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【神隠しの島】  作者: KATE
神隠しの島
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神隠しの島-04

 子供達は神木や山神たちと話ができなくなる事を悟り、それは嫌だと首を横に振る。大人達はその場で話し合い、何事かと様子を見に来た島神、山神、畑の神、それに池の神をも加えて結論を出した。



「この集落には神さまはいつ来てもいい。朝廷が仏を拝めって事ならそうするしかないが、あんな木彫りを拝んだってなんにもなりゃあしない。長の家に飾るだけ飾って、われらは今まで通り生きる」


「……神より恐ろしいのは人だ。朝廷にこの事が知られんようにせにゃあならねえぞ」


「大丈夫だよ。信じていない者の目にわは映らぬ。力を無くし過ぎて空の奴も海の奴も現れなくなったが、この島が求めている事を知ればそのうち来るさ」



 島神が「噂をすれば」と木々の隙間から覗く空を見上げる。雲が途切れ、そして次の瞬間には1人の透き通るような空色の髪を雲のようになびかせた青年が現れた。



「やあ、この島はずいぶんと賑やかだね。何か面白い事でもやっているのか」


「空! 随分と見せなかったじゃねえか!」


「他の土地の上はつまらない。最近は空など信じなくてもある事に変わりはないと言われているようでね。山も島も、木も、ここでは元気そうだ」



 空の神はニッコリと笑い、邪魔するよと言って神木の根元に腰掛けた。



「神様が見えないとは、そんな人間がいようものか」


「朝廷が神に取って代わろうとした。神ではなく人が治める国になった。そのせいだね。仏のせいじゃない、これは人の決めた世の理だ」


「人々は仏に祈りを捧げるが、仏は神に祈りを捧げない。届かない願いには応えることも出来ないのさ」



 世の中の事に疎い島民は、神々の話に愕然としていた。神々もまた、この世の移り変わりに立ち会いつつ、役目を失えば消えるしかない運命だと悲観していた。



「じゃあ、仏は願われて姿を現すのですか。昔の偉い人と聞くが、祖先でもねえ死んだ者が姿を現すのですか」


「仏は成仏したからね。成仏というのは全うして消えることだ。出来るまで何度でも生を繰り返す、自然には還らない」


「大陸の西では人が神を名乗っているそうだ。そうなればもう自然の神がどうする事も出来ない。自然はそこにあるだけ、味方ではなく敵でもない」



 動揺が広まる中、それでも島民たちは神と共に歩もうとする意思を表した。いつも通り供物台の前で祈りを捧げ、そして今日は珍しくこの島の土地神が勢揃いしている事にも感謝した。


 仏も人が神になる事も否定はしない。仏像は丁重に飾るし、何を拝めばいいのか分からないが手を合わせることも吝かではない。ただそれ以上に自然の恵みと自然への感謝を選んだだけだ。



「役人が来た時には隠れてくだされ。神さまたちはわれらがお守りする」



 神たちはとても嬉しそうに微笑み、空神は雲を止めておくから今のうちに洗い物をしておいでと女達に提案する。池の神はすんだ水を集めておくから、好きなだけ汲むといいと付け加えた。女達は有難う御座いますと礼を言い、早速集落へと軽い足取りで戻っていく。



「畑に種を蒔くなら今日が一番だ。蒔いたものがあれば芽を出させてやろう。神がこれだけ揃っていれば立派な芽が出る」


「イノテ、良かったね。畑がそういうのだから畑を見ておいで」


「わかった!」



 イノテが嬉しそうに女達の後を追って走り出す。するとそう遠くない森の出口で女達が悲鳴をあげたのが聞こえた。残った男と子供、そして神々は、何事かと森の出口へ駆けていく。



「何だ何だ、この島は。誰たもおらぬではないか」


「しかしそこらの家は先程まで人がおった様子だぞ」



 集落から森に向かう道の途中で、女達が数名の役人に遭遇していた。手には薙刀を持ち、木と動物の皮を張り合わせた鎧を身につけ森や周囲を睨んでいる。


 その格好からして朝廷の役人ものではなく、この島を治める対岸の豪族の家僕のようであるが、おかしいのは女達を威圧する訳でもなく、問いただす訳でもなく、ただ周囲をキョロキョロと見渡して首をかしげ、ぶつぶつ言っているという事だ。



「役人さまが何しに来たんだ? 租や庸の時期じゃねえ、調はこの前ようやく行ってた4人が帰ってきたところだ」


「イルカ、イノテ! こっちに来い」



 大人たちが子供を自身の横に立たせ、緊張した面持ちで役人の前に立つ。役人はそんな皆を無視するようにそのまま向かってきた。



「役人さま、な、何か御用が……」



 男が1人、間近まで迫られて動揺し、慌てて用件を尋ねる。しかし役人は声を無視し、そのまま男の目の前まで歩き、そしてそのまま通り過ぎた。



「……へっ!? へっ、い、今のは何だべ」


「や、役人さまが……汝なをすり抜けた!」



 不可解な出来事に、その場の皆が仰天し、慌てて森へと向かう役人へと振り返る。役人達は誰もいないのはおかしいと言いながら奥へと消えていく。



「もしかして、われらが見えていないんでねえか」


「そんな筈はねえ、こんなに居て気付かないなんてことは……」



 そう呟いた長が、ハッと神々へと視線をやる。先程、信じていない者には見えないという話を聞いたばかりだった。



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