長月(1)
始まる前はたくさんあると思っていた夏休みが終わって、九月になった。
気温や日差しの強さはまだそんなに変わっていないんだけど、風景が夏終わりの色に少し変わり始めた気がする。
正直、学校に行く足取りは重たい。柚希先輩や旭飛、そして華代とは少し気まずいまま長い時間がたってしまっている。どう話しかければいいのかちょっとわかんなくて……。
教室のドアを開けて席に着く。華代はいるんだけど……声かけていいのかもちょっとわかんない。
それから約三分くらい考えて、華代に話しかけに行くことにした。
話しかけようと思って近づく。すると、俺が声をかける前に華代はこっちを向いた。ちょっとドキッとして冷や汗が出たけど、そこで引きはしない。
「おはよ」
「あぁとやまる来とったん? ごめん気がつかんかったわ。おはよ」
「いやいや全然。こちらこそ……というか?」
「こちらこそってなんよ、そっちは謝るようなことしてないやろ?」
「いやまぁそうなんだけどさ、なんとなく」
「そうなん……ねぇ話変わるんやけどさ、思い出したことあるけんちょっと来て」
そう言って華代は、俺を人気のない教室とは別棟の三階に上がる踊り場に連れて来た。
「いきなりごめんね、あんまり人がおるとこで話すことやないなーって思ったけん人少ない所に来たわ」
「う、うん。それで、思い出したことって……?」
何の話が飛び出でるか分からない。それがまた少し怖かった。
「花火大会の時にさ、最後ちょっと冷たいこと言ってしまった様な気がしてて……その時はほんとにごめん」
「いやいやいや! 俺こそ何も言えなくて、そのまま帰らせてしまったし、その事ここまで引きずってごめん!」
「いやいやそんな……やけど、ほんとにその邪神様とか、生贄とか。そんなん気にせんでいいけんね。私、大丈夫やけん」
大丈夫……?
「……この町に来てから、俺は多々不思議な出来事に巻き込まれてる。それは、俺が守護者だかららしい」
「……そっか。やっぱりとやまるにも迷惑かけちゃって」
「違うよ」
遮るようにして言う。その言葉を言わせたくなかったから、普段はしないけどあえて遮った。
「つまり、俺はもうこの問題に無関係な一般人じゃない。友達だから関係あるとか、そんな綺麗事じゃなくて、俺自身もこの問題に関係かあるんだよ。だから、この問題を華代が一人で抱え込もうとする必要はない……って言いたいんだよ」
少し考えて、さらに続ける。
「もう来年にはいないからとか、最後の花火だとか……そんな寂しいこと言わないで。一緒に乗り越えよう? この古臭くてめんどくさい呪いみたいな話。そしてまた一緒に居ようよ」
ハッと我に返ると、すこしキザっぽいこと言っちゃったかもしれない。けど、考えるより先に言葉が出た。大丈夫の裏側に隠れた大丈夫じゃないが、ハッキリと見えてしまったから。
華代は、少し目線を逸らしてから、一時して俺の方を見て
「ありがとう」
と言った。
「諦めない。私、諦めない。とやまるや儀式に出る皆、町の人達に迷惑はかけなくない。けど……まだ、まだ生きていたい」
踊り場の窓から入る朝の光が、華代の笑顔を照らしていた。いつもの優しい笑顔と言うよりは、強い意志のある笑顔だった。
「うん。まだあと一ヶ月。やれることをやってみよう」
そう言って、予鈴が鳴り響く廊下を二人で歩いて教室に帰った。




