卯月(1)
めっちゃくちゃ緊張する。
俺、歌田兎夜はこの春、彼岸町という田舎の町に引っ越してきた高校二年生な訳だけど、今なかなか挙動不審をかましている気がする……。
いや、人見知りにとって最初ってドキドキするもんですよ!?
自分で言い訳をしながら、桜が散っている四月の通学路を少し早足で歩いていった。
教室に着くと、ほかの人たちは普通に話したりスマホしたりしてすごしていた。この辺の光景は前の高校と変わらない。誰もこちらに変な視線を送ってこないことに俺は安心した。
新学期始まりたてだし、席は出席番号順のはず。そう思って番号順の席に着こうとした……けど、誰かいる。
「あ、あの……ここ多分俺の席なんですけど……」
勇気を出して声を出してみた。
「んぇ? ここ俺の席だよ。お前あっち。」
指された席は窓側の一番後ろの席。内心めちゃめちゃガッツポーズ。隅っこの席とか安心でしかないじゃん最高。
とりあえず席に着いた。
時間が経ってホームルームがはじまる。案の定自己紹介をさせられた。
「白城高校から来ました、歌田兎夜です! えっと……好きなことは歌うことです、よろしくお願いします」
拍手がなる、一安心。あぁ、でももうちょっと明るいイメージで言えてたらなとか一人で反省会。どう思っても変わらないけどこういうこと考えちゃうじゃない?
あとは始業式に集会にと回されて、やっと最後の三限目。
教科書とか買って終わりらしい。
何となく周りの様子を見ながら教科書を買う。あとは配られた表に印つけたり名前書いたりの作業だけ。
転校早々早く帰りたい。
周りで騒ぐクラスメイトを横目に、騒がしい学校だなと思いながらカバンをあさる。ん? ペンケース忘れてきた!?
「うっわ、最悪じゃん」
小さい声で呟いてしまった。
「……ペンケース忘れたん? 借そうか?」
前の席の清楚な女の子が話しかけてきた。
「あっ、うん。ありがとう」
俺、今ちょっとキョドったかもしれない。遅れた作業を急ぎめで進める。おかげでなんとか作業を終えることができた。
「えっと、さっきはありがとう。たすかったよ。」
下校時間になって借りたペンを返す。
「あぁいやいいとよ、よかったよかった。歌田君やっけ、白城からきたっちゃろ?なかなか都会やん」
「いや〜、そうでもないよ? 俺が住んでた所は全然田舎だったし」
「そうなん? 白城とかある近くやったらいろいろ買い物できるけん都会のイメージあったわ。ここがド田舎すぎるけん」
「でもここいい町だよね、空気美味しいし自然は豊かだし」
あれ、意外と喋れてる?
「そう言ってもらえて嬉しいわ。私、塩月華代。よろしくね。そろそろ行かなやけん、私行くわ。じゃあね」
「う、うん。じゃあね」
優しそうな人がいてよかった。とりあえず1人で困るってことは無くなりそうだ。そう思いながら俺も帰路に着いた。
これから先、この町で過ごす日々があんなに非日常的になるなんて、この頃の俺はまだ考えてもなかった。