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神無月の守護者  作者: なまこ
文月
23/53

文月(7)

……ひなみが、人間じゃない?

柚希先輩が言ったことは、とても信じ難いことだった。


「おかしいと思ってたんだよ。たまに華代ちゃんがうちの部室に遊びに来る時、君らも来てただろう? それは別によかったんだけど、ひなみちゃんがいる時だけやけに周囲の気温が下がるんだよね。普通の人間だとそんなことはないからね」


そう言われてみれば、前美術室に三人で遊びに行った時、俺らが来た瞬間に柚希先輩は袖を下げて寒いって言ってたな……。あと、赤沼さんもひなみのことを人間かどうか疑ってた。気が合わないからってそこまで言う必要ないよねとは思ってたけど……。


「悪いけど、この間の美術部で起こった一件を機に、邪神様の手下っぽい人に用心してるんです。ひなみ先輩、あなた、邪神様の手下じゃないんですか?」


「違う!! それは違う………!!」

ひなみが大きく反発した。


「……それは、手下だって言ったらダメだから()く嘘なんでしょ?」

柚希先輩は水墨画の具現化をしている。今にも飛びかかりそうなネズミたちが沢山いることが分かる。


「……本当に、違うのに!!」

次の瞬間、周囲の空気が一気に冷たくなった。心地よい涼しさなんてものじゃない。これは、真冬の寒さに近いものだった。


その寒さを感じるや否や、すぐにネズミがこちらに飛びかかって来た。正確には俺じゃなくて、ひなみの方に飛んでいく。


ひなみを守りたい。

でも、これで柚希先輩達が言うように、ひなみが邪神様の手下だったら大事(おおごと)になる。

どうすればいいのか考えている間に、ネズミ達は氷の塊になっていた。


「なるほど。やっぱりひなみ先輩は雪か氷の妖怪か何かみたいですね」

そう言われたひなみは目をそらすと、大きく手を振りかざした。

途端に強く叩きつけるように雪が降り始める。冷たすぎて痛みを覚える。


「……あれ、ひなみ?」

ひなみの姿がなかった。雪で視界が悪いからとか、そんな理由で見えないわけじゃない。


でもただ一人、旭飛は前に走り出す。

「化けの皮剥がしましたね!! 私には見えてます!!」

旭飛がバットで宙を叩く。俺からみると、空振りしているようにしか見えないけど……。


「兎夜先輩は、銃を出してください。それで多分ひなみ先輩のことが見えるようになります」


姿を見るためだけに俺は急いでリストバンドを銃に変える。すると、旭飛が空振りをした近くに、水色の着物を着た女の子がよろめいているのが見えた。

髪もいつものひなみより長くて、ひとつに結ってある。


「ひなみ……なの……?」

ひなみが本当に人間ではなかったことに対する衝撃のあまり、口が上手く動かない。


「とーや……」

ひなみは多分、俺の手に持ってる銃を見たんだと思う。それを見るなり、悲しそうな目をして走り出した。


「違う、まって。ひなみは……」

「旭飛ちゃん、ひなみちゃんどこにいるの?」

俺の声はかき消される。

「左寄りの正面、電信柱の近くです!」

そこに向かって今度は虎が飛ぶ。駆け出そうにも足が重たい。思った以上に足が(かじか)んでいた。


「くそ、動け……。ひなみは、邪神様の手下なんかじゃない!!」

ひなみが邪神様の手下なわけがない。柚希先輩や旭飛を嘘つきだって言いたい訳でもない。

でも、ひなみが敵なわけが無い。

守りたいけど、間に合わない。


最終手段、手に持つ銃の照準を虎に合わせた。

手が震えるけど、ひなみには当たらないように位置を考えて、撃った。

濃い桃色の弾が飛ぶのがみえる。


なんとかなったかなって思ったんだけど、

その弾が当たった……わけじゃなくて、虎は真っ二つに裂けて消えた。


「……貴様、()()()ひなみに何してくれる」


「え……?」

そこには、さっきまでいなかった緑髪の少年が立っていた。手には青く光る刀が握られている。五月に俺を助けてくれたあの少年だった。


「……雷斗」

雷斗? じゃあひなみと華代が前に話していたときの少年っていうのがまさか……。


「あと、その虎は柚希さんのか」

「あれ、雷斗じゃん。というか、うちのって…ひなみちゃんは雷斗の所の妖怪なの?」

……? 雷斗と柚希先輩は知り合い?ますます雷斗が何者なのかわからない。


「あぁ、そうだよ。俺の友人だ」

雷斗はひなみを見て

「すまない。ここまでひなみに危険が及ぶとは考えてなかった。帰ろう。」

と言い、ひなみを抱えて去っていった。


去り際に、雷斗の青い左目が俺を睨んでいた事は分かった。勘違いされているんだろうけど、ひなみにとって危険な選択をしてしまったことも間違いじゃない。


「……ごめんね。妖怪だから、敵なんだろうと思って攻撃してしまった。」

「私もです。本当に関係なかったなんて……」

二人とも俺に謝ってくるけど…

「いや、いいんです。だって、この間の一件の後ですから……。俺も無力でした」


苦い空気のまま解散してしまった。夏休み前最後の登校だったから、その後話すこともしてない。

ただ、ひなみのことが心配だった。


蝉の鳴き声がうるさい中、空は嫌になりそうなくらい晴天で、対照的に俺の心は曇っていて。

微妙な気持ちのまま、夏が始まってしまった。


神無月まで、あと二ヵ月。

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