くんには退屈かなって思ったけど、なんか楽しそうにしてるみたいで安心したよ。まぁ、僕にはもう関係ないか。身を守ってくれたらいいね。それ」
そういうと、彼は目を閉じた。