第7話:パパの想い
結局12月24日になってしまった……。言わずと知れたクリスマス・イブだ。
「パパ、ほんとにママこないの?」
「……ああ。ごめんな、俺が不甲斐ないばっかりに」
晴香の瞳が寂しげに俺を見上げている。
どうにもできない自分がとてつもなく情けない。
「はるか、サンタさんにママがきてくれますようにって、おねがいしてくるっ!」
「晴香……」
健気、だよな。
サンタなんか、そんなお願い叶えちゃくれないのに……。
「あうっ」
「空……?」
今まで寝てたのに、起きたのか?
空の方に行くと、無垢な笑顔がそこにあった。
「なあ、空?やっぱお前も、ママがいないと寂しいか?」
「あーうー、あーいっ」
「そっか……。そうだよな。寂しくないわけ、ないよな」
空の頭を優しく撫でる。赤ちゃん特有の柔らかい髪が気持ちいい。
「アレも……無駄になっちまったな」
俺の呟きは、きっと誰にも聞こえなかっただろう。
よっしゃ!シリアスムード終了!!
なんといっても今日はクリスマス・イブ。
子どもたちに夢を与える素敵な日だ。
2児のパパとして、存分に夢を与えねばなるまい。
さすが俺と言うべきか、2人のプレゼントも食材も昨日しっかり買っておいた。
あと……まあ、これはとりあえず置いといて。
あとは料理つくってセッティングとかするだけ!
……って、あっ!!
やべぇ、ケーキ取りに行くの忘れてた。
ふふっ、ちゃあんと予約はしておいたんだな、これが。
ちょうど空も寝てくれたし、書き置きしてれば大丈夫だよな。
晴香いい子だし。
というわけで、俺はケーキ屋へと急いだ。
何を隠そう、このケーキ屋はかなり人気た。
だから予約は早めにしとかなきゃならなくて、去年は食べられなかった。
まあ、去年の失敗があったから、今年は予約がとれたんだけどな。
そして、やっとケーキ屋に着き、俺は中に入った。
……マジかよ……。
こんなふざけた偶然あっていいのかよ。
何だって……何だって、ここに早乙女がいるんだよ。
俺は出来る限り早乙女の方を見ないように、店員さんに話しかける。
「予約していた西条です。受け取りにきました」
ああ、だめだ……。
完璧バレてる。なんとなく早乙女がこっち見てるのわかるし。
「どうぞ。こちら〇〇〇〇円になります」
「あっ、はい」
急に店員さんに話しかけられ、慌てつつもお金を差し出す。
もちろんその間も早乙女の方は見なかった。
「こちら、おつりとレシートになります。ありがとうございました」
「ありがとうございます」
店員さんにお礼を言ってから、早くこの場を去るために出口に急ぐ。
このまま話さずに帰ろうと思っていた。
思ってたのに……
「西条!」
早乙女に呼び止められてしまった。
早乙女が何を言いたいのかわからないけど、あまり聞きたくない。
こういう時は先手必勝!
「よ、よおっ早乙女、奇遇だな。楽しいクリスマスを過ごせよ?じゃあ」
さっさと口走り、そのまま走った。
早乙女の言いたいことが、俺にとって良いことだろうが、悪いことだろうが関係ねぇ。
せっかく無理してテンション上げてんだ。
もし悪いことだったら立ち直れねぇだろ?
ダッシュで家に帰り着くと、自室にこもっていた晴香がリビングに戻ってきていた。
「ねえ、パパ?」
「なんだ?」
「サンタさん、かなえてくれるかな?はるか、おやさいもおさかなもちゃんと食べるよ。いい子にしてるよ。ねぇ、かなえてくれるかな?」
本当にさ、どこまで純粋なんだよ……。
俺が見習いたいくらいじゃねぇか。
「きっと叶えてくれる。だって晴香はいい子だもんな。サンタさんはちゃんと見てるぞ」
俺、今ウソついてんだよなぁ。
やっぱだめだよな。こういうのは人として。
「なぁ晴香。もし叶わなかったとしたら、それはパパのせいだから、頑張ってくれたサンタさんには『ありがとう』って気持ち、忘れないようにしような」
晴香は少し不思議そうにしながらも、しっかりと頷いた。
さあ、次は料理を作らなきゃな。
俺は手先は器用な方だし、おいしいと言ってくれる人もいるから、料理は嫌いじゃない。
むしろ好きだ。
でも、今回はちょっと材料を多く買いすぎてしまったらしい。
なんか無駄に多い。
ま、明日も食えばいいだけの話だな。
ああ、テーブルの準備もしないとな。
とは言っても、とくに何もないけど……。
この前と一緒で、テーブルクロスでも引いとくか?
芸がないと言ってしまえばそれだけだけど、言わないでくれ。
それからフォークやらナイフやらを置かないとな。
うわっ、滅多に使わねぇから、何気に汚い。
これは洗った方がよさそうだ。
俺はナイフとフォークを3本ずつ、さっと水洗いした。
洗剤は使わない。
環境は大切にしなきゃいけないからな。
そして、やっとテーブルに並べる。
……あれ?これおかしくねぇか?
今日のパーティーは俺、晴香、空の3人。用意したナイフとフォークは3本ずつ。
やっぱ合ってるな……って、違う!!
空は赤ちゃんなんだからナイフとフォーク使うわけねぇじゃん?!
なんで俺、3本も用意しちまってんの?
そこまで考えてハッとする。今まで考えないようにしていたことが、次々と浮かび上がってくる。
なぜか料理の材料は多かった。
なぜか人数分以上の食器を用意してしまった。
こんなことしちまうなんて、本当に馬鹿げてる。
でも、ここまでくると認めざる負えないみたいだな……。
なんで俺がこんな馬鹿げた行動をとっていたかって?
答えなんて決まってんだろうがっ!!
俺が、早乙女に来てほしいんだよっ!
俺はリビングで空と遊んでいる晴香のところに向かった。
「晴香」
「どうしたの?パパ」
呼びかけると、晴香が不思議そうな顔をしながら振り向いた。
「俺、行かなきゃいけないとこができた。晩メシまでには帰るから、空をよろしくな」
言いながらエプロンをはずし、玄関に向かう。
今、俺の心を占めているのは
『早乙女に会いたい』
それだけだ。
次でやっと、クリスマス編終了のつもりです。
読んでくださった方、ありがとうございました。




