葉月(7)
雷斗と戦った後、なんとか親にバレないように部屋に戻ることが出来た。
翌朝、いつもと変わらず二階から居間に向かうと
「ねぇちょっと! どうしたのその傷。そんなの昨日までなかったでしょ?」
思っていた以上に怪我してるところが目立つらしい。
「ええっと……昨日窓開けて星見てたら部屋に猫が入ってきてさ。引っかかれちゃったり、追い出す時にぶつけちゃったりして」
「え〜猫? ほんと気をつけてね。猫でそれだけ怪我するんだから、人間だったら大事になっちゃうかもしれない」
「いやこっわ! 二階から人間入り込んでくるとかそんなん泥棒じゃん……かもじゃなくてそれは大事だよ」
そう笑いながら、母と二人で朝食をとった。
ありもしない猫騒動。純粋に信じてもらえてありがたいけど、少し悪いことをした気分になる。
軽い罪悪感を抱えて、これからのことを考えながら数日を過ごした。
平日の昼間、親は仕事で居ないから一人でグダグダしていた。お気に入りの曲をスマホから流しながら、鼻歌を歌っていたんだけど……
「よぉ」
「うわっ! あっ、泥棒!」
「失礼な、誰が泥棒だ! 」
自室の窓から雷斗が来た。
「失礼だとかそんなん以前に、なんで玄関じゃないの!? んでさらになんで家の場所わかったの……教えたことないよね?」
「場所は雅之の情報網ですぐ分かる。玄関からじゃないのは……あー、目立つし緊張するから?」
「窓から入るほうが目立ちますよ……」
そう言うと、雷斗は後ろを振り返って周りを見渡した。
「ド田舎だから誰も居ねぇよ。大丈夫だ」
「まぁそういう問題じゃないんですけどね。それで……あの」
「あぁいや、先日はすまなかった。いきなりケンカふっかけて」
先に謝ってくるとは思ってなくて、正直ちょっとびっくりした。いや、謝って欲しいと思ってるわけじゃない。むしろ、気絶させちゃったの俺の方だし……
「菓子はちゃんと持ってきてる。遠慮せず受け取って欲しい」
すずめちゃん饅頭。すずめみたいな形のお饅頭。意外とかわいいの持ってきたなぁ……
「いやてか、そんなに気を使わなくていいよ……俺も思いっきり怪我させてるわけだしさ!」
「ダメだ。受け取ってくれ」
雷斗が目をそらす。
「……姉さんに怒られる」
あっ……お姉さん怖いんだ。なんか本当に意外のかたまりというか……
袋に入った饅頭の箱を引き下げるなんてことをさせる訳にもいかないし、とりあえず頂いた。
いきなり来たから驚いてしまったけど、本来、俺も雷斗に話したいことがあったんだった。この間はどうしようもなく戦っちゃったけど、今ならちゃんと話せるかもしれない。
「えっと……雷斗、話したいことがある」
「あ?」
怒らせたかと思ってビクッとしてしまった。
「あぁすまない。これ俺のクセだから……別に怒ってるわけじゃねぇんだよ。悪いな本当に」
「あぁいや、大丈夫! それでさ、雷斗は邪神様を倒そうとしてるんだった……よね」
「あぁそうだ。で、それがどうした」
「……どうして?」
「ん」
「どうして、雷斗は邪神様を?」
「はぁ……まぁこの際別にいいんだけどさ。俺は、5年前に妹を生贄にされた。その時も、妹を邪神様から守ろうとしたが、ダメだった。だから、今度こそ俺の幼なじみ、華代を守りたい。そして復讐も果たしたい。それが理由」
そういえば、妹さんがって華代から聞いたことがあったな。ひなみが話してた過去っていうのは、多分この事だろうな。
「提案があるんだけど」
「んだよ」
「協力……しない?」
「はぁ?」
協力したい理由は、俺が弱いからとか、邪神様を倒せる可能性を上げるためとか、そんなのじゃない。とりあえず、雷斗が一人で突っ込むのを避けさせたかった。
ひなみが俺にしてほしかったことも、きっとこういう事だったんだと思う。
ただ、これを率直に言うと多分聞いてくれないだろうから。
「俺は、守護者だからじゃなくて、一人の友人として華代を守りたい。雷斗だってそうじゃない? 復讐もあるけど、華代を守りたい目的は同じ……でしょ?」
「まぁそうだな。だが……あぁ、これじゃ変わらないのか」
雷斗は少し間を空けて
「来月の始め、うちに来い。作戦会議をしよう。うちの場所はひなみに教えてもらえば問題ない」
なんとか、協力する流れには持っていけたみたい……よかった。断られたらどうしようかと。
「ただお前、勘違いすんなよ。協力はするが仲良くする気はねぇからな」
「おぉ……あ、はい」
雷斗は軽めのため息をついて
「じゃあ、俺はこれで」
と言って後ろを向いた。
そのまま窓から降りるのかと思ってたら、再び雷斗が話し出した。
「……お前、華代と花火大会行ったんだよな?」
「うん。行ったよ」
「……楽しかったか?」
華代とは、最後に良くない空気になってしまった。それを気にしていることは事実なんだけど、それ以上に
「楽しかった」
そういうと、雷斗は後ろを向いたままフッと笑って
「そうかよ。……華代のこと、よろしくな」
そう言って窓から飛び降りて行った。
戦って数日だし、足に怪我を負わせてるからちょっと心配で、すぐに窓の下を覗いたけど、そこに雷斗の姿はなかった。
……本当に忍者なんじゃないかな彼。
昼過ぎのぬるい風が窓に垂らした風鈴を揺らす。
チリンチリンとなるその音に涼しさを感じながら、腕に着けたリストバンドを見た。
神無月まであと一ヶ月。




