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神無月の守護者  作者: なまこ
長月
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長月(6)

次の日、おそるおそる学校に行った。

昨日の少年が()()()()なんて言うものだから、謎にずっと緊張してる。


「どうしたんとやまる、なんか今日調子悪い?」

はたから見たら、分かりやすいくらいにカチコチなんだろうなぁ。華代が心配してくれた。

「ううん、大丈夫だよ。全然元気!」

「そうなん? ならいいけど、無理せんどってね?」

全く、守る側が心配されてちゃ話にならない。深呼吸して、とりあえず落ち着こうとした。


息を吸って、吐こうととした時に

「わっ! とやまる華代ちゃんおはよ〜」

盛大にむせ返った。

「あぁ〜びっくりした! おはよ、ひなみ」

「むせ返るほどびっくりしとるとやまる面白いわ、ひなみちゃんナイス!」

「「イエーイ!」」

華代とひなみがハイタッチしてる。驚かされたこちらからしてみれば、全然イエーイっていう要素がないんだけど、二人が楽しそうだったから、つられて笑った。


それから昼休みくらいまでは何も起こらなかった。華代やひなみにも一切被害はないし、俺のところにも攻撃のようなものはない。ちょっとホッとした。

けど、その安心もつかの間だった。


昼ごはんを食べて、そのまま華代とひなみの三人と話していると、華代の肩を後ろから誰かが叩いた。

華代が振り返ると、そこに居たのは赤沼さんだった。

「えっと、赤沼さんだよね? どうしたん?」

「ううん、特になんでも」


そう言った赤沼さんに、俺は迷わず銃口を向けた。

華代にひなみ、クラスに居た人達の目線が俺に集まる。普段だったら目立つことはしたくないけど、そんなこと言ってられなかった。


「えっ、なに歌田、どうしたの?」

「赤沼さん。色々よくしてもらったことはありがたいと思ってる。けど……」

赤沼さんは少し戸惑っているような表情をしている。けど、それは

「それなに? エアガンかなんか? 至近距離じゃ洒落になんないぢゃん?」

ふぅ……と一息ついて、話し始める。

「……昨日の少年は君だよね、赤沼さん。右腕のアザ、隠し忘れてるよ」

そういうと、赤沼さんはニヤッと笑って

「バレちゃったか」

と言って、華代を連れて二、三歩下がった。


赤沼さんを狙って銃を撃とうとしたんだけど、

「誰一人として動くな。動こうものならコイツが蜂の巣になるぜ」

と言われて動けなくなった。赤沼さんの腕は、また昨日の鉄製のものに変わっていた。そして、赤沼さん自体も、いつもの赤沼さんから、昨日の少年に変わっていた。


「兎夜……どうしよう」

ひなみが俺を見ている。

「……隙が出来たら、華代を連れて安全なところまで逃げて。赤沼さんは俺が何とかするから」

そういうと、小さく頷いてくれた。

動くなと言われたけど、動かないで居たら(らち)が明かない。

華代も動揺しているみたいだけど、俺はひなみに目線で合図して動き始めた。


「そこ! 動いていいとはいってねぇぞ!」

指先の弾丸を全方向に向かって飛ばす。クラスメイト達がワーワー騒いでいるのが聞こえるけど、それを全て無視して赤沼さんに弾丸を撃った。でもそれは綺麗に弾かれてしまった。


この隙にひなみは床を凍らせて、スケートみたいに床を滑って華代を取り戻した。追加で撃たれた弾丸を、ひなみは氷の塊でガードした。

「ごめん二人ともありがとう」

「気にしないで! さっ華代ちゃん、行こっか!」

凍った床を滑って教室の外に出る。クラスメイトたちも続いて外に出た。

教室内は俺と赤沼さんだけになった。


「あーあ、せっかくどデカくと暴れようと思ってたのに、台無しじゃねぇか」

「学校でこんなことしてる時点でだいぶ大事(おおごと)ですけどね……!」


赤沼さんは少し大きめに笑っていた。そしてそのまま鉄か鱗か分からないような腕の方で殴りかかってきた。間一髪で避けれたって安心していたら、衝撃の強さで床に穴が空いた。自分が立っていた床も崩れて、下の階に落ちた。


