文月(5)
あの美術部の事件から一週間が過ぎた。
最初のうちはこの事件の話題が周りを飛び交ってたけど、それもすっかり薄れてしまった。
あの事件の中心にいた俺ですら、あれは夢だったんじゃないかと思うこともある。
けど、それが現実だということを、カサブタが証明していた。
「ねぇさぁ歌田? あんたさぁ、美術部事件あったすぐの頃にさ、結構怪我してたぢゃん? あんたもあの事件の中にいたの?」
班活動中、また赤沼さんと二人きりになっていた。
「いや〜? ちょうどその時期くらいに自転車乗っててコケちゃったんだよね」
普通の生徒に俺が事件に巻き込まれていた、いや、中心にいた事は知られない方がいい。なんとなくそう思う。
「ふーん。にしては不自然な傷とかあったね。あんた、嘘ついてない?」
「ついてないよ、大丈夫。てか、俺帰宅部だからさ、土曜に学校いるわけないじゃない?」
「あーまぁ、それもそうか。いや、悪いね」
赤沼さんは、邪神様関連のことに関して少し鋭い所がある。霊感……みたいなやつだっけ。すごいけど、勘づかれたくはないなぁ。
その授業も終わり、次の時間も一瞬で終わっていった。他のこと考えてるとすぐ終わるもんだな。
……いや、授業に集中しないといけないのはわかってるんですけどね。
そして昼休みになった。ひなみはまた休んでるから、華代と二人で昼を過ごすことになった。
「ひなみちゃん、ほんと休みがちやね。大丈夫かいな。」
「うーん……また前みたいに寝坊しすぎた! ……とかだと、良くはないけど安心するよね」
少し会話に時間が空き、華代が口を開いた。
「とやまるさ、お祭りとか好き?」
「ん? うん。一応好きかな。人が多すぎるのは嫌いだけど、お祭り自体は好き」
「あのさ、八月の初めにこの町で花火大会あるっちゃん。よかったら一緒行かん? ド田舎の小さい花火大会やし、人も少ないんよ」
この町に来てから、初めて休日に友達と遊ぶ予定が出来た。それが嬉しくて俺は
「うん、行こう!」
すぐに返事をした。
「よかった。この前ひなみちゃんも誘ったんやけど、その日は用事があるってやけん来れんのって」
「そうなんだ……。じゃあ、来年は三人で行けたらいいね!」
「……そうやね」
華代は微笑んでいた。
その日の夜、またいわしっちに電話を繋いでみた。花火大会って聞いて、いわしっちも誰かと行くのかなって気になった。
でも、いわしっちは電話に出なかった。
「あれ? 寝てるのかな」
まだ九時前だけどなと思いながら、俺は電話を切る。
花火大会か……中学生の頃に行ったっきりだなぁ。
昼間までずっと美術部事件のことばかり考えていたのに、今はずっと花火大会の事を考えてる。自分が思ってる以上に、自分はこの花火大会を楽しみにしてるんだと思う。
そんなことを考えながら、一人窓の外を眺めて鼻歌を歌っていた。
午前三時を過ぎた頃。空はどんよりと曇っていて、今にも泣き出しそうだった。そんな中、雅之は一人、屋根の上で町を見下ろしていた。
「……この町も少し変わったねぇ。別に、僕はずっとこの町にいたわけでもないけど」
古い本を手に持ち、そう呟く。すると、ふわっと風がふき、隣にサナが現れた。
「久しぶりだね。こんな時間に何してるの」
「うーん、それはまぁお互い様じゃろ?」
「まぁ……そうだね」
サナは少し傾いた髪飾りを整えた。
「君は……まだアレの所にいるんだろ?」
「まぁそうだね、私はずっといるよ」
「そうか。アレはまだ何かしようとしてるわけかい?」
「何って、いつも通りだよ。生贄をもらって、五年間大人しくしておくだけ。ただそれだけだよ」
「ただそれだけ……ねぇ」
「言ってしまえば、貴方だって私たちとほぼ同罪みたいな所あるんじゃない?」
「呵呵……それはもう時効じゃろ。僕は過ちを正すだけだよ」
そういうと、雅之は屋根から飛び降りた。しかし、そこに彼の姿はない。
「過ちを正す……か。正しさってなんなんだろうね」
サナはそう呟き、何処かへ消えてしまった。




