学園へ(2 独りぼっち)
初めて小説を書いています。
プロローグで勇者や異世界の背景を小出しに説明をしています。
書いてる途中で辻褄が合わなくなることも多々あり、勇者や異世界の背景修正が多くなっています。
しばらくの間、ご容赦をお願いします。
幌馬車の一団は順調に進んでいく。
王都周辺は街道が整備され、魔獣もめったに出没しないそうだ。
魔獣は一般的な獣が変貌したもので魔素の高い場所に住んでいる獣ほど魔獣になりやすい。
静かに馬車に揺られていた子供たちが、退屈しのぎに隣の子らと話し始めた。
ミノルの横では利発そうな子供がニコニコして風景を楽しんでいる。
子供たちについて確認しておこう。
選抜された子供たちは8歳から10歳まで。
幼いのに親元を離れ学園にて修行を行う意図は、勇者との絆が深くなることを国や親が願ってのことだろう。
貴族は家名を高める明確な目的もある。一方で平民の親も従者となった子供の名誉の恩恵を家族全体で受けることが出来るので積極的な親が多い。
勇者は従者を同世代から必ず選ぶ必要はない。
年上でも年下でも構わない。
従者が勇者に命をも捧げる誓いを立て、勇者が受け入れれば、従者と認められる。
誰の許可も必要ないし、何ごとにも優先される。
王の直轄近衛兵であっても、勇者に従者と認められれば、勇者従者が王近衛兵より優先される。
この事はこの世界のどの国でも同じである。
それほど魔王、魔人、魔物はこの世界で脅威とされている。
なら、魔王討伐前に実力ある者を国が選び従者に推薦すれば良いのだが、そうはしていない。
理由は、それでは勇者の眷属に成れないし、仮に成れたとしても眷属加護を幼少期からに比べると多く受けとれないからだ。
従者は勇者の眷属に成ることができる。
それは従者と勇者が深い絆で結ばれたと神が認めたときに、従者に眷属の加護が現れる。
主な特徴は、
・聖霊系の剣や魔法が使えるようになること。
・戦闘時に身体能力や魔力制御に加護が現れること。
・戦闘時に勇者や他の眷属の考えがわかること。
・キューブ取り込み時にプラス補正の加護が適用されること。
・離れていてもおおざっぱだが何処に居るか感じとれること。
などだ。
王侯貴族にとっては、子弟が率先して魔王に立ちっていることをアピールできる勇者の従者になること自体が名誉なことだ。その上に子弟が勇者の眷属従者になれれば更に名誉なことだ。
『世界を国を国民を守る』と口先だけ言うのではなく、実際に命を捧げて守っていると神が認めた証となるからだ。
「我が子の命と引き換えに、平和を望むのか!」と非難する貴族は居ない。
この世界でそれほど魔王、魔人、魔物は脅威とされている。
誰かがやらねば、国も世界も滅ぶ。この世界では3歳の子供でも知っている事実とされているのだから。
王侯貴族は世界の平和と名誉のために子弟を戦いの地へ送り出す。
そして送り出すからには、魔王討伐の一番手となる勇者、最も名誉となる眷属従者として送り出したい。眷属従者となるために、幼き頃から勇者と同じ学園で修行し、同じ飯を食い、同じ時を過ごさせる。辛いことも楽しいことも、悲しいことも嬉しいことも、勇者と一緒に。
勇者と喜怒哀楽を共にし情や絆を育み、眷属従者となり、世界を救う一翼を担ってもらいたい。
そんな願いを込めてまだ幼い子弟を学園にて勇者と一緒に修行を行うように国を挙げて仕組んでいるのだ。
子供たちにとっては勇者と同世代に生まれ選ばれることは、過酷な運命を背負っているようにも見える。しかし一方では、語り草ともなる眷属従者は子供たちの中では英雄なのだ。勇者の真の友として、共に魔王に向かう英雄なのだ。これは親の思惑もあるだろうが、ここには子供たちの夢への道なのだ。英雄になる希望を叶えるために、親元を離れ辛い修行を行うために、子供たちはここに来ている。
目がキラキラしているのも頷ける。
ここで、馬車に乗り込む時まで時間を遡る。
そこではひと悶着起きていた。
馬車には一台につき、勇者一人が乗る。
そしてその馬車に9人の選抜組の子供たちが乗る。
一台の馬車には10人の子供が乗る予定だった。