「痛った……」

幸いにも、少々の体の痛みとかすり傷程度で済んだみたい。体勢を立て直す前に真横で何かが爆発した。瓦礫と一緒に吹き飛んだけど、全身痛いくらいで済んでる。ホコリが立ってたけど、赤沼さんの姿は捉えられた。照準が合わないなら、比較的当たりやすい位置を狙って引き金を引く。赤沼さんの動きが一瞬止まった。どこかに当たったんだと思う。


「痛ってぇ……まだ生きてるのか、意外としぶといな」

「当たり前ですよ、そうそう簡単にくたばれないからさ」

「ところでさ、お前って、なんでそんな危険な役割やってんの? 攻撃してる俺が言えることでもねぇけどよぉ」


何故。そんな事を聞かれるとは思ってなかった。でも答えは決まっていて

「大事な友達って、守りたいでしょ?」

赤沼さんは大笑いしていた。

「フッハハハ! んだそれ正義のヒーローかよ! じゃあ俺は、その正義を砕く悪ってわけだ。いいじゃん、面白い!」

「傍から見たら少し痛いけど、俺は本気ですよ」

少し下を向いて目を閉じる。そして顔を上げて、真っ直ぐ赤沼さんを見た。


「いいヒーロー(づら)するじゃねぇか」

「そりゃどうも」


こちらに向かって手をかざした。ビームが来ることを察知してすぐに避ける。ホコリが立つ中、瓦礫の一部を反対側に投げ、違う方向で大きな音を鳴らす。そっちに向かってまたビームが撃たれる。ビームが出ている所まで近づいて、至近距離で銃を撃とうとした。けど、こちらが重たい一撃を入れられてしまった。喉の奥から血の味がのぼってくる。


「単純、それはさすがによめるわ」

咳と一緒に血が出てきた。口から零れた分は袖で拭ったけど、血の味が気持ち悪い。

ぐらつく視界の中、こちらに殴りかかってくる赤沼さんが見えた。あえて体勢を崩してかわす。続いて来る拳に銃弾を撃ち込んで弾く。指のパーツが歪んで見えるのは、視界のせいなんかじゃなくて、俺の弾丸のせい。あれじゃあもう攻撃できないと思う。


