長月(4)
何も無い日曜日。久々にあんまり難しいこと考えずにグダグダ出来るなって思って、思いっきりベッドに横になっていた。窓から吹き込んでくる風が数日前より明らかに涼しくなってる。秋……かな。
お茶でも飲もうかなって思って起き上がる。
最近ハマった新曲のワンフレーズを軽く口ずさみながらトントンと階段を降りて居間に入ると、お母さんが居間横の和室の押し入れを漁っていた。
「あれ、お母さん押し入れの整理してるの? 珍しいね」
「んー? そりゃお母さんもたまにはちゃーんとお掃除しますよぉ。あっ、そうそうコレ見て、お父さんの遺品整理してたらこんなの出てきてさ〜」
お母さんが取り出したのは小さめの木箱。少し古びてる。
「引っ越す時こんな荷物あった? こんなの見た記憶ないんだけど」
「私も覚えてないのよね。何かと一緒に入ってて気づかなかったのかも。でね、これ開けたんだけど、中身がペンダントだったのよ」
そう言いながらお母さんは木箱の蓋を開けた。中に入っていたのは緑色の石が着いてるペンダント。あんまり高そうなものには見えない。なんなら古そうに見える。
「これお母さんへのプレゼント……だったのかな」
「残念ながら違った、これ兎夜宛てなのよ。お母さん差し置いて息子にペンダント……なんて面白いよね」
お母さんは呆れた〜と言いながら笑っていた。あんまり呆れているようには見えなかったけど。
「なんで俺なんだろうね」
「いざと言う時に守ってくれるから〜だって。そんなの持ってたんなら、お父さんも持ち歩くようにしてりゃ良かったのにねぇ〜」
お父さんは、俺が中学生の時に事故で亡くなった。道に飛び出した子どもを庇おうとしてだったと思う。最後の最後まで他人思いなお父さんだったな。
お母さんがふぅと一息ついてから
「はい、とりあえずこれあげる! 大事にしておいてね? 」
と、言ってその木箱に入ったペンダントを俺に渡した。少し受け取りづらいけど、受け取った。
「分かった。大事にしておくよ」
そう言って少しペンダントを眺めてから、お茶をついで部屋に帰った。
何かの時に守ってくれるかもしれないってことは、ある種のお守りみたいなものなんだと思う。
ふと、カレンダーが目に入る。九月と書かれたその隣にある小さめな十月のカレンダーが、こんなに重たく見えるのは人生史上初。少し目を逸らした。
「お守り……ねぇ」
そんなことを呟いたその時、いきなりスマホが鳴った。ビックリして起き上がる。誰からだろうと思って画面を見ると、いわしっちの名前が画面に浮かんでいた。
「もしもし?」
「あー兎夜だわぁ。ひっさびさに声聞いた」
「自分から電話かけてきたんじゃん。で、どうしたの?」
「いや、なんとなーく? 家誰も居ないし暇だから」
「いやお前一人暮らしなんだから家に誰もいないほうが当たり前なんじゃないの?」
「あっ、そうだったわ」
なんかちょっとこっちもこっちで久しぶりにいわしっちの声を聞いて安心していた。まぁ、電話を繋いでも、他愛のない話をするばっかりなんだけど、それが楽しかった。
「あぁそういえばさ、俺の高校でさ、仲良かったやつが二年になった途端不登校になってさ」
「あら……それは寂しいね」
「うん。まぁそれはそうなんだけど、なんか変でさ。誰もそいつのこと覚えてないんだよ。変じゃね?」
「え、そんなことある? 不思議すぎない?」
「うん。そいつ、写真とか好きなやつで。趣味が合って仲良くしてたから結構寂しいんだよね。名前、赤沼樹って言うんだけどさ」
……赤沼樹?
「こっちにもそんな名前の人いるんだけど……」
「まじ? だけど転校したとか聞いてないからガチの偶然なんだろうね。すごいなぁ。ちなみに、そっちの赤沼樹さんからは不思議な話聞かない? 変に霊感が高いとか、一年の時からいるはずなのに、二年の時は誰もその人のこと知らなかった……とか」
いわしっちが言ってる内容が、赤沼さんに綺麗に当てはまっててちょっとゾワッとする。
「うわやめてやめて、そんな怖い話みたいなの。なんか学校の七不思議みたいな雰囲気でてるじゃん……」
「うっわ、いまのじゃんっていうの、赤沼がギャルのモノマネする時のぢゃん思い出すわ。なっつかし」
偶然にしては一致する点が多い。少し頭がこんがらがってきた。
そこからはまたいつもみたいに他愛のない話をして電話を切った。
赤沼さんの話がちょっと気になる。夏休み明けてから席変わっちゃったから、遠くからちょっと見ておこうかな。
そんなことを考えながら、空になったコップを台所に持っていくと、居間のソファーでお母さんが寝ていた。お母さんの周りには写真のアルバムが散乱していた。まだ俺が生まれてないときの写真もあれば、小さい時の俺が写ってるのもある。
お母さんはその中の一枚、俺がまだ小学生くらいのときに家族三人で撮った写真を持ったまま寝ていた。
「ほんと、また散らかしてそのまま寝ちゃうし……風邪ひくでしょ? そのまま寝てたら」
お母さんにブランケットをかけてから、居間を後にした。
階段を登っている時に、
「どっちが親かわからないな」
そう言いながら笑っていたお父さんの顔をふと思い出した。
部屋にもどると、机に置いておいたペンダントが、窓から差し込む赤い夕日に照らされてキラキラと輝いていた。




