第5話:パパの苦悩
この話の時期設定ですが、第1話を9月の下旬と思って下さい。
俺が早乙女を好きだと自覚しようがしなかろうが、月日は過ぎていく。
んで、気づけば街はクリスマス一色に染まりつつある。
早乙女は未だにママとしてがんばってくれている。が、しかしよく考えてみてだ、早乙女だって女子高生なんだから、クリスマスを楽しみたいだろう。
……考えたくないが、好きな奴、とかと。なんと言っても恋人たちの夜なんて言われるほどなのだ、クリスマスってやつは。
もしかしたら、早乙女にも一緒に過ごしたい奴がいるかもしれない。
そうじゃなくても、友達とパーティーしたり家族とパーティーしたりするだろう。
こんな日まで早乙女を、ママの枠に縛りたくない。
それに最近の早乙女は、疲れてるみたいで眠そうだし、息抜きも必要だろう。
本音を言ってしまえば、早乙女が『他の男と2人っきりでクリスマス』なんて姿を見たら、気が狂っちまいそうなくらいだし、晴香と空も一緒に4人で過ごしたいと思う。
まあ、なんだ?
俺は早乙女が好きなんだしこう思うのも仕方ない、だろ?
だけど俺は言わないといけない。
クリスマスはうちに来なくていいって。
早めに言わないと後になると、きっと言えなくなるし。
早乙女も予定組めないかもしれないから。
だから俺は今日12月21日。早乙女に言ってみせる!
……と意気込んでいたのは今朝のこと。
んで、今は早乙女を送っている。今こそが絶好の機会だ。
朝からこのタイミングで言うと決めていた。
学校では絶対出来ない、だからといって家では晴香と空がいるからな。
「なあ早乙女、もうすぐクリスマスだな」
「うんっ、そうだね!」
なんか声弾んでんなあ。
「やけに機嫌がいいな」
「だって、あたしクリスマスってだいすき!!イルミネーションはキラキラしてて綺麗だし、幸せな気持ちになれるでしょ?」
俺に聞かれても……。頷くしかないんだけど。
でも、切り出すなら今がチャンスだろう。
「それでさ、クリスマスうちに来なくてもいいから」
「……」
いつもどおりサラッと言ったつもりだったんだけど、返ってきたのは沈黙だけだった。
「早乙女だって予定いっぱいあんだろ?そんな日までうちに付き合ってくれなくていいから、早乙女は早乙女で楽しくやってくれ」
今のフォローなんだけど……効果なしかよ。なんか沈黙が重くなった気さえするのですが?
「ほ、ほらっ。早乙女にだってクリスマスを一緒に過ごしたい奴とかいんだろ?今からでもアプローチかけてみろって」
いくら沈黙にたえきれないからって、思ってることと真逆のことを言ってしまうとは……。
なんかメッチャ情けねぇ。
「……かっ」
「ん?なんつった?」
「バカって言ったのよ!この大バカっ!!」
いきなりの大声に唖然とした。開いた口が塞がらないってこういう感じなのか?
「そうよ!あんたの言うとおり予定なんて山のようにあるもんっ!!それでも……それでもあたしは……。
……あんたなんて大っキライ!!」
…………。
………………。
……………………。
この言葉は、予想以上にこたえた。
つぅか何で俺キレられたんだ?怒るようなことしたか?嫌われるようなことしたか?
大体早乙女を気遣って言ったことなんだぞ?
どうしてこんな風になるんだよ……。
あ―、マジでわかんね。
平静装ってるけど、これは本当に泣きそうだ。
まさか好きな人に言われる『大嫌い』が、こんなに辛いものだなんて思わなかった。
いや、そもそもこんなこと味わいたくなかった。
12月22日になった。
正直こんな気持ちで早乙女に会いたくないけど、学校に行けばイヤでも会ってしまうんだから仕方ない。
ていうか、昨日の夜一生懸命考えても、早乙女が怒る理由に検討もつかない。
藁にもすがる気分で晴香にも聞いてみたが
『おとめごころはフクザツなんだよ!』なんて、どこでおぼえたんだ?!ってことを言われただけだし。
「どうしたよ、慶真。いつも以上に浮かない顔じゃん?」
「誠也か……。いつも以上にってなんだよ」
できてないだろうと思いつつも、誠也をにらんでみた。
「なんだなんだ。まったく覇気が感じられねえぞ?」
やっぱりか。 ん、待てよ。
「なあ誠也。お前に乙女心というものはわかるか?」
「まあ、慶真よりはわかってる自信あるけど」
それで十分だ!
こんな奴でも時には役に立つということか。
「そうか、なら相談したいことがある」
俺は、晴香たちのことや早乙女の名前は省き、ことの次第を大まかに説明した。
「なんじゃそら」
聞き終えた誠也の一言。
てめぇ、人が真剣に悩んでるっつうのに!!
「あのよ、本気でわかんねぇの?」
「わかってたら相談なんかしねぇ!」
おいこら、ため息つくな くそやろう!
「なんつうの?オレから言えんのは、怒ってる理由は置いといて。おめぇはおめぇのやりたいようにやれってことぐらい?」
それは直接的な解決につながってないだろうがっ!
「にらむなよ。あんなぁ、まずは自分の気持ちに素直になってみろって」
「むっ……。それは一理あるかもしれないな」
誠也は だろ?とこちらを見てきた。
そして叫ぶ。
「てぇか何だよ!?さっきまで黙って聞いてたけど、お前いつの間にそんな子できたんだ?!この裏切り野郎!!るりちゃんファンクラブの一員のくせにっ!」
「だから、俺はそんなのになったつもりはない!!」
確かに好きなのは早乙女だけど、なんつうかファンではない!断じて。
とりあえず、最後の方が少々アレだったけど、いいアドバイスがもらえた。
だから、今日の夕方早乙女が来たときに話そうと思っていた。
思っていたのに……
「ママ、こないね……」
ということだ。
俺が甘かった。
よく考えてみれば、いくら晴香たちがいるとはいえ、嫌いと言った相手の家にノコノコやってくるわけがない。
「パパ、ママと早くなかなおりしてね?はるか、ママと会えないのやだよ……」
「晴香……」
晴香が泣きそうな目で見上げてくる。
「それにね、けんかはダメだよ。どっちもね、イヤなきもちになって、泣いちゃうよ?」
そのとおりだな。
気持ちいいもんのわけねぇし、現に俺、泣きそうだし。
「心配するな。ちゃんと仲直りするから」
少しでも不安を消し去ってやろうと、晴香の頭を優しく撫でた。
仲直りすることを誓って……。