「あーあ、軽い方壊しやがった、気に入ってたのに」

腕は変形でしているように見えるけど、壊れたら治らないってところを見ると、変形と言うよりは変身に近いのかもしれない。

片腕壊したところで、もう片方はほぼ無傷だし、なんなら、足まで変形し始めた。刃物みたいなものが付いてる。

それで蹴りかかってくるのを上手くは避けきれず、防いだ左腕から生暖かいものが溢れ出た。

痛みで目が覚めるような感覚がした。


また振りかざされた刃物が付いた足を瓦礫で防ぐ。

続く猛攻を防いで避けてを繰り返す。防いだ瓦礫は投げ捨てた。……赤沼さんを囲うような形になるように。

「ちょこまかウザったいな」

「……ところで赤沼さん、周りをよく見ることって大事だよね。的以外の場所も。そう、例えば、赤沼さんの周りとか、ね?」

「えっ」

瓦礫を積んだくらいで、赤沼さんは封じられないのは分かっていた。欲しかったのは……

銃口を照明を支える部分に向けて撃つ。バチバチと音を立てて赤沼さんに照明が落ちる。


「腕と足。攻撃に特化した部分は変形してあったけどね。まもることって大事だよ」

赤沼さんは、四肢以外変形していなかった。つまり、変形していないところならガードが低いってことかなって思って頭上を狙った。

()()()か。それとこれ、お前が言いたいことは違うんだろ? わかってっから」

「赤沼さんもさ、実際ちょっと優しいでしょ? あの時、ぼっちで浮いてた俺に声かけてくれたじゃん」

「あー……じゃあ違ぇけど、本物のヒーローに倒させる前に言っとくぜ。ヒーローは困ってる人、助けるもんだろ?」

「フフっ、本来の赤沼さんらしいのかもね」


「で、お前どーすんだよ。俺はもう動けないぜ、正直、目の前真っ暗で話すのもやっとなんだけど」

動けないのは、どうも本当らしく、近づいても、一切起き上がる気配がなかった。


「大切なものを守る。それだけですよ」

「……大正解」


銃声が鳴る。赤沼さんが黒い霧に包まれて消えてしまった。赤沼さんは、本当は優しい少年だったんだと思う。どうして邪神様と関わっちゃったのかわかんないけど、本当ならちゃんと友達になれてたのかもしれないなって思った。


銃をリストバンドに戻して、ボロボロの教室から出ようとしたとき、景色がいきなりモノクロになって、俺以外の全てが止まった。

「ふぅ……ほんと、よく暴れるよね、最近の子達」

その中に一人だけ、色を保ったまま動いている女の子がいた。何度か見た事のある、白髪の、羽が生えた女の子。

「あ……君は」

「名前、言ったことないよね? 私、サナ・ヴァインベルガー。邪神様の仲間だよ」

邪神様の仲間。なんとなく察しはついていたけど、なぜだか一向に攻撃してくる気配がない。


「絵谷くんに赤沼ちゃんまで倒しちゃったの、すごいね」

「君は……人間じゃないね? どうしてこんなことするの? なんで邪神様は生贄を取ろうとするの?」

「……全て、全ては()()()()()だよ。直接的には、君も華代ちゃんも、今を生きる御三家の人間も悪くないよ。けど、人間が悪いんだよ」

「じゃあなんで華代が」

「さぁ。それは、そっちが決めたことでしょ? 私にはわからないよ」

……少しだけ頭に血が上ってしまった。深呼吸して少し落ち着こうとした。


「赤沼ちゃん、この校舎を壊しすぎだね。しかも、性別学校全部偽って潜入で君のこと見てたんだ。記憶の上書きとかしなきゃかなぁ」

「記憶の上書き……?」

「ちょっとだけ魔法。守護者くん頑張ってるから少しだけ助けてあげる」

サナがそう言うと、ボロボロになっていた教室が元に戻っていった。

「君の傷も癒えてるはずだよ」

そういわれてみると、さっき怪我したところが綺麗に治っていた。

「あり、がとう」

「……いいよ。じゃあ、次に会うとしたらその時は()()()かな。それじゃあね」


一瞬の止まったような感覚がしたと思ったら、俺は一人で三年生の教室に立っていた。次の時間が移動教室だったらしく、そこには誰もいなかった。


「あっ、おかえり兎夜! どこいってたの?」

「……あれ? ひなみ、さっきのこと覚えてない?」

「んー? さっき? なんかした?」

「あれ……?あっ、華代も無事? 怪我ない?」

「どうしたん急に、私大丈夫よ?」

記憶の上書きってこういうことか……不思議な感覚。


「あっ、じゃあ赤沼さんって人は?」

「赤沼さん? 知らんねぇ。うちの学年にそんな人おったかいな?」

赤沼さんの記憶まで消えてしまっていた。赤沼さんのことを覚えているのは、この学校内では俺だけになってしまったのかもしれない。

ついさっきまであったはずの赤沼さんの席も、気がついたら無くなっていた。少し悲しい気分になった。


家に帰っていわしっちに連絡を取ってみた。するとどうやら、赤沼さんと同じ名前の人が帰って来たらしい。ちょっとほっとした。


窓から秋風が吹き込んできた。空に浮かんだ月が、秋の訪れを物語っていた。もうすぐ、神無月がくる。

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