同じ馬車に乗り、10日も一緒に旅をすると自ずと勇者を中心に従者の間でグループができる。
馬車一台につき勇者1人と子供たち9人は、そんなコミュニケーションを図る意図がある。
そのまま10人を中心にで討伐パーティになることも多い。
少し話を脱線させる。
この世界の討伐パーティは10人以上の構成が多い。
魔王討伐にかぎらず、魔人や魔物の討伐、修行でも戦いつつ各地を移動する長旅になる。
街や村があるときはそこに泊まれば良いが、ダンジョンや奥地の遠征ではテント生活を強いられることになる。
長時間の移動やテント生活は常に魔類との遭遇の可能性があるため、回復魔法があってもやはり精神的にも体力的にも辛いものである。
万全を期して戦いに備えるために、パーティには主に戦闘のみを行うメンバー以外に支援メンバーが必要になる。
支援メンバーは戦闘で前面に出ない代わりに、物資の持ち運び、テントの設置片付け、食事の調達・調理、武器、防具の手入れ、魔道具や各種ポーションの作成、夜警などを行う。
もちろん支援メンバーも必要に応じて戦闘に加わるし、戦闘メンバーもいろいろな雑務を行う。パーティは助け合って長期の遠征を成功させる。
支援メンバーも重要なパーティメンバーである。
魔物や魔獣が多く生息する地で、夜警や食料や薬草の調達を行う支援メンバーは欠かせない仲間となる。
特に夜の闇に紛れて忍び寄る魔獣の相手に対しパーティメンバーの安全を確保するには相応の実力が必要となる。支援メンバーも勇者や戦闘メンバーと共に修行を行い、成長していく必要がある。
そんな支援メンバーとして、騎士や平民の子供が選抜され各パーティに配属される。
冒険家パーティと異なり身分制度が色濃く出ている組織編成になるが仕方ないのだろう。
馬車に乗り合わせる10人構成は少なからず討伐パーティを意識して編成されている。
今朝の揉め事に話を戻そう。
予定では、集合場所にやってきた選抜組の子供たちのうち、王侯貴族の子弟は予め例の夜間会議で決められた勇者の馬車に案内される。
そう、連日の夜間会議でジレス司教と王国貴族間で調整されたとおりに。
騎士の子弟は乗り込む馬車が決められていないので、王族貴族の子弟が乗り込んだ後、当日調整されて馬車に乗り込み、平民の子はその後に空いている席に適当に乗り込む予定であった。
計画では勇者1名、王侯貴族の子6名、騎士の子1名、平民の子2名となるようになっている。
貴族の子弟が馬車に乗り込む少し前、ミノルの馬車に乗り込む予定であった貴族の親たちが騒ぎ始めた。
その集団の後方には今回子供が参加していない公爵や侯爵の使者の姿も見える。
公爵や侯爵は王族ともつながりが強い。
不満のあった貴族が王族に近い公爵や侯爵に泣きついたのだろう。
パーティは必ず10名でならないことはない。
11名でも12名でも構わない。
公爵たちの口添えで、編成を変えられないか交渉を始めたのだ。
編成の責任者のジレス司教にとって、自身の将来のためにも敵を作るのは好ましくない。
彼は、公爵たちが子供たちを送り出した王侯貴族を公爵たちで説得してくれるなら、との条件で編成を変えることを承諾した。
公爵は王族とも親戚関係だ。
公爵たちは満足げに説得の役割を果たす約束した。
ミノルは子供たちが一緒に乗るのを拒否されたことが分かり少なからずショックを受けた。
そこまで避けられてしまっているのかと。
ハジメにも前世の知識があるので、彼らの行動も理解できる。
貴族の世界は世襲するには厳しい。
長男は家を継げる。
次男は長男にもしもがあったときのために住む場所と職が保障される。
だが三男以降は職を得なくてはならない。
三男以降で人気の職業はやはり騎士だ。
騎士団への入団はエリートコースと言える。
騎士は貴族の恩恵の一部を受けられるからだ。
特にこの世界では魔物がいるため、騎士の活躍の機会は多い。
活躍次第では男爵・準男爵に陞爵されることもある。
貴族の三男以降にとって、その騎士よりも勇者の従者は魅力的だ。
もっとも誉れ高い活躍のを期待できる職だ。
優れた勇者に従い活躍することで道が開かれる場合も多い。
優れた勇者の下では、自ずと生存確率も高くなるであろう。
