第6話:パパの勝負
12月23日。クリスマス・イブ目前の今日、学校は休みだった。
そんな休みの日、俺は午前中に買い物に行った。明日は終業式やらあって忙しいだろうから、今のうちに晴香たちのプレゼントを買っておこうってことだ。
それはいい。
それはまあ、そんなに大変なことじゃない。
これから起こる、いや、これから起こすイベントが重要なんだ。
午後になって、俺は歩き慣れた道を進んだ。
もちろん晴香たちには留守番をしてもらっている。
さすがに連れていくのはマズイ。
なんと言っても、俺が向かっている場所は早乙女の家なんだからな。
ドキドキしながらも歩き続けていると見慣れた家が見えてきた。
はやる気持ちをなんとか抑え、冷静にインターフォンを押す。
「はい、どちら様ですか?」
ここのインターフォンを押すのは2度目だ。
早乙女の誕生日が1度目で、今はその時と似たような構図だな。
「あら西条くん! あっ、今るりでかけてるのよ。ごめんね」
んな……っ!
予想だにしなかった事態だ。
そうだ、こういう時こそ冷静になるんだ。クールになるんだぞ、俺。
「えーと、いつごろ帰るんですか?」
「さあ……?でかけてくるとしか言ってなかったから」
マ、マジかよ。いつ帰ってくるかもわからないって……。
「大事な用ならあがって待つ?お茶くらい出すわよ」
うむ。なんとも魅力的なお誘いだ。
でも、嫌いな奴が勝手に家にあがって茶なんか飲んでたらイヤだよな……。
ここは断るしかないか。
「お気持ちは嬉しいんですが、外で待ちます」
「でも寒いわよ。風邪でも引いちゃったら……」
確かに寒い。そりゃ12月だし冬だし、当たり前だ。
でも、こんな寒さに負けるほど柔な体じゃねぇんだよ、俺は。
ハッハッハッ、冬めざまあみろ!!
で、バカはこれぐらいにしとこうかな。
「俺、寒さに強いんで大丈夫です。それに早乙女も俺と話したくないだろうから」
そう言うと、早乙女のお母さんは何かを納得したような顔をした。
「どうも最近、るりの様子が変だと思ってたのよねぇ。ねえ西条くん?」
「は、はい」
「るりとちゃんと向き合ってあげてね?母親としてのお願い」
母親として……か。
早乙女は愛されてるな。
俺は力強くうなずいてみせた。
にしてもさみぃ。早乙女の奴、遅すぎじゃねぇか?
さすがの俺も待ちくたびれたぞ。
でも、ここで待ねば男が廃るってもんだ。
俺は男なわけだから、それを廃らせるわけにはいかないもんな。
だけど、早乙女が来たとして何て言えばいいんだろう……。
自分の気持ちに素直になるっても、やっぱ難しいよな。
「何やってんの?」
不意に声をかけられた。俺はその声の方を見上げた。
「さ、早乙女!?」
なんだって何言おうか考えてるときにやってくんだよ、お前は。
「あっ、あのさ、ちょっと話いいか?」
「…………………いや」
なんだよその間!
期待させやがって!
いや、だめだ。こんなときはさっき以上にクールになるんだ。
怒ったら意味がない。
「早乙女の気持ちもわかるけど、せめて話ぐらいは聞いてくれないか?」
「わかってないじゃん!! 西条なんて、どうせあたしの気持ちわかってないじゃないっ!」
見事に図星、だ。なんて言っていいか、わからん。
「いや、その、確かにわかんねぇよ。正直、なんで早乙女が怒ってんのかもわかんねぇ。でも、これって自分で考えなきゃいけないことだろ?」
「当たり前でしょっ!」
「……考えたよ。俺なりにちゃんと考えた。それでもわかんなかったんだよ……」
だって、わからないものはわからないんだから仕方ない。
俺は乙女なんてのとはほど遠い生活を送ってたんだから。
……って、これは言い訳か。
「俺さ、理由はわかんないけど俺が悪いのはわかってんだ。早乙女は、相手が悪くもないのに怒るような奴じゃないって知ってるから」
「…………」
「だから、ごめん。できることなら許してほしい」
早乙女はやっぱり無言だ。
それなら、さらに喋ることにした。
「それと、21日に言ったことだけど、俺は早乙女にちゃんと高校生らしいこともしてほしいんだよ。俺、ママとしての早乙女しか知らねえから何とも言えないけど……高校生の自分も楽しいんだろ?」
早乙女が少し反応したような気がした。
「いつもいつも俺たちのことに縛り付けておきたくねぇし、そういう楽しいことも味わってほしいと思ったんだよ。結局、早乙女のこと怒らせちまったみたいだけど……」
「……っ、そんなこと言って、どうせあたしなんかとクリスマス過ごしたくないんでしょ?!」
この、言葉には、カチンときた。
「誰もそんなこと言ってねぇだろ!?少なくとも俺は……!……俺は早乙女と過ごしたいと思ってるよ」
もう、帰る……か。結果はどうあれ当初の目的は果たせたわけだし。
俺は帰るために早乙女の横を通り抜ける。
「ぁ……」
早乙女が小さく声を発した。
俺は一つ言い忘れてたこと思い出し、立ち止まる。
「あとさ、俺のことは嫌いでもなんでもいいけど、たまにはうちに遊びに来てくれねぇかな?晴香と空が寂しそうなんだよ。そんじゃ、じゃあな早乙女」
俺はそのまま一度も振り返らずに家へと向かった。




