文月(2)
突然鳴った火災警報、ちょっとびっくりした。
「兎夜先輩! 火事です! 逃げましょう!!」
「……うーん。これさ、誤作動じゃないかな。前の高校にいたんだよね、ふざけて鳴らす人とか。てか、そもそも壊れてていきなり鳴り出すやつもあったし」
「そんなことあるんですか?」
「ここ……そこそこチャラついてる人いるし、ふざけて押すひとがいてもおかしくはなさそうだよね。しかも、どこからも煙上がってないし」
火事だったら、煙のひとつは上がるはず。文芸部の部室は最上階にあるんだから、煙が見えないはずがない。
「あっ、ほんとだ! 煙見えないですもんね! 焦って損しました……」
ほっと安心してるのが目にわかる。でも、警報に気をつける心は大事だよね。冷静、冷静。
……誰かが走ってる音がする。火事だと思って逃げてるのかな。そう思った次の瞬間、ものすごい勢いで部室のドアが開いた。
「兎夜先輩!! 助けてください!!」
「えっ!? 何!? 火事だったら多分誤作動……」
旭飛が泣いてる……。
「違うんです!! 柚希先輩が……!」
「えっ柚希先輩!?」
「詳しくは行きながら話します。美術室に来てください!!」
そう言って走り出す旭飛を俺は追って走った。
「それで、柚希先輩がどうしたの!?」
「怪我したんです。なんか変なやつに襲われて……」
「怪我!? ……とりあえず旭飛、先生呼んできてくれるかな。俺先に美術室行ってくるから、大人の人呼んで……」
「ダメなんです!!」
旭飛が急に立ち止まる。……ダメってどういうことだろ。
「……ダメなんです。あれは普通の人なんかじゃどうしようもないんです。だって……!!」
俺たちのすぐ先にあった、美術室で爆発音がした。
「柚希先輩!!」
爆発音、普通の人じゃダメって……これはもしかして。
「……旭飛、普通の人じゃダメなんでしょ。じゃあ、旭飛は安全な所にいて」
きっとそういう事だ……そうとしか考えられない。邪神様関連の事だ……!!
「俺が、何とかしてくる」
リストバンドに念を込める。するとそれは黒川と戦った時みたいに銃に変わる。
それを見た旭飛は少しびっくりしたような表情を浮かべたけど、すぐ真剣な表情に戻って
「ごめんなさい…ありがとうございます」
と言った。
……とりあえず、美術室に近づく。柚希先輩を助けることを優先したいけど、俺がただ突っ込んでもやられるだけ。どうしたらいいんだろ……
「……ここに守護者はいない。はやく去って」
柚希先輩の声が聞こえる。少し苦しそうな声だった。
「そっか、いないんだ。でも君ももう、邪神様にとっては邪魔な存在になるんだよね。つまり、ボク的に消えてもらうのが一番いい」
守護者……多分俺だ。あいつ、俺を探しに来てたんだ。そのせいで柚希先輩が……。
「……もう迷ってられない!」
地面を蹴って駆け出した。申し訳なさと助けたい気持ちと少しの恐怖心が混ざってもう訳が分からない。
吹き飛んで無くなってしまった美術室のドアから
「守護者は……俺だ! もう柚希先輩に手を出すな!」
「兎夜君なんで来た!!」
そう言う柚希先輩は、傷だらけでボロボロになっていた。
「なんだ、いるじゃん。守護者」
反対側に立っている少年はそう言うと、スケッチブックをこっちに向ける。
「兎夜君避けて!」
柚希先輩が叫ぶのと同時に、何かが飛んできた。しゃがんで何とかかわす。
「兎夜君、彼は絵谷冬樹。私と同じような力がある。危ないから下がってて」
ボロボロの体でまだ何かしようとしてる。そりゃ、俺の方が力にはならないかもしれないけど……!!
「柚希先輩こそ下がってください。こいつの目的は俺です!」
絵谷に銃を向ける……けど少し手が震えてしまう。情けない。
「へぇ、綺麗な感情。じゃあもう二人まとめて消してしまえばいいってことだね」
そう言うと絵谷は大きな絵を持ってきた。……すごく暗い絵。ゾッとする。
するとそれを俺たちのいない方向に向けて
「まとめて消してあげるよ」
そう言ってその大きな絵を具現化させた。大きな魚みたいな、宙に浮く化け物。長くてウナギみたいな……。でも、よく見るとその体を作ってるのは歯車とか金属片。あの魚は鉄で出来てるみたい。
その魚は目を赤く光らせると、俺に向かって勢いよく飛んできた。それを避けながら銃を撃つ。反動で腕が後ろに跳ねる。
弾は魚に少し当たったみたいで、魚の部品の一部が剥がれた。
でも魚は直ぐにその傷を修復して、元に戻ってしまった。
どうすればあの魚を、絵谷冬樹を倒せるんだろう。
どうすれば、柚希先輩がこれ以上傷つかずに済むんだろう。
火災警報器がなった場合は、誤作動だと思わずに、適切な行動を取ってください。
本当に火事だった時に大変なことになります。
あくまで物語上の演出です。