頼れる勇者の下には、やはり優秀な従者が集まるからだ。
それが一緒に生死を掛ける勇者が、まさかの『沈黙のミノル』では抵抗したくもなると言うものだ。
そしてもう一つ、その時のミノルが知らない眷属従者のことも、勇者を選ぶ大きな基準になる。
勇者の眷属になれ少なからず、神から加護を受けられる。
例えば、眷属従者にも戦闘時に魔力がプラス補正されたりする。
他にもいろいろ加護が期待できる
しかし、話はそれほど単純ではでない。
加護の多寡と眷属の成り易さがある。
まずは加護の多寡だが、幸いにして眷属になれたとして、受けられる加護は勇者が受ける加護の多寡で決まる。
概ね眷属が受ける加護は、勇者の加護の60%程度と経験的にわかっている。
それは、長年の修行や冒険で培われた一流の冒険者の目安はレベル31以上と言われている。それが加護のある勇者なら半分にも満たない期間で、眷属従者もそれにならい短い期間で同じレベルに到達すると言われている。
これが加護の高いであろう勇者の従者になりたい理由だ。
加護が低ければ、一般の人と変わらないことになる。加護の低い勇者に付くと『勇者を間違えた!』となるのだ。
ミノルの身体能力や魔法能力の加護は微だ。ミノルの眷属に成っても身体能力や魔法能力の加護はほんの僅かだ。
それに『長寿』と言う、過去に例のない加護。
それはとても優秀な加護かもしれないし、糞加護かもしれない。糞を付けるのさすがに失礼か。海の物とも山の物ともわからない博打加護を避け、確実な加護を得たい気持ちがどしても働く。
そして眷属への成り易さの問題もある。
勇者の眷属になるには、心の奥底の魂の繋がりを神が認めたら、と言われている。
心の繋がりを持つのは容易なことではない。
勇者を真に大切に思い尊敬し、従者自身も勇者から同じ思いを得なければならない。
勇者の人間性は概ね問題ない。
勇者として召喚されるには勇者になりたい強い希望とともに、正義感や責任感が強く、心根も正しい者と言う条件があるためだ。
問題は勇者のことを本当に心から大切に思い尊敬できるかだ。
しかし、人には欲がある。
『隣の芝生は青い。
隣の勇者が優れて見える。』
そうならないためにも、始めから『この勇者となら・・・』と感じる勇者に従事することが心の繋がりを持つのに優位に働く。
迷いが無ければ、この勇者のために何でもしようと早くに覚悟も決められる。
迷いが無く真心で接すれば、従者としだけでなく真の友として認められやすくなる。
彼らにとって、陛下の前での失態は一大事だった。
彼らにとっては有ってはならない失敗なのだ。
そして人格障害があるのではとの噂が決定打となっていた。
そんなこんなの思惑や理由があり、『眷属に値しない沈黙の勇者』のレッテルが貼られ、従者になることを避けられた。
命を懸けて魔王や魔人、魔物に向かうのだ。
妥協をしたくないだろう。
眷属従者に不死性は無い。
沈黙の勇者ミノルに従い犬死するのはごめんだ。
どうせ命を懸けるのなら、真の友となり得る勇者の眷属となり、英雄として活躍したい。
そう言う気持ちなのだろう。
他の勇者たちは、ミノルが貴族の親たちに激しく拒否されるのを見て、そこはかとなく不安を感じている。
『勇者の力は絶対だが、この世界の権力者に放置されたら、たった一人で何が出来ようかと』。彼らも王侯貴族を始め、周りと上手くやって行きたいのだ。
一人、王侯貴族から距離を置かれるミノル。
この揉め事は、他の勇者からも距離を置かれる発端となった。
ジレス司教と引率の騎士は、公爵たちとの話し合いも無事に済み、混乱が収まり安堵の表情だ。
ミノルには悪いと思うが、誰しも権力者と揉めたくないと思っているだろう。
ミノルはまだ知らないが、陛下からの密命も受けていたようだ。
ミノルと同じ馬車に乗らなくて済むことになった貴族の親も子供も、満足顔だ。
彼らに恩を売ることが出来た公爵や侯爵たちも満足げだ。
このようにして、ミノルの従者が減る編成が行われることになって混乱が収まると思われたのだが。
更にハプニングが起きた。
重なるときに重なる。
良くある偶然だ。