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【神隠しの島】  作者: KATE
神隠しの島
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神隠しの島-02

「今日、とうとう朝廷直々の役人がこの島に来たよ。大陸のわれらとは違う神ではないものを置いて行った。仏と言うそうだ」


「知っておる。既に本土の山々は信仰の対象ではなくなり始めておる。人間の豪族たちは神を守ろうとしてくれておるが、朝廷は許しておらなんだ」



 この島ではまだ神社の風習がなく、木に縄を編んで括りつけ、根元に置いただけの粗末な供物台1つが祈祷の場だ。一方、国のおおよその場所には立派な社やしろが立ち始め、各地の豪族と地元の神達が共に歩もうとしていた。


 この島にもその波が来るかのように思われていた。だが、やって来たのは社ではなく1つの仏像だった。


 朝廷は八百万の神ではなく絶対神としての仏を、仏の下には天皇を、豪族と共に歩む地元神はその下に、そうやって神の力を抑えにかかった。


 朝廷で権力を集約しようと画策する事、すなわち仏を利用しようとする者は人間だ。人間が人間を崇める……人間が神ではなく仏を選んだ時から、もうすでに神界の崩壊は始まっていた。


 仏の世界は神々の世界とは全く異なった。仏とは人間であり、死人は山にも森にも還らず、また別の生命に還る。人としての教えを説き、成仏というものを目指す。自然と一体になるのではなく、仏以外の人の祖先が神となる事も無く、消える事もない。


 人間だけが、その自然の中から外れてしまった。


 当時の神と仏の関係は、後より神仏が同一視されるようになり、人が神にも仏にもなって地獄にも行き、天国にも行き、生まれ変わる事すら出来るようになった現代とは全く違うものだった。



「仏とは不思議なものよ。姿形を信じるか否かに関わらず、あのような傀儡で存在を表している。神を形にするなど、考えられん事だ」


「……いずれこの島にも仏教というものが来るのだろう。海神も空神も風神も静かになってしまった、それが答えさ。丁未の乱を起こされ、物部がわれらを守りきれなかった時、全ては決まってしまった」



 山神は他の山々の神と共に見てきたこの世の動乱を思い返し、神木と共にこれからの島民との暮らしに不安を覚えていた。






 * * * * * * * * *






「神木さまぁ、集落に仏っつう人形が置かれたんだ、あれは何だ?」


「あれは神とは違う存在だ。われら神の世界とは違う世界のものなんだよ」


「朝廷の役人さまは、仏さまは一番偉いって言うて置いていったんだども、神木さまより偉いのけ?」


「イノテがそう思うならそうなるかもしれないね、神を崇めてくれるのであれば嬉しいけれど。わは皆に教えとして説くようなものは何もない。仏は大陸の人間が悟ったものでね、われら自然とは全然違う、人間のためだけのものなんだ」



 まだ八つのイノテには難しい話だったのか、イノテは表情も変えずに昨日と同じ服を着て首を傾げる。



「わは神木さまも、島神さまも好きだ、山神さまも好きだ、畑の神さまも、池の神さまも、みんな一番だ。人はととさまとかかさまが一番えらい。ご先祖さまはもっとえらい。ブツゾーに手を合わせれって、わは仏なんぞ知らねえから、何も感謝することがねえ」


「そう言ってくれるうちはわも安泰だ。さあ、童は皆で若布採りなのだろう? 海神が見当たらぬから、空が晴れているうちに行っておいで」



 イノテの心はいつまでも変わらない。元気に走って集落へ戻り、そして凪の浜に出ると大人たちと海草を集め始める。


 僅かな島民の心も昨日と全く一緒のようだった。姿が見えずとも相変わらず神と共に歩んでいた。そもそも突然仏像を持って来られたところで、仏教とは何たるかを熟知している者などいないのだから、仏を崇めようにもその意味も方法も分からなかったのだ。


 神木は子供達と共に森を散策し、折れた木の枝をくれてやる。昼になると村の大人の誰かが水を器に入れて備えてくれ、供えられた玄米は神木が子供たちに配る。


 森の木々で大風から集落を守り、大雨を木の根で吸い上げて土地を守る。神木は会話ができる残り少なくなった神々と共に、この島と人々をずっと守っていくつもりだった。






 * * * * * * * * *






「朝廷のお達しだ、仏様の為に寺院つうもんをこしらえて、拝めってさ。ほら役人が寄越したあの人形の」


「なんだい? 何の神様なんだい。この島にはもう神様がおるのに」


「なんでも有難い悟りを啓いた人らしいが、神様より偉いて話だ」


「ははは! 嘘をついちゃ駄目さあ。人が神様より偉いなんて話、あるもんかい」



 日没後、島の唯一の集落では大人達が長の家に集まり、役人が持ってきた仏像の扱いと、仏様への信仰をどうするかの話し合いがもたれていた。


 この島を管轄する豪族は仏教に反対で、地元神を捨てないと断言したと聞くが、そもそも何故神を捨てる捨てないの話になるのか、この島の者達は分かっていない。


 朝廷に逆らうのは恐ろしい事だという認識があっても、どうして神への信仰まで口を出されるのか、離島にまでその真意は伝わらない。


 仏教と共に文字の普及も始まってはいたが、まだ殆どの地方では人から人への伝聞が頼りだ。その伝聞すら疎かなのだから、こんな島が理解しているはずもない。

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